2003年の船員の身分証明書条約(改正)(第185号)

ILO条約 | 2003/06/19

1958年の船員の身分証明書条約を改正する条約(第185号)
(日本は未批准、仮訳)
(附属書I、II、IIIはILO駐日事務所による仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーブに招集されて、二千三年六月三日にその第九十一回会期として会合し、
 旅客及び船員の保安、船舶の安全、各国の国家的利益並びに個人に対する継続的な脅威に留意し、
 また、相応な労働条件を促進する国際労働機関の中核的な責務に留意し、
 海運業が地球的規模の性格を有することにより、船員が特別の保護を必要としていることを考慮し、
 上陸、通過、移動又は送還のための加盟国の領域への船員の入国の簡易化に関し、千九百五十八年の船員の身分証明書条約に定める原則を認め、
 国際海事機関において採択された千九百六十五年の国際海上交通の簡易化に関する条約(その改正を含む。)、特にその標準規定3.44及び3.45に留意し、
 さらに、各国がテロリズムに対処するためのいかなる措置も、国際法、特に国際的な人権、難民及び人道法に基づく義務に適合していることを確保しなければならないことを、国際連合総会決議A/RES/第二百十九号(第五十七回会期)(テロリズムに対する人権及び基本的自由に関する保護)が確認していることに留意し、
 船員が国際貿易に関係する船舶内において労働し及び生活すること、並びに陸上施設の利用及び上陸が船員の一般的な福祉の不可欠な要素であり、その結果、一層安全な航海及び一層清浄な海洋となることを認識し、
 また、上陸することができることが、乗船し、同意された業務の期間の後に下船するために不可欠であることを認識し、
 二千二年十二月十二日に国際海事機関の外交会議において採択された海上における安全及び保安を促進するための特別措置に関する千九百七十四年の海上における人命の安全のための国際条約(その改正を含む。)の改正に留意し、
 前期の会期の議事日程の第七議題である船員身分証明の保安改善に関する提案の採択を決定し、
 この提案が千九百五十八年の船員の身分証明書条約を改正する国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、二千三年の船員の身分証明書条約(改正)と称することができる。)を二千三年六月十九日に採択する。

第 一 条 適用範囲

1 この条約の適用上、「船員」とは、資格のいかんを問わず、通常海洋航行に従事する船舶(軍艦を除く。)内で、雇用され、従事し又は就労するすべての者をいう。
2 いずれの範疇の者をこの条約の適用上船員と認めるべきかについて疑義がある場合には、この問題については、当該者の国籍国又は当該者が通常居住している国の権限のある機関が、関係のある船舶所有者団体及び船員団体と協議の上、この条約に従って決定する。
3 権限のある機関は、漁船の所有者及び漁船で就労する者の代表的な団体と協議を行った後、この条約を商業的な海上漁業に適用することができる。

第 二 条 船員身分証明書の発給

1 この条約の適用を受ける加盟国は、自国民である船員に対し、その者の申請に基づいて、次条の規定に合致した船員身分証明書を発給する。
2 この条約に別段の定めがない限り、船員身分証明書の発給は、旅行証明書の発給に関する国内法令に定める条件と同様の条件に従うことができる。
3 加盟国は、また、自国の領域に永住することを認めた船員に対し、1に規定する船員身分証明書を発給することができる。永住者は、いかなる場合にも、第六条7の規定に従って移動する。
4 加盟国は、船員身分証明書が不当に遅滞することなく発給されることを確保する。
5 船員は、1の申請が拒否された場合には、行政上の不服の申立てを行う権利を有する。
6 この条約は、難民及び無国籍者に関する国際取極に基づく加盟国の義務に影響を及ぼすものではない。

第 三 条 内容及び様式

1 この条約の対象とされている船員身分証明書の内容は、附属書Ⅰに定める様式に合致するものとする。身分証明書の様式及び身分証明書に使用される材料は、この様式に定める一般的な要件であって次の基準に基づくものに適合するものとする。附属書Ⅰは、特に技術的発展を考慮して、第八条の規定に従って必要に応じて改正することができる。ただし、その改正が2から10までの規定に適合することを条件とする。改正を採択する決定は、船員身分証明書及び手続に関して必要な改正を行うために十分な時間を加盟国に与える必要性を考慮して、当該改正が効力を生ずる時期を明示する。
2 船員身分証明書は、簡易な様式のものとし、また、海上における状況に特別の考慮を払った耐久性のある材料で作成され、かつ、機械による読取りが可能なものとする。使用される材料は、次のとおりとする。
 (a) 可能な限り証明書の改ざん及び偽造を防止するものであり、かつ、変更箇所を容易に発見することができるものであること。
 (b) (a)に定める目的の確実な達成に適合し、かつ、政府が最低費用で一般的に利用することができること。
3 加盟国は、使用されるべき技術基準に関し国際労働機関によって作成される利用可能な指針であって、共通の国際基準の使用を促進するものを考慮する。
4 船員身分証明書は、通常の旅券よりも大きいものとしてはならない。
5 船員身分証明書には、発給機関の名称、当該機関との迅速な連絡を可能にする表示、発給の日及び場所並びに次の記載を含む。
 (a) この証明書は、国際労働機関において採択された二千三年の船員の身分証明書条約(改正)のための 船員身分証明書である。
 (b) この証明書は、独立した文書であり、旅券ではない。
6 船員身分証明書の有効期限は、発給国の法令に従って決定されるものとし、最初の五年の後に更新することを条件として、いかなる場合にも十年を超えてはならない。
7 船員身分証明書に記載する所持者に関する事項は、次の事項に限られる。
 (a) 氏名(可能な場合には姓及び名)
 (b) 性別
 (c) 生年月日及び出生地
 (d) 国籍
 (e) 身元確認に役立ち得る特別な身体上の特徴
 (f) デジタル式又は通常の写真
 (g) 署名
8 7の規定にかかわらず、船員身分証明書には、所持者の生体認証情報のテンプレート又は他の表示であって附属書Ⅰに定める要件を満たすものを含むことが要求される。ただし、次の前提条件が満たされることを条件とする。
 (a) 関係者のプライバシーを侵害せず、不快感を与えず、健康に危険を及ぼさず又は尊厳を傷つけることなく、生体認証情報を獲得することができること。
 (b) 生体認証情報は、それ自体、証明書において視認することができるものとし、テンプレート又は他の表示から当該生体認証情報を復元することができないこと。
 (c) 生体認証情報の提供及び検査のために必要な設備は、使いやすく、一般的に各国の政府が最低費用で利用することができること。
 (d) 生体認証情報の検査のための設備は、権限のある機関が通常身元の確認を行う港その他の場所(船舶内を含む。)において、簡便かつ確実に使用することができること。
 (e) 生体認証情報が使用される制度(設備、技術及び使用手続を含む。)により、身元の確認について統一的で確実な結果をもたらすこと。
9 証明書に記録される船員に関するすべての情報は、視認することができるものとする。船員は、自己に関する情報であって視認することのできないものを検査することができる機械に容易にアクセスすることができるものとする。発給機関又はこれに代わる機関は、このようなアクセスを提供する。
10 船員身分証明書の内容及び様式は、附属書Ⅰに定める関連する国際基準を考慮に入れる。

第 四 条 国内の電子的なデータベース

1 加盟国は、発給し、停止し又は取り消した船員身分証明書の記録が、電子的なデータベースに保管されることを確保する。妨害又は不正利用から当該データベースを保護するため、必要な措置をとる。
2 1の記録に含まれる情報は、船員身分証明書又は船員の身分を検査するため不可欠であり、船員のプライバシーについての権利と両立し及びすべての関係情報の保護についての要件を満たす細目に限られる。この細目は、国内のデータベース・システムの必要な改正を行うために十分な時間を加盟国に与える必要性を考慮して、第八条に定めるところによって改正することができる附属書Ⅱに定める。
3 加盟国は、船員身分証明書の発給を受けた船員が、費用を負担することなく、自己に関するすべてのデータであって電子的なデータベースに保管されているものの有効性を検査し及び必要な場合には修正することができる手続を設ける。
4 加盟国は、自国の機関によって発給された船員身分証明書の真正性及び有効性に関して、国際労働機関のすべての加盟国の出入国管理機関その他の権限のある機関からの調査に応ずる常設の中央連絡先を指定する。当該中央連絡先の詳細については、国際労働事務局に通報するものとし、同事務局は、国際労働機関のすべての加盟国に通報する一覧表を保持する。
5 2の細目は、国際労働機関の加盟国の出入国管理機関その他の権限のある機関が、電子的に又は4に規定する中央連絡先を通じて、いつでも速やかに利用することができる。
6 この条約の適用上、いかなるデータ(特に写真)も交換されないことを確保するための適切な制限を設ける。ただし、関係情報の保護及びプライバシーに関する基準が遵守されることを確保する制度がない場合は、この限りでない。
7 加盟国は、電子的なデータベース上の個人情報が船員身分証明書の検査以外の目的で使用されないことを確保する。

第 五 条 質の管理及び評価

1 船員身分証明書の発給についての方法及び手続に関する最小限の要件(質の管理に関する手続を含む。)は、附属書Ⅲに定める。このような最小限の要件は、船員身分証明書の発給についての制度の運用において、加盟国が達成しなければならない強制的なものとして定める。
2 必要な安全を確保するための方法及び手続は、次のとおりとする。
 (a) 未記入の船員身分証明書の作成及び送付
 (b) 未記入の及び記入された船員身分証明書の保管及び取扱い並びにこれらの船員身分証明書に係る責任
 (c) 申請書の処理並びに船員身分証明書の発給及び送付について責任を有する機関及び当局による未記入の船員身分証明書への個人情報の記入
 (d) データベースの運用及び保持
 (e) 手続の質の管理及び定期的な評価
3 2の規定に従うことを条件として、附属書Ⅲは、船員身分証明書の方法及び手続の必要な改正を行うために十分な時間を加盟国に与える必要性を考慮して、第八条に定めるところによって改正することができる。
4 加盟国は、少なくとも五年ごとに、船員身分証明書の発給に関する制度(質の管理に関する手続を含む。)の運用についての独立した評価を行う。当該評価に関する報告については、秘密の要素を削除することを条件として、国際労働事務局長に提出し、その写しを関係加盟国の代表的な船舶所有者団体及び船員団体に提出する。この報告についての要請は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づく加盟国の義務に影響を及ぼすものではない。
5 国際労働事務局は、4の評価に関する報告を加盟国が利用することができるようにする。この条約によって認められる開示以外の開示については、報告を行った加盟国の同意を必要とする。
6 すべての関連する情報に基づいて行動する国際労働機関の理事会は、自己が定める手続に従い、1に規定する最小限の要件を完全に満たす加盟国の一覧表を承認する。
7 6の一覧表は、国際労働機関の加盟国がいつでも利用することができなければならず、また、適当な情報を受領することができるように更新されなければならない。特に、加盟国は、いずれかの加盟国が8に定める手続の枠組みにおいて当該一覧表に掲げることについて確固たる根拠をもって争われる場合には、速やかに通報を受ける。
8 理事会が定める手続に従い、一覧表から除外された又は除外される可能性のある加盟国並びにこの条約を批准した加盟国の関係政府並びに代表的な船舶所有者団体及び船員団体が、6に規定する手続に従って自己の意見を理事会に表明し及び意思の相違を公正かつ公平に適切な時期に解決するための規定を定める。
9 加盟国が発給する船員身分証明書の承認は、1に規定する最小限の要件を満たすことを条件とする。

第 六 条 船員の上陸、通過及び移動の簡易化

1 この条約の適用を受ける加盟国がこの条約に従って発給した有効な船員身分証明書を所持する船員は、当該船員身分証明書の真正性を疑う明白な根拠がある場合を除くほか、この条約に定義する船員と認める。
2 3から6まで又は7から9までの規定に基づき、入国を要求する船員がこの条約に定める要件に従って発給された船員身分証明書の所持者であることを確保するために必要な検査並びに関連する調査及び手続については、船員又は船舶所有者に費用を負担させない。

上陸

3 権限のある機関が当該所持者の到着に係る合理的な事前通知を受けている場合には、2に規定する検査並びに関連する調査及び手続は、可能な限り短時間で行う。当該所持者の到着の通知には、附属書Ⅱ第一節に定める細目を含む。
4 この条約の適用を受ける加盟国は、当該船員身分証明書の真正性を疑う明白な根拠がある場合を除くほか、入国が船舶の寄港中における一時的な上陸のために要求されるときは、有効な船員身分証明書を所持する船員に対し可能な限り短時間で、その入国を許可する。
5 船舶の到着に関する手続が履行され、かつ、公衆衛生、公共の安全、公の秩序又は国家の安全保障を根拠として権限のある機関が上陸の許可を拒否する理由がない場合には、4に規定する入国は認められる。
6 船員は、上陸を目的とする場合には、査証の所持を要求されない。この要件を完全に履行することができない加盟国は、実質的に同等である措置を自国の法令又は慣行に定めることを確保する。

通過及び移動

7 この条約の適用を受ける加盟国は、また、旅券によって補足される有効な船員身分証明書を所持する船員の入国が次の目的のために要求される場合には、可能な限り短時間で、その入国を許可する。
 (a) 自己の所属する船舶への乗船又は他の船舶への移動
 (b) 他国にある自己の所属する船舶への乗船若しくは帰国のための通過又は関係加盟国の機関が承認するその他の目的
8 当該船員身分証明書の真正性を疑う明白な根拠がある場合を除くほか、公衆衛生、公共の安全、公の秩序又は国家の安全保障を根拠として権限のある機関が入国を拒否する理由がない場合には、7に規定する入国は許可される。
9 加盟国は、7に掲げるいずれかの目的での自国の領域への入国を許可するに先立って、船員の目的及びその目的を遂行するための能力に関する十分な証拠(文書による証拠を含む。)を要求することができる。また、加盟国は、船員の滞在期間を当該目的のために妥当と認める期間に限定することができる。

第 七 条 継続的な所持及び取消し

1 船員身分証明書は、当該船員の書面による同意により、関係する船舶の船長により保管される場合を除くほか、常時、当該船員が所持するものとする。
2 船員が、この条約に定める船員身分証明書の発給のための条件を満たさなくなったことが確認された場合には、船員身分証明書は、発給国によって速やかに取り消される。船員身分証明書の停止又は取消しの手続は、代表的な船舶所有者団体及び船員団体と協議の上作成されるものとし、行政上の不服の申立てについての手続を含む。

第 八 条 附属書の改正

1 この条約の関連規定に従うことを条件として、附属書の改正は、国際労働機関の正当に構成された三者構成海事理事会の助言に基づいて行動する国際労働機関の総会において行うことができる。総会における決定には、総会に出席する代表が投ずる票の三分の二以上の多数(この条約を批准した加盟国の少なくとも半数を含む。)を必要とする。
2 この条約を批准した加盟国は、1の改正の採択の日から六箇月以内に、当該改正が自国について効力を生じないこと又はその後の書面による通告を行った日の後に効力を生ずることを、国際労働事務局長に書面により通告することができる。

第 九 条 経過規定

 千九百五十八年の船員の身分証明書条約の締約国である加盟国であって、この条約の批准を目的として国際労働機関憲章第十九条の規定に従って措置をとっているものは、この条約を暫定的に適用する意図を国際労働事務局長に通告することができる。当該加盟国によって発給された船員身分証明書は、第二条から第五条までに定める要件が満たされ、かつ、この条約に基づいて発給された船員身分証明書を関係加盟国が受け入れることを条件として、この条約の適用上、この条約に基づいて発給されたものとして取り扱われる。

最終規定

第 十 条

 この条約は、千九百五十八年の船員の身分証明書条約を改正するものである。

第 十 一 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 二 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国で自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国による批准が国際労働事務局長に登録された日の後六箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後六箇月で効力を生ずる。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

1 国際労働事務局長は、加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録についてすべての加盟国に通報する。
2 国際労働事務局長は、二番目の批准の登録について加盟国に通報する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。
3 国際労働事務局長は、関連する通告とともに、第八条の規定に従って行われた附属書の改正の登録についてすべての加盟国に通報する。

第 十 五 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准、宣言及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 六 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、第八条の規定を考慮して、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 七 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第十三条の 規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 八 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。



附属書I
船員身分証明書の様式


1.    本条約第三条の優先要件を前提として、様式及び内容が次のように定められる船員身分証明書(以下「SID」という)は、その証明書に使用される原材料並びにその証明書に含まれるデータの表示及び保管について、機械読み取り可能な渡航文書に関する国際民間航空機関(ICAO)の文書第九三〇三号に規定される機械読み取り可能な電子渡航文書に関する強制要件に合致しなければならず、その際には当該文書の内容に関連する勧告又は助言を十分考慮しなければならないものとする。
2.    「文書第九三〇三号」とは、ICAOが公表し、ICAOの関連する手続に従って追って改正されることがある2015年第7版を指すものと理解される。本附属書における文書第九三〇三号の特定の規定への言及は、第7版への言及とされるが、後続の版の対応する規定にも言及しているものと理解される。国際労働局事務局長は、理事会の要請により、加盟国のため、考慮されるべき文書第九三〇三号の具体的な規定に関するガイダンスを適宜作成することができる。
3.    SIDは、文書第九三〇三号第三部の2「すべての機械読み取り可能な渡航文書に共通の仕様」において定められている身体的な特徴を記載した機械読み取り可能な電子身分証明書とする。目視検査領域及び機械読み取り領域の双方において使用される印刷技術及び書体は、文書第九三〇三号第三部の3及び4にそれぞれ定めるとおりとする。 
4.    SIDには、文書第九三〇三号第九部、第十部、第十一部及び第十二部の規定に従って符号化され、デジタル署名され、かつデータ記憶容量が三十二キロバイト以上の非接触型集積回路が内蔵されなければならない。非接触型集積回路は、文書第九三〇三号第十部に定める論理データ構造(LDS)に関するすべての要件を満たさなければならないが、同第十部において要求されている必須データ要素のみを含めば足りるものとする。非接触型集積回路に記憶される船員のデータの秘匿性は、文書第九三〇三号第十一部に定めるチップアクセス制御の仕組みによって保護されるものとする。LDSに記憶されるデータは、チップ及びそのセキュリティ機能の動作に必要なメタデータ及びファイルのほか、SIDの目視検査領域及び機械読み取り領域において、目視によって認識可能な次のデータ要素に限定されるものとする。
(a)    LDSのデータグループ1: 以下の機械読み取り領域のデータの複製
(b)    LDSのデータグループ2: 本条約第三条8項によって求められる生体認証情報の表示であって、「一次生体認証/顔写真画像」に関する文書第九三〇三号第九部に準拠するもの。この船員の顔写真画像は、下記(o)の写真のコピーとするが、十五乃至二十キロバイトのサイズに圧縮するものとする。
(c)    文書第九三〇三号第十二部に定めるICAO公開鍵基盤(Public Key Infrastructure)を使用してLDSに記憶されるデータの保全性を有効にするために必要な文書セキュリティオブジェクト
5.    SIDは、文書第九三〇三号第二部「MRTDのデザイン、製作及び発給の安全性に関する仕様」の要件を遵守することによって、改ざん、肖像の差し替えその他不正行為から保護されなければならない。SIDは、文書第九三〇三号第二部の別紙Aに含まれる一覧表のうち少なくとも3つの物理的なセキュリティ機能によって保護されなければならない。かかるセキュリティ機能を例示すると次のとおりである。
—    身分証明書の基板又はラミネートの光学的可変性 1
—    身分証明書の基板の触知性 2
—    基板のレーザー穿孔性 3
—    身分証明書の背景の2色からなるギョーシェ装飾の図柄 4
—    背景のマイクロプリントされた文字 5
—    紫外線蛍光インク
—    光学的可変性を有するインク
—    身分証明書に内蔵されるステガノグラフィ画像 6
6.    文書第九三〇三号に記載される身分証明書に内蔵されるデータ要素及びそれらの各種領域内への配置は次のとおりとし、SIDには他のいかなる情報も含まれてはならないものとする。
(a)    発給国: 正式名称をフィールドキャプションを付さずに領域Iに配置
(b)    文書の種類: 「SID」をフィールドキャプションを付さずに領域Iに配置
(c)    「チップ内蔵」記号: 文書第九三〇三号第九部の2.3に記載されたものをフィールドキャプションを付さずに領域Iに配置
(d)    船員の氏名(文書第九三〇三号に定めるとおり、基本識別子で構成される単一フィールドとして記載し、その後ろにカンマ、スペース、第二識別子が順に続く): フィールドキャプションを付して領域IIに配置
(e)    船員の性別(一文字): 女性は「F」、男性は「M」、不特定は「X」をフィールドキャプションを付して領域IIに配置
(f)    船員の国籍(文書第九三〇三号第三部の5の規定に基づき国際標準化機構の3文字の国コードによる): フィールドキャプションを付して領域IIに配置
(g)    船員の生年月日(「日b月b年」の形式(“b”は1シングルスペース)による)(例: 23 03 1982): フィールドキャプションを付して領域IIに配置
(h)    船員の出生地: フィールドキャプションを付して領域IIに配置
(i)    船員の身元確認に役立つ可能性のある特別な身体上の特徴: フィールドキャプションを付して領域IIに配置。発給機関が特定可能な特徴を記録しないこととした場合又は船員が特に特定可能な特徴を有しない場合、このフィールドには「なし」と記入するものとする。
(j)    発給機関がSIDに付与した最長9文字の固有の文書番号: TD3サイズの文書の場合はフィールドキャプションを付して領域Iに、TD1及びTD2サイズの文書の場合はフィールドキャプションを付して領域IIIに配置
(k)    SIDの発給日(「日b月b年」の形式(“b”は1シングルスペース)による)(例: 31 05 2014):フィールドキャプションを付して領域IIIに配置
(l)    SIDの有効期間満了日(「日b月b年」の形式(“b”は1シングルスペース)による)(例: 31 05 2019): フィールドキャプションを付して領域IIIに配置
(m)    SIDの発給場所: フィールドキャプションを付して領域IIIに配置
(n)    船員の署名又は通例のマーク: フィールドキャプションを付さずに領域IVに配置
(o)    文書第九三〇三号第三部に定めた写真の仕様に適合する船員の写真: フィールドキャプションを付さずに領域Vに配置
(p)    次の記載を英語、フランス語又はスペイン語で、フィールドキャプションを付さずに領域VIに配置。
「この文書は、国際労働機関の2003年の船員の身分証明書条約(改正)のための船員身分証明書である。この文書は、独立した文書であり、旅券ではない。」
(q)    発給機関の名称及び本条約の第四条4項に規定する中央連絡先に関する連絡先情報(国コードを含む電話番号若しくはウェブサイトのURL又はその両方): 英語、フランス語又はスペイン語による「発給機関連絡先情報」というフィールドキャプションを付して領域VIに配置
(r)      文書第九三〇三号第三部の4に定める領域VIIに印字される機械読み取り領域で、(TD3サイズの場合は)第四部の4.2、(TD1サイズの場合は)第五部、又は(TD2サイズの場合は)第六部に定めるすべての必須データ要素を含むもの。機械読み取り領域の最初の2文字は、TD1又はTD2サイズの場合は「IS」、TD3サイズの場合は「PK」とする。
7.    次の追加のデータ要素は、TD3サイズの文書にのみ記載するものとする。
(a)    文書コード: 「PK」という文字をフィールドキャプションを付して領域Iに配置
(b)    発給国(文書第九三〇三号第三部の5の規定に基づき国際標準化機構の3文字の国コードによる): フィールドキャプションを付して領域Iに配置
(c)    発給機関の名称: フィールドキャプションを付して領域IIIに配置

1 光学的可変性とは、色又は図柄の見た目が視角又は照明によって変わる画像又は特性をいう。
2 触知性は、文書に独特の「触感」を与える表面の特徴である。
3レーザー穿孔性とは、レーザーを使って基板に穿孔することによって数字、文字又は画像が作成されるプロセスをいう。
4ギョーシェ装飾の図柄とは、当初の図柄を作成する際に使用された装置、ソフトウェア及びパラメータにアクセスすることによってのみ正確に再現することができる独特の画像を形成し、通常はコンピュータによって生成される、連続性のある細かい線の絵柄をいう。
5マイクロプリントとは、0.25 mm/0.7パイカポイントよりも小さい印字された文字又は符号をいう。
6ステガノグラフィとは、一次的な視覚画像内で符号化され又は隠された画像又は情報を使用することをいう。

附属書II
電子的なデータベース

本条約第四条1、2、6及び7項の規定に従って各加盟国が保持すべき電子的なデータベースにおいて記録として提供される細目は、次の事項に限られるものとする。

第 一 節
1.    船員身分証明書(SID)の目視検査領域に記載された発給国
2.    SIDの目視検査領域に記載された船員の氏名
3.    SIDに割り当てられた固有の9桁の文書番号
4.    SIDの有効期間満了、停止又は取消の日(「日b 月 b 年」の形式(“b ”は1シングルスペース)による)(例: 31 05 2019)

第 二 節
1.    SIDの非接触型集積回路に記憶される船員の顔写真の圧縮画像
2.    SIDの目視検査領域に印刷される船員の写真
3.    SIDに関して行われたすべての調査の細目



附属書Ⅲ 船員身分証明書の発給に関する要件並びに勧告される手続及び慣行

本附属書は、本条約第五条の規定に従って各加盟国が採用する船員身分証明書(SID)の発給に関する手続(質の管理に関する手続を含む。)について最低限の要件を定める。
第A部は、SIDの発給に関する制度を実施するに当たり、各加盟国が少なくとも達成しなければならない必須成果を記載する。
第B部は、必須成果を達成するための手続及び慣行を勧告する。第B部は加盟国によって十分考慮されるべきであるが、強制的なものではない。
上記の規定にかかわらず、各加盟国は、国際民間航空機関(ICAO)の文書第九三〇三号に含まれるすべての関連する強制要件を遵守するものとする。用語「文書第九三〇三号」とは、ICAOが公表し、ICAOの関連する手続に従って追って改正されることがある2015年第7版を指すものと理解される。加盟国は、文書第九三〇三号、特に同文書第二部及びその附属書に含まれる関連勧告及び助言を十分に考慮に入れるものとする。

第 A 部 強制要件

1 未記入のSIDの作成及び送付
  未記入のSIDの作成及び送付について必要な安全を確保するための工程及び手続は、次のとおりとする。
 (a) すべての未記入のSIDは、一様な品質とし、その内容及び様式は、附属書Ⅰに定める基準を満たすこと。
 (b) 作成のために使用される材料は、保護され及び管理されること。
 (c) 未記入のSIDは、作成及び送付の工程の間、保護され、管理され、識別され及び追跡されること。
 (d) 作成者は、未記入のSIDの作成及び送付について自己が有する義務を適切に履行する手段を有すること。
 (e) 作成者から発給機関への未記入のSIDの輸送が安全であること。
2 未記入の及び記入されたSIDの保管、取扱い及び責任
  未記入の及び記入されたSIDの保管、取扱い及び責任について必要な安全を確保するための工程及び手続は、次のとおりとする。
 (a) 未記入の及び記入されたSIDの保管及び取扱いは、発給機関が管理すること。
 (b) 未記入の、記入された及び無効となったSID(見本として使用されたものを含む。)は、保護され、管理され、識別され及び追跡されること。
 (c) この工程に関与する者は、自己の立場によって求められる信頼性及び誠実性の基準を満たし、並びに適切な訓練を受けること。
 (d) 権限を与えられた職員の間の責任の分割により、認められていないSIDの発給を防止することを目的とすること。
3 申請書の処理、SIDの停止又は取消し及び不服申立ての手続
  申請書の処理並びにSIDの発給及び送付について責任を有する機関及び当局による未記入のSIDへの個人情報の記入について必要な安全を確保するための工程及び手続は、次のとおりとする。
 (a) 最初の申請及び更新の際にSIDが発給されることを確保する検査及び承認の工程は、次の事項にのみ基づくものであること。
  (i) 申請書に附属書Ⅰに規定するすべての情報が記入されていること。
  (ii) 発給国の法令及び慣行に従って申請者の身元が証明されること。
  (iii) 国籍を有し又は永住者であることを証明すること。
  (iv) 申請者が条約第一条に定義する船員であることを証明すること。
  (v) 申請者、特に二以上の国籍を有する申請者又は二以上の国に永住することを認められた申請者に対し、二以上のSIDを発給しないことを確保すること。
  (vi) 国際文書に定める基本的人権及び自由を適正に尊重しつつ、申請者が保安に対する危険をもたらさないことを調べること。
 (b) この工程が次のことを確保するものであること。
  (i) 附属書Ⅱに規定する事項の明細が、SIDの発給と同時にデータベースに入力されること。
  (ii) 申請者から集められた情報、写真、署名及び生体認証情報が申請者のものであること。
  (iii) 申請者から集められた情報、写真、署名及び生体認証情報が、SIDの処理、発給及び送付を通して、申請に関連していること。
 (c) 発給されたSIDが停止され又は取り消された場合には、データベースの更新が速やかに行われること。
 (d) 船員が自己のSIDの延長若しくは更新を必要とする場合又は自己のSIDを紛失した場合に備えるため、延長又は更新の制度が設けられること。
 (e) 船舶所有者団体及び船員団体と協議した上で、SIDが停止され又は取り消される可能性のある状況について定めること。
 (f) 効果的で透明な不服申立ての手続が存在すること。
4 データベースの運用、保安及び維持
  データベースの運用及び維持について必要な安全を確保するための工程及び手続は、次のとおりとする。
 (a) データベースが改ざん及び不正利用から保護されていること。
 (b) 情報が最新のものであり、情報の喪失から保護されており、かつ、常に中央連絡先を通じて問合せをすることができること。
 (c) データベースが、付加されず、複写されず又は他のデータベースに関連せず若しくは記入されないこと。データベースからの情報が、船員の身元の確認以外の目的で使用されないこと。
 (d) 次の権利を含む個人の権利が尊重されること。
  (i) 個人情報の収集、保管、取扱い及び通信におけるプライバシーの権利
  (ii) 自己に関する情報にアクセスし及び時宜を失することなく誤りが訂正される権利
5 手続の質の管理及び定期的な評価
 (a) 要求される実施基準が満たされていることを確保するため、手続の質の管理及び定期的な評価(工程の監視を含む。)による必要な安全を確保するための工程及び手続は、次のとおりとする。
  (i) 未記入のSIDの作成及び送付
  (ii) 未記入のSID、無効なSID及び個人情報を記入したSIDの保管及び取扱い並びにこれらのSIDに係る責任
  (iii) 申請書の処理並びにSIDの発給及び送付について責任を有する機関及び当局による未記入のSIDへの個人情報の記入
  (iv) データベースの運用、保安及び維持
 (b) 発給制度及び手続の信頼性並びにこれらが条約に定める要件に合致していることを確保するため、定期的な検討を行う。
 (c) 批准した他の加盟国による定期的な評価に関する報告に記載される情報の秘密性を保護するための手続を定める。

第 B 部 勧告される手続及び慣行

1 未記入のSIDの作成及び送付
 1.1 SIDの保安及び統一のため、権限のある機関は、加盟国が発給する未記入のSIDの効果的な作成者を選択すべきである。
 1.2 SIDの発給について責任を有する機関(発給機関)の構内において未記入のSIDが作成される場合には、2.2の規定を適用する。
 1.3 外部の企業が当該作成者に選択される場合には、権限のある機関は、次のことを行うべきである。
  1.3.1 当該企業が疑う余地なく健全であり、財政的に安定しており、かつ、信頼性があることを調べること。
  1.3.2 当該企業に対し、未記入のSIDの作成に従事するすべての被用者を指名するよう要求すること。
  1.3.3 当該企業に対し、指名した被用者の信頼性及び誠実性を確保するための適当な制度があることを証明する証拠を当該権限のある機関に提供するよう要求し、並びに当該被用者に生活のための適当な手段及び雇用の保障を提供することについて当該権限のある機関を満足させるよう要求すること。
  1.3.4 SIDについての当該権限のある機関自身の責任を損なうことなく、特に1.5に定める基準及び指示を定めるべき旨の書面による取決めを当該企業と締結し、並びに当該企業に次のことを要求すること。
   1.3.4.1 守秘の厳格な義務を負う指名された被用者のみが、未記入のSIDの作成に従事することを確保すること。
   1.3.4.2 当該企業の構内から発給機関の構内への未記入のSIDの輸送について、すべての必要な保安措置をとること。発給代理人は、この点に関し、自己に過失がないことを理由として責任を免れることができない。
   1.3.4.3 各運搬物には、その内容の正確な明細書を添付すること。この明細書は、特に、各包装物の中のSIDの参照番号を明記すべきである。
  1.3.5 1.3.4の取決めには、当初の契約者が契約を続けることができない場合に契約の終了を認める規定を定めることを確保する。
  1.3.6 取決めに署名する前に、当該企業が1.3.4に定めるすべての義務を適切に履行する手段を有することを確認すること。
 1.4 未記入のSIDが加盟国の領域外において権限のある機関又は企業により供給される場合には、当該加盟国の権限のある機関は、当該外国の適当な機関に対し、1で勧告される要件が満たされていることを確保するよう委任することができる。
 1.5 権限のある機関は、特に、次のことを行うべきである。
  1.5.1 未記入のSIDの作成に使用されるすべての材料の詳細な基準を設けること。これらの材料は、附属書Ⅰに定める一般的な基準に適合すべきである。
  1.5.2 附属書Ⅰに定める未記入のSIDの様式及び内容に関する正確な基準を定めること。
  1.5.3 異なる印刷機がその後使用される場合には、未記入のSIDの印刷に当たり基準が一様であることを確保すること。
  1.5.4 附属書Ⅰの規定による継続的な方法により、未記入の各SIDに印刷される固有の証明書番号の作成について明確な指示を与えること。
  1.5.5 作成工程の間のすべての材料の保管を規律する正確な基準を設けること。
2 未記入の及び記入されたSIDの保管、取扱い及び責任
 2.1 未記入の、無効となった及び記入されたSIDの保管、SIDに記入するための道具及び材料、申請書の処理、SIDの発給、データベースの維持及び保安等の発給手続に関するすべての運用は、発給機関の直接の管理の下に行われるべきである。
 2.2 発給機関は、発給工程に従事するすべての職員の評価であって、職員それぞれについての信頼性及び誠実性の記録を作成するものを準備すべきである。
 2.3 発給機関は、同じ近親の家族の一員である職員が発給工程に従事しないことを確保すべきである。
 2.4 発給工程に従事する職員個人の責任は、発給機関が適切に定めるべきである。
 2.5 SIDのための申請書の処理及びSIDの作成において要求されるすべての運用を行うことについての責任は、一人の職員が負うべきでない。SIDの発給について責任を有する職員に申請書を与える職員は、発給工程に従事すべきでない。申請書の処理及びSIDの発給に係る異なる任務を遂行する職員は、輪番制であるべきである。
 2.6 発給機関は、次のことを確保する国内規則を定めるべきである。
  2.6.1 未記入のSIDが、日々の運営予定を満たすために必要な限りにおいて、また、SIDに個人情報を記入することについて責任を有する職員又は特別に権限の与えられた職員によってのみ保護され及び譲渡されること。また、余分の未記入のSIDが各日の終わりに返却されること。SIDを保護する措置は、不正利用の防止及び侵入者の発見のための装置の使用を含むものと理解すべきである。
  2.6.2 見本として使用される未記入のSIDが、表面を細工され、かつ、見本であるとの標章を付されること。
  2.6.3 安全な場所に保管される毎日の記録が、未記入のSID及び個人情報が記入された未発給のSIDの所在を維持すること。また、毎日、これらのSIDが保護され及び一又は二以上の特定の職員が所持していることを確認すること。当該記録は、未記入のSID又は未発給のSIDの取扱いに従事しない職員によって保管されるべきである。
  2.6.4 未記入のSIDへの記入について責任を有する職員又は特別に権限を与えられた職員を除くほか、いかなる者も、未記入のSID及びSIDに記入するための道具及び材料にアクセスすべきでないこと。
  2.6.5 個人情報が記入されたSIDが、保護され、SIDの発給について責任を有する職員又は特別に権限を与えられた職員に対してのみ譲渡されること。
   2.6.5.1 特別に権限を与えられた職員は、次の者に限る。
     (a) 当該発給機関の事務局長又は事務局長を公式に代表する者の書面による許可書に基づいて行動する者
     (b) 5に規定する監督者及び監査その他の監督を行うために指名された者
  2.6.6 職員がその家族又は親しい友人からの申請によるSIDの発給工程に従事することを厳格に禁止すること。
  2.6.7 SID若しくはSIDに個人情報を記入するための道具若しくは材料の盗難又はその未遂が、速やかに捜査のために警察当局に報告されるべきであること。
 2.7 発給工程において誤りがある場合には、当該SIDを無効にすべきである。当該SIDは、訂正されず、かつ、発給されない。
3 申請書の処理、SIDの停止又は取消し及び不服申立ての手続
 3.1 発給機関は、SIDの申請書の見直しについて責任を有するすべての職員が、偽造の発見及びコンピュータ技術の使用について関連する訓練を受けることを確保すべきである。
 3.2 発給機関は、当該船員が申請書に署名し及び記入し、身元が証明され、国籍を有し又は永住者であることを証明し並びに申請者が船員であることを証明することに基づいてのみ、SIDが発給されることを確保する規則を定めるべきである。
 3.3 申請書には、附属書Ⅰに強制的なものとして定めるすべての情報を含むべきである。申請書の様式には、申請者が虚偽であることを知りながら記載した場合には、起訴され、刑罰を科されることとなる旨の注釈を付するべきである。
 3.4 SIDが最初に申請される場合及びその後更新が必要であると認められる場合には、
  3.4.1 記入された申請書(署名を除く。)は、発給機関によって指名された職員に対して、申請者自身により、提出されるべきである。
  3.4.2 デジタル式又は通常の写真及び申請者の生体認証情報は、指名された職員の管理の下で取られるべきである。
  3.4.3 申請書は、指名された職員の立会いの下に署名されるべきである。
  3.4.4 申請書は、指名された職員が直接発給機関に処理のため送付すべきである。
 3.5 発給機関は、デジタル式又は通常の写真及び生体情報の保安及び秘密を確保するため、十分な措置をとるべきである。
 3.6 申請者が提供する身元証明に係る証拠は、発給国の法令及び慣行に合致するものとすべきである。当該証拠は、船舶所有者、船長、申請者の他の使用者又は申請者の訓練施設の長によって同一性が認証される申請者の最近の写真とすることができる。
 3.7 国籍を有し又は永住者であることの証明は、通常、申請者の旅券又は永住者としての入国許可証明書によって行う。
 3.8 申請者は、自己が有する他のすべての国籍を宣言すること及び他のいかなる加盟国からもSIDの発給を受けておらず、かつ、申請していないことを確認することを求められるべきである。
 3.9 申請者は、他のSIDを所持している限り、SIDを発給されるべきでない。
  3.9.1 船員が、勤務期間に当たるため、有効期間の満了日又は更新の日に申請をすることができないことを事前に知った場合には、早期の更新制度を適用すべきである。
  3.9.2 勤務期間の予見することができない延長によりSIDの延長が要求される場合には、延長制度を適用すべきである。
  3.9.3 SIDを紛失した場合には、再発給制度を適用すべきである。また、適当かつ臨時の証明書を発給することができる。
 3.10 申請者が、条約第一条に定義する船員であることの証明は、少なくとも次のいずれかのものによって行うべきである。
  3.10.1 従前のSID又は船員降船手帳
  3.10.2 海技免状、資格証明書その他の関連する訓練の証明書
  3.10.3 同等に適切な証拠
 3.11 適当と認められる場合には、補足的な証拠が求められるべきである。
 3.12 SIDの発給機関の権限のある職員は、すべての申請書について、少なくとも次の検査を行うべきである。
  3.12.1 当該申請書が完全に記入され、かつ、記載事実について疑義を生じさせるような不一致がないことについての検査
  3.12.2 提示された内容の詳細及び署名が申請者の旅券その他の信頼することができる文書と対応していることについての検査
  3.12.3 旅券その他の作成された文書が真正であることについて旅券の発給機関その他の権限のある機関とともに行う検査。旅券の真正性に疑義を生じさせる理由がある場合には、旅券の原本を関係当局に送付すべきである。送付しない場合には、関連するページの写しを送付する。
  3.12.4 適当な場合には、提供された写真と3.4.2に規定するデジタル式の写真との比較
  3.12.5 3.6に規定する証明書が外見上真正であることについての検査
  3.12.6 申請者が実際に船員であることを、3.10に規定する証明によって立証することについての検査
  3.12.7 申請者に相当する者が未だSIDの発給を受けていないことを条約第四条に規定するデータベースにおいて確保するための検査。申請者が二以上の国籍又は国籍国の外に住所を有し又は有する可能性がある場合には、他の関係国の権限のある機関に対する必要な調査を行うべきである。
  3.12.8 発給機関にアクセスすることができるすべての関連する国内の又は国際的なデータベースにおいて、申請者に相当する者が保安上の危険の可能性をもたらさないことを確保するための検査
 3.13 3.12の職員は、3.12に規定する検査の結果を示し、かつ、申請者が船員であるという結論を正当なものとする事実に注意を喚起する簡潔な記録を作成すべきである。
 3.14 十分に検査された場合には、申請書は、証拠書類及び記録に関する注釈とともに、当該申請者に発給されるSIDの作成について責任を有する職員に送付すべきである。
 3.15 作成されたSIDであって発給機関の関連する書類が添付されたものは、承認のため、当該機関の上級職員に送付すべきである。
 3.16 上級職員は、少なくとも記録の注釈についての見直しの後、手続が適切に遵守されており、かつ、申請者へのSIDの発給が正当なものであると認める場合に限り、3.15の承認を与えるべきである。
 3.17 3.16の承認は、書面により行われるべきであり、また、特別な考慮を必要とする申請書の特性についての説明が添付されるべきである。
 3.18 SIDは、提出された旅券その他これに類する文書とともに、受領証と引換えに申請者に直接手交し又は送付すべきである。申請者が要求した場合には、当該船員の船長又は使用者に送付すべきである。いずれの場合においても、信頼し得る郵便での通信であって受領の通知を要求するものとする。
 3.19 SIDが申請者に発給された場合には、附属書Ⅱに規定する細目は、条約第四条に規定するデータベースに入力すべきである。
 3.20 発給機関の規則は、発送後の受領期限を明示すべきである。受領の通知が当該期限内に及び当該船員が正式に通知された後に受領されなかった場合には、データベースの中に適当な注釈を付するべきであり、また、当該SIDは、紛失したものとして公式に報告されるべきであり、並びに当該船員にその旨が通知されるべきである。
 3.21 付されるすべての注釈、特に、記録に関する簡潔な注釈(3.13参照)及び3.17に規定する説明は、当該SIDの有効期間中及びその後三年間安全な場所に保管すべきである。当該注釈及び3.17の規定によって要求される説明は、別個の国内のデータベースに記録すべきであり、また、(a)監視業務について責任を有する者及び(b)SIDの申請書の見直しに従事する職員が利用することができ並びに(c)訓練の目的のために利用することができるものとすべきである。
 3.22 SIDが誤って発給され又は発給の状況が適当でないことを示す情報を受領した場合には、発給機関に対しその迅速な取消しのためにその旨を速やかに通報すべきである。
 3.23 SIDが停止され又は取り消された場合には、発給機関は、当該SIDが現在認められていないことを示すため、速やかにそのデータベースを更新すべきである。
 3.24 SIDの申請書が拒絶され又はSIDの停止若しくは取消しの決定が行われる場合には、申請者は、自己が有する不服申立ての権利について公式に通知されるべきであり、また、当該決定の理由を十分に通知されるべきである。
 3.25 不服申立ての手続は、可能な限り迅速に行われるべきであり、また、公正かつ完全な検討の必要性を満たすべきである。
4 データベースの運用、保安及び維持
 4.1 発給機関は、条約第四条の規定を実施するために必要な措置及び規則であって、特に次の事項を確保するものを定めるべきである。
  4.1.1 条約第四条4から6までに規定する一日二十四時間、週七日間利用することができる中央連絡先又は電子的なアクセス
  4.1.2 データベースの保安
  4.1.3 情報の保管、取扱い及び通信における個人の権利の尊重
  4.1.4 自己に関する情報の正確さを確認し及び発見された誤りを時宜を失することなく訂正するための船員の権利の尊重
 4.2 発給機関は、次の事項を含むデータベースを保護するための適当な手続を定めるべきである。
  4.2.1 発給機関の構内から離れた安全な場所に置かれる媒体に保管されるデータベースのバックアップを定期的に作成することについて要求すること。
  4.2.2 データベースに入力を行った職員によりその入力が確認された後に、特別に権限を与えられた職員に対し、入力された情報にアクセスし又はこれを変更することを認めることを制限すること。
5 手続の質の管理及び定期的な評価
 5.1 発給機関は、高潔で、誠実性及び信頼性を有すると認められる上級職員であって、SIDの保管又は取扱いに従事しないものを、次の目的で行動する監督者として任命すべきである。
  5.1.1 最小限の要件の実施を継続的に監視すること。
  5.1.2 実施上のいかなる欠点についても速やかに注意を喚起すること。
  5.1.3 事務局長及び関係のある職員に対し、SIDの発給のための手続の改善について助言を提供すること。
  5.1.4 管理部門に対し上記事項に係る質の管理に関する報告を提出すること。監督者は、可能な場合には、監視すべきすべての運営に精通しているべきである。
 5.2 監督者は、発給機関の事務局長に対し直接報告すべきである。
 5.3 事務局長その他の発給機関のすべての職員は、監督者が自己の業務の遂行に関連すると認めるすべての文書又は情報を監督者に提供する義務を負うべきである。
 5.4 発給機関は、発給機関の職員が不当に差別されることなく、監督者に自由に発言することができることを確保するために適当な措置をとるべきである。
 5.5 監督者の権限には、次の業務について特別の注意が払われることが要求されるべきである。
  5.5.1 資源、建物、設備及び職員が発給機関の任務の効果的な遂行のために十分であることを確認すること。
  5.5.2 未記入の及び記入されたSIDの安全な保管のための措置が適当であることを確保すること。
  5.5.3 2.6、3.2、4及び5.4の規定に従って適当な規則、措置又は手続を定めることを確保すること。
  5.5.4 5.5.3の規則、手続及び措置が関係職員によく知られ、かつ、理解されていることを確保すること。
  5.5.5 SIDの申請書の受領から発給手続の終了までの間、実行されるそれぞれの行動について詳細かつ無作為な監視(特別な事案を処理する際の関係のある注釈及び他の記録を含む。)を行うこと。
  5.5.6 未記入のSID、道具及び材料の保管に用いられる保安措置の有効性を検査すること。
  5.5.7 必要な場合には、信用し得る専門家の援助を得て、電子的に保管されている情報の安全及び真実性を検査し、並びに一日二十四時間、週七日間情報を利用することができることについての要求が満たされていることを検査すること。
  5.5.8 国内の不正行為又はSIDの不正な発給、偽造若しくは詐取をもたらし得若しくは助長し得る制度の脆弱性を確認するため、生ずるおそれのあるSIDの不正な発給又は生ずるおそれのあるSIDの偽造若しくは詐取に関する信頼し得る報告書を調査すること。
  5.5.9 条約第四条2、3及び5に定める要件を満たすデータベースの細目への不適当なアクセス又はこの細目の誤りを申し立てている苦情を調査すること。
  5.5.10 発給機関の事務局長が発給手続の改善及び脆弱な分野を特定する報告を時宜を失することなく、かつ、効果的に行うことを確保すること。
  5.5.11 行われた質の管理についての検査に関する記録を維持すること。
  5.5.12 質の管理についての検査の運用の見直しが行われ及び当該見直しの記録が保管されることを確保すること。
 5.6 発給機関の事務局長は、発給の制度及び手続の信頼性並びにこれらがこの条約に定める要件に合致していることについての定期的な評価を確保すべきである。この評価は、次のことを考慮すべきである。
  5.6.1 発給の制度及び手続の監査の結果
  5.6.2 報告された脆弱性又は保安上の違反の結果としてとられる是正措置の効果に関連する調査その他の根拠に関する報告及び結果
  5.6.3 発給され、紛失し、無効となり又は損傷したSIDに関する記録
  5.6.4 質の管理の実施の状況に関する記録
  5.6.5 電子的なデータベースの信頼性又は保安についての問題に関する記録(データベースに対して行われた調査を含む。)
  5.6.6 SIDの発給手続の技術的な改善又は革新に起因するSIDの発給の制度及び手続の変更による影響
  5.6.7 運用の見直しの決定
  5.6.8 当該評価が、関連する国際労働機関の文書に規定する労働における基本的原則及び権利の尊重に適合した方法で行われることを確保するための手続の監査
 5.7 他の加盟国が提出する報告の不正な開示を防止するための手続及び工程を実施すべきである。
 5.8 すべての監査の手続及び工程は、在庫の管理手続等作成技術及び保安上の慣行がこの附属書に定める要件を満たすのに十分であることを確保すべきである。