1935年の労働時間(炭坑)条約(第46号)(改正)

ILO条約 | 1935/06/21

炭坑に於ける労働時間を制限する条約(第46号)
(1935年改正)

(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千年五月三十日にその第八十八回会期として会合し、本会期の議事日程の第七議題である複数の国際労働条約の撤回に関する提案を検討し、二千年六月十五日に、千九百三十五年の労働時間(炭坑)条約(第四十六号)(改正)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百三十五年六月四日を以つて其の第十九回会議として会合し、
 右会議の会議事項の第七項目たる、総会に依り其の第十五回会議に於て採択せられたる炭坑に於ける労働時間を制限する条約の一部改正に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は国際条約の形式に依るを要するに鑑み、
 千九百三十五年の労働時間(炭坑)条約(改正)と称せらるべき左の条約を千九百三十五年六月二十一日採択す。

第 一 条

1 本条約は、一切の炭坑即ち硬炭若は褐炭のみを又は主として硬炭若は褐炭を他の鉱物と共に採掘する鉱山に之を適用す。
2 本条約に於て「褐炭坑」と称するは、石炭紀後の地質年代の石炭を採掘する鉱山を謂ふ。

第 二 条

 本条約に於て「労働者」と称するは、左の者を謂ふ。
 (a) 地下炭坑に在りては、如何なる使用者に依り及び如何なる種類の作業に使用せらるるを問はず、地下に於て就業する者但し監督又は管理に従事し通常筋肉労働を為さざる者を除く。
 (b) 露天炭坑に在りては、直接又は間接に石炭の採掘に使用せらるる者、但し監督又は管理に従事し通常筋肉労働を為さざる者を除く。

第 三 条

1 地下硬炭坑に於ける労働時間とは、左の如く算定せらるる在坑時間を謂ふ。
 (a) 在地下坑時間とは、労働者が下降する為「ケージ」に入る時より其の上昇後「ケージ」より出づる時迄の時間を謂ふ。
 (b) 通行が横坑に依りて為さるる鉱山に在りては、在坑時間とは、労働者が坑口を通過する時より其の地表に帰還する時迄の時間を謂ふ。
2 如何なる地下硬炭坑に在りても、労働者の在坑時間は、一日七時間四十五分を超えざるべきものとす。

第 四 条

 交替班又は集団の最初の労働者が地表を去る時より地表に帰還する時迄の時間が第三条2に定めらるる時間と同一なるときは、本条約の規定は、遵守せられ居るものと看做さるべきものとす。尚労働者の一交替班及集団の下降及上昇の順序並に之に要する時間は、略同一たるべきものとす。

第 五 条

1 本条2の規定は之を留保し、国内の法令又は規則に於て在坑時間の計算上労働者の下降又は上昇が全国に於ける一切の労働者交替班の下降又は上昇の秤量平均時間に依りて計算せらるべきことを規定するときは、本条約の規定は、遵守せられ居るものと看做さるべきものとす。此の場合に於ては、交替班の最後の労働者が地表を去る時より同一交替班の最初の労働者が地表に帰還する時迄の時間は、何れの鉱山に於ても七時間十五分を超えざるべきものとす。但し労働者の一種類としての採炭夫が同一交替班中の他の種類の地下労働者に比し平均して一層長き時間労働することと為るべき如何なる規律方法も許されざるべきものとす。
2 締盟国は、本条に定めらるる方法を適用したる後第三条及第四条の規定を適用するときは、当該変更を同時に国の全部に付為すべく其の一部に付為さざるべきものとす。

第 六 条

1 労働者は、日曜日及法定の公の休日に於て炭坑内の地下作業に使用せられざるべきものとす。
  尤も右の要件は、労働者が継続二十四時間の休憩時間を有し且其の中少くとも十八時間が日曜日又は法定の公の休日に包含せらるる場合に於ては、満されたるものと看做さるべきものとす。
2 国内の法令又は規則は、十八歳を超ゆる労働者に付左記に関し前項の規定に対する例外を許容することを得。
 (a) 性質上継続的に行ふことを要する作業
 (b) 鉱山の通気に関する作業、通気装置に対する損傷の防止に関する作業、安全作業、災害及疾病の場合に於ける救急に関する作業並に動物の世話
 (c) 測量作業、但し企業の操業を中断し又は阻害することなくしては他の日に行ふことを得ざる限に於てとす。
 (d) 機械及他の装置に関する緊急作業、但し鉱山の正規の操業時中に行ふことを得ざるもの及使用者の統制外に在る他の緊急又は例外の場合に限る。
3 権限ある権力は、本条に依り許容せらるる場合を除くの外、如何なる作業も日曜日及法定の公の休日に行はれざることを保障する為適当の措置を執るべし。
4 本条2に依り許容せらるる作業に対しては、普通率の一倍四分の一を下らざる率に於て報酬を支払はるべきものとす。
5 労働者が著しき程度に於て本条2に依り許容せらるる作業に従事するときは、代償休暇を、又は本条4に規定せる率に加ふるに充分の特別報酬を保障せらるべきものとす。此の規定の適用細目は、国内の法令又は規則に依り定めらるべきものとす。

第 七 条

 温度、湿度又は他のものの異常なる状態に依り特に非衛生的と為りたる作業場に於ける労働者に対しては、第三条、第四条及第五条に規定せる所より短き最長時間が公の権力の定むる規則に依り定めらるべきものとす。

第 八 条

1 公の権力の定むる規則は、第三条、第四条、第五条及第七条に規定せる時間に付ては、現実なる若は急迫せる災害の場合、不可抗力の場合又は鉱山に於ける機械、装置若は設備の故障の為此等に対し施さるべき緊急作業の場合に於ては、偶其の結果として石炭の産出を伴ふことあるも、之を超え得ることを規定することを得。但し当該鉱山に於ける通常の操業に対する重大なる障礙を除去するに必要なる限に於てとす。
2 公の権力の定むる規則は、第三条、第四条、第五条及第七条に規定せる時間に付ては、性質上継続的に行ふことを要する作業又は技術的作業に使用せらるる労働者に付之を超え得ることを規定することを得。但し、右技術的作業は、普通に作業を準備し若は終了する為に又は次の交替班の作業の完全なる再開始の為に必要なる限に於けるものとし、且石炭の産出又は運搬に関せざるものたるべきものとす。各個の労働者に付右の如く許容せらるる増加時間は、本条3及4に規定せる場合を除くの外、一日に付半時間を超ゆることを得ざるものとす。
3 公の権力の定むる規則は、第三条、第四条、第五条及第七条に規定せる時間に付ては、左の種類の労働者に付半時間を超えて之を延長し得ることを規定することを得。
 (a) 通気室及ポンプ室の作業上並に通気に必要なる圧搾空気室の作業上現場に在ることを必要とする労働者
 (b) 地下の倉庫番
 (c) 捲揚機械夫及機関手並に其の必要とする助手、
  尤も前記の種類の労働者にして性質上継続的に行ふことを要する作業に使用せらるるものは、其の作業場所への坑内に於ける往復に要する時間を除き一日八時間を超えて使用せらるることを得ず。右の時間は、各場合に於て必要なる最小限度に減ぜらるべきものとす。
  尚左記に付ては、右の延長の限度は、公の権力の規則に依り定めらるるものたるべきものとす。
 (a) 地下の倉庫番
 (b) 労働者の輸送に従事する坑道係機械夫及其の他の者
 (c) 労働者の輸送に従事する機関手
 (d) (b)及(c)に掲ぐる種類の者に必要なる助手
4 公の権力の定むる規則は、第三条、第四条、第五条及第七条並に本条2及3に規定せる時間限度に付ては、通気室、ポンプ室及圧搾空気室の作業上現場に在ることを必要とする労働者に付、交替班の定期的転換上必要なる限度に於て之を超え得ることを規定することを得。本規定に依る労働時間は、三週の期間に付労働者が本条2又は3に依り当該種類の労働者に対し規定せらるる長さの二十一交替分を超えて労働せざる限り、超過時間と看做されざるべきものとす。
5 本条2及3の適用を受くる者の数は、通常の作業状態における鉱山に付ては、如何なる時に於ても、当該鉱山に使用せらるる者の総数の五「パーセント」を超えざるべきものとす。
6 本条の規定に依る超過時間に対しては、普通率の一倍四分の一を下らざる率に於て報酬を支払はるべきものとす。

第 九 条

1 公の権力の定むる規則は、第八条の規定に依るものの外、一年に付六十時間迄の超過時間を全国に亘り企業の自由に委することを得。
2 右超過時間に対しては普通率の一倍四分の一を下らざる率に於て報酬を支払はるべきものとす。

第 十 条

 第七条、第八条及第九条に掲ぐる規則は、関係ある使用者団体及労働者団体に諮問の後、公の権力に依り設けらるべきものとす。

第 十 一 条

 国際労働機関憲章第二十二条に依り提出せらるべき年報は、第三条、第四条及第五条の規定に従ひ労働時間を規律する為執られたる措置に関する一切の情報を包含すべきものとす。右年報には、又第七条、第八条、第九条、第十二条、第十三条及第十四条に依り定められたる規則並に其の実施に関する完全なる情報を記載すべきものとす。

第 十 二 条

 本条約の規定の実施を容易ならしむる為、各鉱山の管理機関は、左記を遵守すべきものとす。
 (a) 坑口若は他の適当なる場所に見易く掲示することに依り又は公の権力に依り承認せらるべき他の方法に依り、各交替班又は各集団の労働者が下降を開始し及上昇を終了すべき時刻を公示すること。
 右時刻は、公の権力の承認を得べきものとし、且各労働者の在坑時間が本条約の規定する制限を超えざる様定めらるべきものとす。一旦公示せられたるときは、右時刻は、公の権力の承認を得且公の権力に依り承認せらるべき掲示及方法に依るに非ざれば、変更せられざるべきものとす。
 (b) 第八条及第九条に依る一切の増加時間を国内の法令又は規則の定むる様式に従ひ記録すること。

第 十 三 条

1 地下褐炭坑に付ては、本条約第三条及第四条並に第六条乃至第十二条は、左の規定の留保の下に之を適用す。
 (a) 国内の法令又は規則の定むる条件に従ひ、権限ある権力は、生産停止を伴ふ団体的休止を在坑時間に包含せしめざることを許可することを得。但し右休止は、如何なる場合に於ても、各交替班に付三十分を超えざるべきものとす。右の許可は、斯る制度の必要なることが各個の場合に於て公の調査に依り確認せられ且関係労働者の代表者に諮問したる後に於てのみ与へらるべきものとす。
 (b) 第九条に規定せる超過時間数は、一年に付七十五時間迄増加せらるることを得。
2 尚権限ある権力は、更に一年に付七十五時間迄の超過時間を定むる団体協約を承認することを得。此の再度の超過時間に対しても、亦第九条2の規定する率に依り同様に報酬支払はるべきものとす。右再度の超過時間は、地下褐炭坑に付一般的には許容せられざるべきものとし、特殊の技術上又は地質上の条件之を必要とする各個の地方又は鉱山に限らるべきものとす。

第 十 四 条

 露天の硬炭坑に付ては、本条約第三条乃至第十三条は、適用せられず。尤も本条約を批准する締盟国は、工業的企業に於ける労働時間を一日八時間且一週四十八時間に制限する千九百十九年の「ワシントン」条約の規定を右の鉱山に適用することを約す。但し該条約第六条(b)に依る超過時間数は、一年に付百時間を超えざるべきものとす。権限ある権力は、特別の必要ある場合に限り、前記百時間に更に一年に付百時間迄を増加することを定むる団体協約を承認することを得。

第 十 五 条

 本条約は、労働時間に関する国内の法令又は規則を之に依り労働者に与へられたる保障を減少せしむる様変更するの効果を有せず。

第 十 六 条

 何れの国に在りても、政府は、国家の安全を危殆ならしむる事変の場合に於て、本条約の規定の適用を停止することを得。

第 十 七 条

 国際労働機関憲章に定むる条件に依る本条約の正式批准は、登録の為国際労働事務局長に之を通告すべし。

第 十 八 条

1 本条約は、国際労働事務局に其の批准を登録したる国際労働機関の締盟国のみを拘束すべし。
2 本条約は、国際労働事務局長が左記締盟国中の二国の批准を登録したる日の後六月にして効力を発生すべし。白耳義国、「チエツコスロヴアキア」国、仏蘭西国、独逸国、「グレート・ブリテン」国、和蘭国及「ポーランド」国
3 爾後本条約は、何れの締盟国に付ても、其の批准を登録したる日の後六月にして効力を発生すべし。

第 十 九 条

 第十八条2に掲ぐる締盟国中の二国の批准が国際労働事務局に登録せられたるときは、事務局長は、国際労働機関の一切の締盟国に右の旨を通告すべし。事務局長は、爾後該機関の他の締盟国の通告したる批准の登録を一切の締盟国に同様に通告すべし。

第 二 十 条

1 本条約を批准したる締盟国は、本条約の最初の効力発生の日より五年の期間満了後に於て、国際労働事務局長宛登録の為にする通告に依り之を廃棄することを得。右の廃棄は、該事務局に登録ありたる日の後一年間は其の効力を生ぜず。
2 本条約を批准したる各締盟国にして前項に掲ぐる五年の期間満了後一年以内に本条に定むる廃棄の権利を行使せざるものは、更に五年間拘束を受くべく、又爾後各三年の期間満了毎に、本条に定むる条件に依り、本条約を廃棄することを得。

第 二 十 一 条

1 国際労働事務局の理事会は、本条約の効力発生より遅くとも三年以内に、左の点に付本条約の改正の問題を総会の会議事項に掲ぐべし。
 (a) 第三条2に規定せらるる労働時間を更に短縮するの可能性
 (b) 第五条に定めらるる例外的計算方法を用ふるの権利
 (c) 労働時間短縮の趣旨に於て第十三条1(a)及(b)の規定を改正するの可能性
 (d) 第十四条に規定せらるる超過時間数の短縮の可能性
2 尚国際労働事務局の理事会は、本条約の効力発生より各十年の期間満了毎に本条約の適用に関する報告を総会に提出すべく、且其の全部又は一部の改正に関する問題を総会の会議事項に掲ぐべきや否やを審議すべし。

第 二 十 二 条

1 総会が本条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合には、新条約が別段の定を為さざる限り、
 (a) 締盟国に依る新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したるとき、前記第二十条の規定に拘らず、当然に本条約の即時の廃棄を生ぜしむべし。
 (b) 新改正条約の効力発生の日より、本条約は、締盟国に依り批准せられ得ざるに至るべし。
2 本条約は、之を批准したるも改正条約を批准せざる締盟国に対しては、如何なる場合に於ても、其の現在の形式及内容に於て引続き効力を有すべし。

第 二 十 三 条

 本条約は、仏蘭西語及英吉利語の本文を以て共に正文とす。