サッカーW杯カタール大会

カタール 移民労働の現在(中)

ニュース記事 | 2022/11/29
サッカー第22回ワールドカップ(W杯)カタール大会が始まりました。同国とILOは大規模な労働改革を支援するプログラムを実施し、何十万人もの労働者の労働・生活環境が改善されました。この連載ではILOの支援と今後の課題についてご紹介しています。

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1件の事故も起きてはならない

W杯開催準備のため、カタールは大規模な建設計画を始め、スタジアムやホテル、道路、公共交通機関などのインフラ建設を行いました。しかし、労働災害の報告にはばらつきがあり、同国における労災の実数に疑問の声が上がっています。ILOは、新しく開発した手法で、カタール政府やその他の主要機関と協力してこの問題に関する最も包括的なデータを提示する報告書を公開しました。労働安全衛生とその検査に関する新しい政策を採用・実施するとともに、熱中症予防もILOが取り組んでいる優先事項です。

労働安全衛生の課題

ILOの報告書One is too many(2021年11月)によると、2020年に少なくとも労働者50人が犠牲となり、500人以上が重傷を負っています。ILOはカタール政府をサポートして、データ収集の質を向上させています。現在は国内のさまざまな機関が異なる定義を用いており、統一された手法もありませんが、労働安全衛生専門の部署がカタール労働省に設置され、労働災害の防止と労働者保護に向けた法律順守に力を入れる予定です。上記のOne is too manyは、業務に関連する可能性がありながら現在は分類されていない負傷や死亡を調査するためにさらに取り組みを重ねる必要があると強調しています。(このような取り組みが実現すれば)労働者とその家族が業務上の負傷・疾病の場合に補償を受けられるようになります。

司法へのアクセスを改善する

労働改革の前は、労働者が使用者と争った場合に苦情を申し立てる手段は非常に限られていました。過去数年間、カタールは労働者が司法サービスにアクセスしやすくするための措置を取ってきました。2021年から2022年にかけ、労働者から同国労働省に寄せられた苦情は1万1千件から2万5千件に増加しました。労働者が苦情を申し立てるオンラインプラットフォームが新たに設置されたためです。2021年10月から1年の間に、67%の苦情が調停前または調停段階で解決され、残りは新たに創設された労働裁判所に付託されました。ほとんどの場合(2021年から2022年では84%)、労働者側に有利な判決が言い渡されました。

司法サービスの課題
現在は労働者が苦情を申し立ててからしかるべき賃金や手当を受け取るまでに数カ月かかることがあります。苦情処理は難しく、労働者側にとって書類の記入や裁判準備に関する案内が必要です。現在、紛争解決についての包括的な研修がつくられています。調停を担当する職員のスキル向上だけでなく、手順を標準化し、苦情処理の効率性を監視する動きもあります。

労働者の声に耳を傾ける

カタールの法律では、外国人労働者が労働組合を結成したり、加入したりすることは認められていません。労働改革以前は、労使間の対話の場は極めて限られていました。 カタール政府と交渉する際、ILOにとっての最優先事項に労働者の代表性と(政府、労働者、使用者の三者が交渉、協議、情報交換などを行う)社会対話がありました。
社会対話はさまざまな形で実施され、新しい法律ができてからは企業レベルで労使合同委員会が設立されるようになりました。

社会対話の課題
企業内に労働者と経営陣からなるこの労使合同委員会を設置するかどうかは、企業の自主性に委ねられています。ILOの調査では、一定規模の企業に対しては委員会設置を義務化できるのではと可能性を探っています。カタール労働省はILOの支援を受け、運輸、建設、接客などの業界で労使合同委員会の数を増やし、社会対話の基盤づくりを進めています。ILOは、産業レベルでのより幅広い社会対話の目的を支援するため、部門別組織の設立も提案しています。

※以上はジュネーブ発英文インフォストーリー の抄訳です。3回に分けて掲載しています。