サッカーW杯カタール大会

カタール 移民労働の現在(上)

ニュース記事 | 2022/11/28
サッカーの第22回ワールドカップ(W杯)カタール大会が始まりました。同国をめぐっては「移民の労働力を搾取している」「強制労働が行われている」という報告が寄せられてきました。2014年の第103回ILO総会 では、複数の代表がカタール政府が国際法に沿って移民労働者の権利を保護するのに十分な法的枠組みを維持していないなどとして、苦情申立を行いました。同国とILOは厳しい交渉を重ね、大規模な労働改革を支援するプログラムを実施。何十万人もの労働者の労働・生活環境が改善されましたが、継続的な取り組みが必要です。

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転職の自由
かつてカタールでは、労働者が転職する際に使用者の許可が必要でした。この「カファーラ保証人制度」は、労働者の使用者に対する過度な依存を生み出し、萎縮させる制度でした。2020年の法改正で、労働者は契約を終了し、転職を希望する労働者は勤続期間に応じて1カ月もしくは2カ月前までに書面による退職通知を出せば転職できるようになりました。また、移民労働者(家事労働者を含む)が出国する際の雇用主による許可は不要になりました。 法改正後の2年間で承認された転職申請は35万件以上に上り、同国の経済に好結果をもたらしています。

転職の課題

カタールの労働法改正は大きなものでした。使用者が労働者の生活に対する過度な管理が引き起こしていた強制労働リスクは軽減されました。しかし、多くの労働者が離職や転職に際して滞在許可証の取り消しや、虚偽の告発(「逃亡」など)などの報復を使用者から受けており、依然として高いハードルが存在しています。カタール労働省や内務省は、電子システムを連携して情報を相互に確認し合い、使用者による報復行為を防いでいますが、こうした行為をやめさせるにはさらに取り組みが必要です。労働力移動に関する情報の欠如も、転職の重要な障害となっています。手続きや規制を明確にして、全ての労働者、使用者に周知させ、法改正の利点を生かせるようにしないといけません。

正当な賃金を
カタールは2021年3月、湾岸諸国で初めて、家事労働を含む全ての業種で、国籍を問わずに適用される非差別的最低賃金を採用。労働者の13%に当たる28万人が最低賃金に引き上げられました。 使用者はカタールの銀行を通じ従業員に賃金を振り込むことが義務付けられました。同国労働省は賃金面での違反を減らすために使用者の銀行送金を監視しています。

賃金の課題

賃金支払い保護の措置は成功しましたが、いまだ多くの労働者が給与の支払いを何カ月も待っています。賃金不払いに対する罰則が強化され、より厳しい取り締まりが行われるようになりました。政府は基金を設立し、2019年以降、労働者に3億5千万米ドルを支出しています。この規模をみても適切な賃金支払いがなされていなかったことがわかります。 国際基準に沿って最低賃金を見直すには、生活費を含むデータを収集する必要があります。カタールの最低賃金委員会は、労働者、使用者の各代表と協議し、最低賃金の定期的な見直しと調整案を提示していくべきです。

※以上はジュネーブ発英文インフォストーリーの抄訳です。3回に分けて掲載します。