1936年の有給休暇条約(第52号)

ILO条約 | 1936/06/24

年次有給休暇に関する条約(第52号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百三十六年六月四日其の第二十回会議として会合し、
 右会議の会議事項の第二項目たる年次有給休暇に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は国際条約の形式に依るべきものなることを決定し、
 千九百三十六年の有給休暇条約と称せらるべき左の条約を千九百三十六年六月二十四日採択す。

第 一 条

1 本条約は、左の何れかの公私の企業又は設備に使用せらるる一切の者に之を適用す。
 (a) 物品の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売の為にする仕立、破壊若は解体を為し又は材料の変造を為す企業(造船又は電気若は各種動力の発生、変更若は伝導に従事する企業を含む。)
 (b) 左記の一又は二以上の建設、再建設、保存、修理、変更又は解体に専ら又は主として従事する企業
   建物
   鉄道
   軌道
   飛行場
   港
   船渠
   棧橋
   出水又は海岸浸蝕に対する防護工作物
   運河
   内地水路、海上又は空中の航行の為の工作物
   道路
   隧道
   橋梁
   陸橋
   下水道
   排水道
   井灌漑又は排水の為の工作物
   電気通信装置
   電気又は瓦斯の発生又は配給の為の工作物
   配管
   水道
   及他の類似の工事又は斯かる工事若は建設の為の準備工事若は基礎工事に従事する企業
 (c) 道路、鉄軌道、内地水路又は空路に依る旅客又は貨物の運送(船渠、岸壁、波止場、倉庫又は飛行場に於ける貨物の取扱を含む。)に従事する企業
 (d) 鉱山業、石切業及土地より鉱物を採取する他の事業
 (e) 商業的設備(郵便及電気通信業務を含む。)
 (f) 設備及行政署にして之に使用せらるる者が主として書記的労務に従事するもの
 (g) 新聞企業
 (h) 病者、虚弱者、貧窮者又は精神不適者の治療又は看護の為の設備
 (i) 旅館、料理店、下宿屋、倶楽部、喫茶店及他の飲食店
 (j) 劇場及公衆娯楽場
 (k) 前記の種類の何れにも全く該当せざる商業的及工業的混合設備
2 各国に於ける権限ある権力は、関係ある主なる使用者団体及労働者団体が存在する場合に於てはこれに諮問したる後、前項に明示せらるる企業及設備と本条約の適用を受けざるものとの分界を定むべきものとす。
3 各国に於ける権限ある権力は、本条約の適用範囲より左の者を除外することを得。
 (a) 使用者の家に属する者のみが使用せらるる企業又は設備に使用せらるる者
 (b) 官公署にして其の雇傭条件が本条約に定むる所と少くとも均しき期間の年次有給休暇を受くる権利を与ふるものに使用せらるる者

第 二 条

1 本条約の適用を受くる一切の者は、一年の継続勤務の後は少くとも六労働日の年次有給休暇を受くる権利を有す。
2 十六歳未満の者(徒弟を含む。)は、一年の継続勤務の後は少くとも十二労働日の年次有給休暇を受くる権利を有す。
3 左記は、年次有給休暇に包含せられざるものとす。
 (a) 公の及慣習上の休日
 (b) 疾病に基く就業中絶
4 国内の法令又は規則は、特別の事情ある場合に於ては、年次有給休暇の中本条所定の最少限度の期間を超ゆる部分の分割を許容することを得。
5 年次有給休暇の期間は、国内の法令又は規則の定むる条件に従ひ、勤務期間に応じ増加すべきものとす。

第 三 条

 本条約第二条に依り休暇を取る一切の者は、全休暇期間に関し左記の何れかを受くべきものとす。
 (a) 国内の法令又は規則に依り定めらるべき方法に従ひ計算せらるる右の者の平常の報酬(現物報酬あらば之と同価値の現金を含む。)
 (b) 団体協約に依り決定せらるる報酬

第 四 条

 年次有給休暇を受くる権利を抛棄し又は右休暇を廃棄する協定は、無効たるべきものとす。

第 五 条

 国内の法令又は規則は、年次休暇中に有償労務に従事する者が休暇期間に関し支払を受くる権利を剥奪せられ得ることを規定することを得。

第 六 条

 休暇を取るに先ち使用者の責に帰すべき理由に依り解雇せられたる者は、本条約に依り、当然受くべき休暇の各日に付、第三条に定めらるる報酬を受くべきものとす。

第 七 条

 本条約の規定の有効なる実施を容易ならしむる為、各使用者は、権限ある権力に依り承認せらるる様式に左記を記録することを要求せらるべきものとす。
 (a) 各被用者が労務に就く日及右被用者が受くる権利ある年次有給休暇の期間
 (b) 各被用者が年次有給休暇を取る日
 (c) 各被用者が年次有給休暇期間に関し受くる報酬

第 八 条

 本条約を批准する各締盟国は、之が規定の適用を確保する為制裁の制度を設くべきものとす。

第 九 条

 本条約は、其の定むる所より有利なる条件を保障する法令、判決、慣習又は使用者及労働者間の協定に影響を及ぼさざるものとす。

第 十 条

 この条約の正式の批准書は、登録のため国際労働事務局長に送付するものとする。

第 十 一 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准を国際労働事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 二 条

 国際労働事務局長は、国際労働機関の二加盟国の批准が登録されたときは、この旨を直ちに国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。同事務局長は、また他の加盟国からその後通告を受けた批准の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通告する文書によつてこの条約を廃棄することができる。廃棄は、その廃棄が登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で前項に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年の期間この条約の拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

 国際労働機関の理事会は、この条約が効力を生じた後十年の期間が経過するごとに、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、かつ、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 十 五 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改める改正条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第十三条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 六 条

 この条約のフランス語及び英語による本文は、ともに正文とする。