1971年の労働者代表勧告(第143号)

ILO勧告 | 1971/06/23

企業における労働者代表に与えられる保護及び便宜に関する勧告(第143号) 


 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十一年六月二日にその第五十六回会期として会合し、
 千九百七十一年の労働者代表条約を採択し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である企業における労働者代表に与えられる保護及び便宜に関する提案の採択を決定し、
 その提案が勧告の形式をとるべきであると決定して、
 次の勧告(引用に際しては、千九百七十一年の労働者代表勧告と称することができる。)を千九百七十一年六月二十三日に採択する。

Ⅰ 実施方法

1 この勧告は、国内法令若しくは労働協約により又は国内慣行に適合するその他の方法で実施することができる。

Ⅱ 一般規定

2 この勧告の適用上、「労働者代表」とは、国内法令又は国内慣行の下で労働者代表と認められる者をいい、次のいずれに該当するかを問わない。
 (a) 労働組合代表、すなわち、労働組合又は労働組合員が指名し又は選挙した代表
 (b) 被選出代表、すなわち、企業の労働者が国内法令又は労働協約に従つて自由に選挙した代表であつて、その任務に当該国において労働組合の専属的特権として認められている活動が含まれていないもの
3 国内法令、労働協約、仲裁裁定又は裁判所の判決は、この勧告に定める保護及び便宜を受ける権利を有する労働者代表の種類を決定することができる。
4 同一企業内に労働組合代表及び被選出代表の双方が存在する場合には、被選出代表の存在が当該労働組合又はその代表の地位を害するために利用されることがないようにし、かつ、被選出代表と当該労働組合及びその代表との間のすべての関係事項に関する協力を奨励するため、必要に応じて適当な措置をとるべきである。

Ⅲ 労働者代表の保護

5 企業における労働者代表は、現行の法令、労働協約又は労使の合意に基づくその他の取決めに従つて行動する限り、労働者代表としての地位若しくは活動、組合員であること又は組合活動への参加を理由としてとられる解雇等のそれらの者にとつて不利益な措置に対する効果的な保護を享有すべきである。
6(1) 一般に労働者について適用される十分な関係保護措置がない場合には、労働者代表の効果的な保護を確保するために、特別な措置をとるべきである。
 (2)  (1)の措置には、次のことを含むことができる。
  (a) 労働者代表の雇用の終了を正当とする理由を詳細かつ明確に定義すること。
  (b) 労働者代表の解雇が確定する前に、公的若しくは私的な独立の機関若しくは合同の機関と協議し又はこれらの機関の助言的意見若しくは同意を求めることを要求すること。
  (c) 特別な訴えの手続が、雇用を不当に終了させられ、雇用条件が不利に変更され又は不公平な取扱いを受けたと考える労働者代表に対して開かれていること。
  (d) 労働者代表の不当な雇用の終了については、効果的な救済措置(当該国の法律の基本原則に反する場合を除くほか、不払賃金を支払いかつ既得権を保有させたうえその代表を復職させることを含む。)をとること。
  (e) 労働者代表が解雇されたこと又はその雇用条件が不利に変更されたことが差別的であると申し立てられている場合には、その措置が正当であることを立証する責任を使用者に負わせることを規定すること。
  (f) 労働力を削減する場合に労働者代表がその職に残留することについて与えられる優先権を承認すること。
7(1) 5の規定に基づいて与えられる保護は、労働者代表として選挙され又は指名されるための候補者となつた労働者又は現存の適当な手続により候補者として指名された労働者についても適用されるべきである。
 (2) 同じ保護は、労働者代表でなくなつた労働者にも与えることができる。
 (3) この7に規定する者がそのような保護を享有する期間は、1の実施方法によつて決定することができる。
8(1) 雇用されていた企業における労働者代表としての任期の終了に際しその企業に復職する者は、それらの者のすべての権利(職務の性質、賃金及び先任権に関連するものを含む。)を保持し又は回復すべきである。
 (2) 労働者代表の任務を主として当該企業外で遂行した労働者代表について(1)の規定を適用すべきであるかどうか及びどの程度適用すべきであるかの問題は、国内法令、労働協約、仲裁裁定又は裁判所の判決にゆだねるべきである。

Ⅳ 労働者代表に与えられるべき便宜

9(1) 労働者代表がその任務を迅速かつ能率的に遂行することができるように、企業における適切な便宜が労働者代表に与えられるべきである。
 (2) その場合には、国内の労使関係制度の特性並びに当該企業の必要、規模及び能力を考慮すべきである。
 (3)  (1)の便宜の供与は、当該企業の能率的な運営を妨げるものであるべきではない。
10(1) 企業における労働者代表は、企業におけるその代表としての任務を遂行するため、賃金又は社会的及び付加的給付を喪失することなく必要な休暇を与えられるべきである。
 (2) 関係規定がない場合には、労働者代表は休暇をとる前にその直属の監督者又はこの目的のために指名された他の適当な経営者の代表から許可を受けるように要求されることがあるものとし、この許可を不当に差し控えてはならない。
 (3)  (1)の規定に基づいて労働者代表に与えられる休暇はその時間の合計につき合理的な制限を設けることができる。
11(1) 労働者代表は、その任務を効果的に遂行することができるように、労働組合の会合、訓練コース、セミナー、会議及び大会に出席するために必要な休暇を与えられるべきである。
 (2)  (1)に規定する休暇は、賃金又は社会的及び付加的給付を喪失することなく与えられるべきである。ただし、それらに伴う費用をだれが負担すべきであるかという問題は、1の実施方法によつて決定することができる。
12 企業における労働者代表は、その代表としての任務の遂行を可能にするために必要な場合には、企業内のすべての職場への立入りを認められるべきである。
13 労働者代表は、その任務の適正な遂行のために必要な場合には、企業の経営者及び決定権限を有する経営者の代表に接近する機会を不当に遅れることなく与えられるべきである。
14 労働組合費の徴収につき他に取決めがない場合には、労働組合により労働組合費を徴収する権限を与えられた労働者代表は、事業場内において定期的に労働組合費を徴収することを認められるべきである。
15(1) 労働組合を代表する労働者代表は、事業場内において経営者と合意しかつ労働者が容易に接近しうる場所に労働組合の告知を掲示することを認められるべきである。
 (2) 経営者は、労働組合を代表する労働者代表に対して、新聞、パンフレット、出版物及び組合のその他の文書を企業の労働者の間に配布することを許可すべきである。
 (3) この15にいう組合の告知及び文書は、正常な労働組合活動に関するものであるべきであり、また、それらの告知及び文書の掲示及び配布は、企業の秩序ある運営を妨げるものであつてはならない。
 (4) 2(b)に掲げる被選出代表である労働者代表は、労働組合を代表する労働者代表に与えられる便宜と同様の便宜であつて、被選出代表としての任務に合致する便宜を与えられるべきである。
16 経営者は、1の実施方法によつて決定される条件により及び範囲内で、労働者代表がその任務の遂行に必要な物的便宜及び情報を利用することができるようにすべきである。
17(1) 当該企業に雇用されていない労働組合代表は、その代表の所属する労働組合がその企業に雇用されている組合員を有する場合には、その企業に立ち入る機会を与えられるべきである。
(2) そのような立入りに関する条件の決定は、1及び3の実施方法によるべきである。