1946年の船員設備条約(第75号)

ILO条約 | 1946/06/29

船内船員設備に関する条約(第75号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてシアトルに招集され、且つ千九百四十六年六月六日を以てその第二十八回会議を開催し、
 この会議の議事日程の第三議題である船内船員設備に関する提案の採択を決議し、
 この提案が国際条約の形式によるべきものなることを決定したので、
 千九百四十六年の船員設備条約として引用することができる次の条約を千九百四十六年六月二十九日に採択する。

第 一 部  一般規定

第 一 条

1 この条約は、公有たると私有たるとを問わず、商業のために貨物又は旅客の運送に従事し、且つこの条約が実施される領域において登録されたすべての機械推進の海洋航行船舶に適用する。
2 国内法令又は規則は、船舶が海洋航行船舶と認められるべき場合を決定しなければならない。
3 この条約は、次のものに適用しない。
 (a) 五百トン未満の船舶
 (b) 本来帆により推進され、且つ補助機関を有する船舶
 (c) 漁撈、捕鯨又は類似の業務に従事する船舶
 (d) 曳船
4 但し、この条約は、合理的であり且つ実行しうる場合には、次のものに適用される。
 (a) 二百トンと五百トンとの間の船舶
 (b) 捕鯨又は類似の業務に従事する船舶において通常の海洋航行業務に従事する者の設備

第 二 条

 この条約において、
 (a) 「船舶」と称するのは、この条約が適用される船舶をいう。
 (b) 「トン」と称するのは、総登録トンをいう。
 (c) 「旅客船」と称するのは、(i)現在実施中である「海上における人命の安全のための国際条約」の規定に従つて発行される安全証明書、又は(ii)旅客証明書の何れかが実施される船舶をいう。
 (d) 「士官」と称するのは、船長以外の者で、国内の法令若しくは規則により、又は関係ある法令若しくは規則のないときは労働協約若しくは慣習により、士官として地位づけられたものをいう。
 (e) 「属員」と称するのは、士官以外の乗組員をいう。
 (f) 「下士官」と称するのは、国内の法令若しくは規則により、又は関係ある法令若しくは規則のないときは労働協約若しくは慣習により、下士官として階級づけられた監督の地位又は特別の責任ある地位に勤務する属員をいう。
 (g) 「船員設備」と称するのは、船員の利用に供される寝室、食堂、衛生設備、病室設備及び娯楽設備をいう。
 (h) 「所定の」と称するのは、国内の法令若しくは規則により又は権限ある機関により規定されることをいう。
 (i) 「認可される」と称するのは、権限ある機関により認可されることをいう。
 (j) 「再登録される」と称するのは、船舶の登録領域及び所有権の同時変更の際に再登録されることをいう。

第 三 条

1 この条約が実施される各加盟国は、この条約の第二部、第三部及び第四部の規定の適用を確保する法令又は規則の実施を維持することを約する。
2 法令又は規則は、
 (a) すべての関係者にこれを通知することを権限ある機関に要求しなければならない。
 (b) その遵守に付責任ある者を定めなければならない。
 (c) その違反に対する適当の罰則を規定しなければならない。
 (d) 有効な実施を確保するため適当の監督制度の維持を定めなければならない。
 (e) 規則の作成に関し船舶所有者の団体及び(又は)船舶所有者並びに公認された誠実な船員労働組合と協議し、且つ実行しうる限りその管理に付かかる当事者と協力することを権限ある機関に要求しなければならない。

第 二 部 船員設備の計画及び監督

第 四 条

1 船舶の建造が開始される前、船員設備の位置及び全般的配置を所定の尺度で示した船舶設計図は、権限ある機関の認可をうけるため提出しなければならない。
2 船員設備の建設が開始される前及び現存の船舶内の船員設備を変更し又は改修する前、各空間の割当、備品及び附属品の配置、通風、照明及び暖房の方法及び配置、並びに衛生施設を所定の尺度にもとづき、且つ所定の精密度で示した設備の詳細な設計図とこれに関する情報を権限ある機関の認可をうけるためこれを提出しなければならない。但し緊急又は一時の変更若しくは改修が登録領域外で行われる場合においては、事後に権限ある機関の認可をうけるために右の図面をこれに提出するときは、この規定の充分な遵守とされる。

第 五 条

 次の場合には、権限ある機関は、船舶を検査し且つ船員設備が法令及び規則の要件に適合するか否かを確めなければならない。
 (a) 船舶が登録され又は再登録されるとき
 (b) 船舶の船員設備が実質的に変更又は改修されるとき
 (c) 乗組員の全部若しくは一部を代表する公認された誠実な船員労働組合により、又は所定の数若しくは比率の乗組員により、所定の方法を以て且つ船舶の遅延をきたさないような時に、船員設備がこの条約の条件に適合しないという申告が権限ある機関に為されたとき

第 三 部 船員設備の要件

第 六 条

1 船員設備の他の場所との関係における位置、出入手段、構造及び排列は、適当な安全、天候及び海波に対する防禦並びに熱、寒気、他の場所からの過度の騒音又は悪臭からの隔離を確実ならしめるものでなければならない。
2 船艙、機械室、船内炊事室、ランプ室、ペンキ室、機関室、甲板部、その他の部の倉庫、乾燥室、共同洗面所又は便所から寝室への直接の入口を設けてはならない。寝室から右の如き場所を隔離する隔壁及び外部隔壁は、充分に鋼鉄又はその他の認可された物質でこれを有効に建造し、且つ防水及び防ガスでなければならない。
3 寝室及び食堂の外部隔壁は、充分に外部からこれを分離しなければならない。隣接の船員設備又は通路に熱効果を生ずる可能性ある場合には、すべての機械室壁及び炊事室その他熱を生ずる場所のすべての隔壁は、充分にこれを分離しなければならない。蒸気及び熱湯パイプの熱効果からの防護にも注意を払わなければならない。
4 内部隔壁は、害虫に侵されない認可された物質のものでなければならない。
5 寝室、食堂、娯楽室及び船員設備中にある通路は、冷却又は過熱を防ぐため充分にこれを分離しなければならない。
6 巻揚機及び類似の装置のための主要な蒸気パイプ及び排気パイプは、船員設備の中を通したり又は技術的に可能なときは船員設備への通路に通してはならない。これらのパイプが右の通路を通る場合には充分にこれを分離し且つ被覆しなければならない。
7 内部の羽目板又は板張は、容易に表面を清潔に保つことができる物質のものでなければならない。凸凹のある板又は害虫に侵され易いその他の構造のものは、これを使用してはならない。
8 権限ある機関は、火災予防又は延焼を防止する措置を設備の構造に取入れることを要する程度を決定しなければならない。
9 寝室及び食堂における壁の表面及び天井は、容易に清潔に保つことができるものとし、且つペンキを塗るときは明るい色のものとしなければならない。石灰塗は、してはならない。
10 壁の表面は、必要なときは、取り換え又は修繕しなければならない。
11 すべての船員設備における甲板は、認可された材料及び構造のものとし、且つその表面は、湿気を通さず容易に清潔に保ちうるものとしなければならない。
12 床張が接合してある場合においては、割れ目を避けるためその接ぎ目は丸くしなければならない。
13 充分な排水設備を施さなければならない。

第 七 条

1 寝室及び食堂は、充分換気しなければならない。
2 通風装置は、いかなる天候及び気候状態においても空気を満足な状態に保ち、且つ空気の流通を充分ならしめるようこれを操作しなければならない。
3 熱帯地方及びペルシヤ湾の航行に定期的に従事する船舶は機械的通風装置をこれに備付けなければならない。
4 熱帯地方以外に従事する船舶は、機械的通風装置又は電気扇風器の何れかをこれに備付けなければならない。権限ある機関は、北半球又は南半球の寒冷水域に通常使用される船舶にはこの要件を免除することができる。
5 3及び4により要求される通風装置の原動力は、できる限り、船員が船内において居住し又は労働しているときで且つ事情が要求するときは何時でもこれを利用し得なければならない。

第 八 条

1 船員設備の充分な暖房装置は、専ら熱帯地方及びペルシヤ湾の航行に従事する船舶を除き、これを備付けなければならない。
2 暖房装置は、できる限り、船員が船内において居住し又は労働しているときで且つ事情がその使用を要求するときは何時でも、これを利用し得なければならない。
3 暖房装置の必要があるすべての船舶においては、暖房は、蒸気、熱湯、暖気又は電気によらなければならない。
4 暖房がストーブにより供される船舶においては、ストーブが充分の大きさのものであり、且つ適当に設備され、防護され、且つ空気が悪くならないことを確保するため措置を講じなければならない。
5 暖房装置は、勤務に適するよう普通の天候及び気候状態の下において満足な水準で船員設備の温度を保ちうるものでなければならない。権限ある機関は、その標準を規定しなければならない。
6 ラジエーター及びその他の暖房装置は、火災の危険又はそこにいる者に対する危険若しくは不快を避けるような位置に置き、且つ必要あるときは防護装置を施さなければならない。

第 九 条

1 旅客船において許されるべき特別の装置の留保の下に、寝室及び食堂は、自然光により適当に照明し、且つ充分な人工照明を施さなければならない。
2 すべての乗組員室は、充分に照明しなければならない。居室における自然光の最低標準は、自由行動のために利用されるべきすべての場所において、晴天の日に普通の視力をもつ者が通常の新聞を読むことができるようなものでなければならない。充分な自然光を採ることができないときは、右の最低標準の人工照明を施さなければならない。
3 すべての船舶において、船員設備には電燈を備付けなければならない。独立した二つの照明用電源がないときは、緊急用の特別のランプ又は照明器具を別に備付けなければならない。
4 人工照明は、部屋にいる者に最大の利便を与えるようこれを配置しなければならない。
5 寝室には読書用電灯を各々の寝台の頭部に備付けなければならない。

第 十 条

1 寝室の位置は、船舶の中部又は船尾の満載吃水線の上でなければならない。
2 例外的の場合においては、権限ある機関は、船舶の大きさ、型又は用途よりして、寝室を他の場所に設けることが不合理又は不可能であるときは、その位置を船舶の前部とすることができる。尤もいかなる場合においても、衝突隔壁の前方であつてはならない。
3 旅客船においては、権限ある機関は、照明及び通風に対する充分な装置が施されているという条件で、寝室の位置を満載吃水線以下にすることを認可することができる。尤もいかなる場合においても作業通路の直下であつてはならない。
4 属員用寝室の一人当りの床面積は、次の各号を下つてはならない。
 (a) 八百トン未満の船舶においては二十平方フイート又は一・八五平方メートル
 (b) 八百トン以上三千トン未満の船舶においては二十五平方フイート又は二・三五平方メートル
 (c) 三千トン以上の船舶においては三十平方フイート又は二・七八平方メートル。但し、旅客船で一室に四人を超える属員の寝台のあるものに付ては、一人当りの最小面積は、二十四平方フイート(二・二二平方メートル)であつてもよい。
5 他の船舶で使用されるよりも多数の属員の使用を必要とするような属員群が使用されている船舶に付ては、権限ある機関は、かかる群に関し、次の条件の下に、寝室の一人当りの最小床面積を減ずることができる。
 (a) 群に割当てられた就寝場所の面積の合計がその数の増加されない場合に割当てられるものを下らないこと。
 (b) 寝室の最小床面積が次の面積を下らないこと。
  (i)  三千トン未満の船舶においては一人につき十八平方フイート(一・六七平方メートル)
  (ii) 三千トン以上の船舶においては一人につき二十平方フイート(一・八五平方メートル)
6 寝台及び錠前付戸棚、箪笥(原文は旧字体)及び椅子の占める場所は、床面積の測定に含まれる。狭い場所又は不規則な形をした場所で自由行動に利用される場所に有効に加えられるものでなく且つ備品の設置に使用しえないものは、これより除外されなければならない。
7 船員寝室の天井の高さは、六フイート三インチ(百九十センチメートル)を下つてはならない。
8 各部門に対し別々の室を提供するよう充分の数の寝室を設けなければならない。但し権限ある機関は、小型船舶についてこの要件を緩和することができる。
9 寝室の占用を許される者の数は、次の最大限度を超えてはならない。
 (a) 一部門を担当する士官、当直を担当する甲板部士官及び機関部士官、並びに上級無線士官又は無線技手 一室一人。
 (b) 他の士官 可能な場合は一室一人、いかなる場合にも二人を超えてはならない。
 (c) 下士官 一室一人又は二人、いかなる場合にも二人を超えてはならない。
 (d) 他の属員 可能な場合は一室二人又は三人、いかなる場合にも四人を超えてはならない。
10 旅客船においては、一寝室につき賄部門に属する十名を超えない属員を収容する認可を与えることができる。
11 寝室の最大収容人員は、室内の見易い場所に消えないよう且つ読み易く掲示しなければならない。
12 乗組員には各自の寝台を与えなければならない。
13 寝台は、それへ行くためには他の寝台を乗越えなければならないようにこれを並べてはならない。
14 寝台は、二段を超えてこれを配置してはならない。船側に沿つておかれる寝台については、一段のみでなければならない。
15 二段の寝台の下方のものは、床より十二インチ(三十センチメートル)以上としなければならない。上方の寝台は、下の寝台の底部と横梁の下側との大体中間にこれをおかなければならない。
16 寝台の内側の最小寸法は、六フイート三インチと二フイート三インチ(百九十センチメートルと六十八センチメートル)としなければならない。
17 寝台の骨組及び防禦板(もしあれば)は、堅く滑らかで且つ腐蝕したり又は害虫に侵されたりすることのない認可された材質のものでなければならない。
18 管状の骨組が寝台の建造のために用いられるときは、それは、完全に穴を封じて害虫の侵入しないようにしなければならない。
19 各寝台には、バネ底又はバネツキ蒲団と認可された物質でできている蒲団とを備えなければならない。害虫に侵され易い藁その他の物質の詰め物は、これを用いてはならない。
20 一寝台が他の寝台の上に置かれるときは、その寝台のバネ底の下側に木材、帆布その他適当な物質の防塵底を用いなければならない。
21 寝室は占用者に合理的な安楽を確保し、且つ整頓の容易なようにこれを設計し且つ装備しなければならない。
22 備品中には、各占用者のため錠前付戸棚を含まなければならない。錠前付衣服戸棚は、高さ五フイート(百五十二センチメートル)、横断面積三百平方インチ(十九・三〇平方デシメートル)以上とし、棚と南京錠用の留金を備えなければならない。南京錠は、占用者がこれを用意しなければならない。
23 各寝室には、固定式、折畳式又は引出式の卓子又は机及び必要に応じ心地よい着席設備を設けなければならない。
24 備品は、反つたり又は腐蝕したりすることのない滑らかな堅い材料のものでなければならない。
25 各占用者のための箪笥(原文は旧字体)又はこれに相当するものの大きさは二立方フイート(〇・五六立方メートル)以上でなければならない。
26 寝室の横窓にはカーテンを備付けなければならない。
27 寝室には、鏡、化粧用品用の小箪笥(原文は旧字体)、書架及び充分の数の衣類掛けを備付けなければならない。
28 できる限り乗組員の寝台の配置は、当直別に分け、非番の者と当直の者とが室を同じくしないようにしなければならない。

第 十 一 条

1 すべての船舶には、充分な食堂設備を施さなければならない。
2 千トン未満の船舶においては、次の者に対し別々の食堂設備を施さなければならない。
 (a) 船長及び士官
 (b) 下士官及びその他の属員
3 千トン以上の船舶においては、次の者に対し別々の食堂設備を施さなければならない。
 (a) 船長及び士官
 (b) 甲板部の下士官及びその他の属員
 (c) 機関部の下士官及びその他の属員
   但し、
  (i) 下士官及びその他の属員用の食堂が二つあるときは、その一つは下士官用とし、他は属員用とすることができる。
  (ii) 関係ある船舶所有者団体及び(又は)船舶所有者並びに公認された誠実な船員労働組合が希望する場合には、甲板部と機関部の下士官及びその他の属員に対し一つの食堂を提供することができる。
4 賄部用には、別個の食堂を設けることにより又は他のグループ用に振当てられた食堂の利用権をこれに与えることにより充分の食堂設備を提供しなければならない。五千トン以上の船舶で賄部が五人を超えるものにおいては、別個の食堂を設けることに考慮を払わなければならない。
5 食堂の面積及び調度品は、当該員数の者が同時に使用するに充分なものでなければならない。
6 食堂には、当該員数の者が同時に使用するに充分な卓子及び認可された椅子を備付けなければならない。
7 権限ある機関は、旅客船の特別条件に適合するに必要な例外を食堂設備に関する前記諸規定に対し認可することができる。
8 食堂の位置は、寝室から離し、且つ炊事室にできるだけ接近させなければならない。
9 食器室が食堂に接近していない場合においては、食器用の充分な錠前付戸棚及び食器を洗うための適当な設備を設けなければならない。
10 卓子及び椅子の表面は、湿気に耐え、亀裂なく且つ容易に掃除することができる材料のものでなければならない。

第 十 二 条

1 すべての船舶においては、乗組員が勤務外の時に利用することができる場所を露天甲板に設けなければならない。その場所は、船舶の大きさ及び船員数を参酌して充分の面積のものでなければならない。
2 娯楽設備は、便利な所に置き、且つ適当に装備したものとし、士官用と属員用のものとを設けなければならない。これが食堂とは別に設けられていない場合においては、食堂は、慰安的施設となるようこれを設計し、且つ装備しなければならない。

第 十 三 条

1 すべての船舶においては、洗面器、浴槽及び(又は)シヤワー浴場を含む充分な衛生設備を施さなければならない。
2 次の最小限度の便所を別々に設けなければならない。
 (a) 八百トン未満の船舶においては、三
 (b) 八百トン以上の船舶においては、四
 (c) 三千トン以上の船舶においては、六
 (d) 無線士官又は技手の居住区が離れた場所にある船舶においては、それに接近又は隣接して衛生施設を施さなければならない。
3 国内の法令又は規則は、本条4の規定を条件として各群に対する便所の割当を規定しなければならない。
4 個人用施設が附属している部屋を占用しないすべての船員に対する衛生施設は、各群の船員に対し次の規模においてこれを施さなければならない。
 (a) 八人又はそれ以下の者毎に浴槽又はシヤワー一
 (b) 八人又はそれ以下の者毎に便所一
 (c) 六人又はそれ以下の者毎に洗面器一
  但し群の人数が所定数の半分よりも少ない数だけ超過するときは、この超過分は、この項の適用上これを無視することができる。
5 船員の合計が百人を超える場合で、且つ通常四時間を超えない期間航行に従事する旅客船においては、権限ある機関は、必要な施設について特別の配置又は数の減少に考慮を払うことができる。
6 すべての共同洗面所には、冷真水及び熱真水又は熱水設備を利用しうるようにしなければならない。権限ある機関は、船舶所有者の団体及び(又は)船舶所有者並びに公認された誠実な船員労働組合と協議して、船舶所有者が船員一人一日に付供給することを要する真水の最大限量を定めることができる。
7 洗面器及び浴槽は、充分な大きさで、亀裂し、はがれ又は腐蝕することのない滑らかな表面の認可された物質で造られなければならない。
8 すべての便所には、設備の他の部分に関係なく屋外空気への通風装置を設けなければならない。
9 すべての便所は、所定の型とし、且つ何時でも使用ができるようにし、他と関係なく操作しうる充分な水量を供給されなければならない。
10 汚水管及び排水管は、充分な大きさのものとし、且つ詰まることなく掃除の容易なようにこれを造らなければならない。
11 二人以上の使用のための衛生設備は、次の要件を具備しなければならない。
 (a) 床板は、所定の耐久性の物質で、掃除し易く、湿気を通し難いものとし、且つ適当に排水しなければならない。
 (b) 隔壁は、鋼鉄その他の所定の材料のものとし且つ甲板面よりも少くとも九インチ(二十三センチメートル)の高さまで水を透さないようにしなければならない。
 (c) 設備は、充分にこれを照明し、暖房し、且つ換気しなければならない。
 (d) 便所の位置は、寝室より又は寝室と他の出入口のない便所との間の通路より直接の出入口なくして、寝室及び洗面室に近くこれを設けしかもこれとは別に設けなければならない。但しこの要件は、合計四人を超えない者を収容する二つの寝室の間の区画に便所がある場合には適用しない。
 (e) 一区画における便所が二以上ある場合においては、人目につかないよう充分に遮蔽しなければならない。
12 すべての船舶においては、衣服を洗濯し及び乾燥するための施設は、船員の人数及び通常の航行期間に適応した大きさにこれを設けなければならない。
13 別個の洗濯設備が不可能なときは、衣服を洗濯するための施設は、適当な流しを備え、冷真水及び熱真水を充分に供給し又は熱水設備を設けなければならない。
14 衣服を乾燥するための施設は、寝室及び食堂とは別の区画に設け、充分に換気し、暖房し、且つ衣服を吊すための紐又はその他の装置を備えなければならない。

第 十 四 条

1 十五人以上の船員の乗組む船舶で三日を超える航行に従事するものにおいては、独立の病院設備を施さなければならない。権限ある機関は、沿岸航行に従事する船舶に関しこの要件を緩和することができる。
2 病院設備は、出入に便利で、利用者が居心地よく、且ついかなる天候においても適当な看護を受けられるように、適当な位置に設けなければならない。
3 入口、寝台、照明、換気、暖房及び給水の装置は、心地よいようにし且つ利用者の治療を容易ならしめるようこれを設計しなければならない。
4 病床の必要数は、権限ある機関がこれを定めなければならない。
5 便所設備は、病院設備の利用者専用のため、設備の一部として又はこれに近接して設けなければならない。
6 病院設備は、医療以外の目的のため使用してはならない。
7 医師を乗組ませない船舶には、平易な説明書付の認可された医療箱を備付けなければならない。

第 十 五 条

1 充分に換気された防水着掛設備を寝室の外側に且つこれに接近して設けなければならない。
2 三千トンを超える船舶においては、甲板部及び機関部の各一室を事務室用として提供し且つ設備をしなければならない。
3 蚊に襲われる港に定期的に航行する船舶においては、船側の窓、換気装置及び上甲板への扉に適当な遮蔽を設けることにより、船員室に蚊の侵入しないようにしなければならない。
4 赤道及びペルシヤ湾に又はその内で定期的に航行するすべての船舶には、船員設備上の露出甲板及びレクリエーシヨンをする甲板の場所に天幕を設けなければならない。

第 十 六 条

1 第十条5に掲げられる船舶については、権限ある機関は、これに規定される乗組員数に関し、その国民的慣習を考慮して前各条に定められる要件を加減することができるし、且つ特に寝室を占用する人数並びに食堂及び衛生施設に関し特別の按配をすることができる。
2 右の要件を加減する場合においては、権限ある機関は、第十条1及び2の規定により並びに第十条5の属員群について規定される寝室の最小面積要件により拘束されるものとする。
3 或る部門の船員の国民的慣習が甚だしく異つている船舶においては、各群の要求に適合するに必要なような別々の且つ適当な寝室及び居住設備を施さなければならない。
4 第十条5に掲げられる船舶については、病院、食堂、浴場及び衛生設備は、その数及び実用性に関し類似型のその他のすべての船舶であつて同一の登録所に属するものに認められると同等であるか又はこれに相当する標準で設備し、且つ維持しなければならない。
5 権限ある機関は、この条に基く特別規則を制定する場合、関係ある公認された誠実な船員労働組合並びに船員を使用する船舶所有者団体及び(又は)船舶所有者と協議しなければならない。

第 十 七 条

1 船員設備は、清潔で相当な居住を為しうる状態に保ち、且つ利用者の個人的所有に属しない物品及び用具を自由に使用しうるようにしなければならない。
2 船長又は船長により特に代理を命ぜられた士官は、一人又はそれ以上の船員を伴つて、一週間以内の期間毎にすべての船員設備を検査しなければならない。かかる各検査の結果は、これを記録しなければならない。

第 四 部 現存船舶に対する条約の適用

第 十 八 条

1 本条2及び3の規定を条件として、この条約は、登録領域に対するこの条約の効力発生後に建造される船舶に適用する。
2 登録領域に対するこの条約の効力発生の日に充分完成している船舶でこの条約の第三部に定められる基準に満たないものについては、権限ある機関は、船舶所有者団体及び(又は)船舶所有者並びに公認された誠実な船員労働組合と協議して、次の場合に船舶をこの条約の要件に適合させるため関係ある実際的問題を考慮して可能と認められる変更を要求することができる。
 (a) 船舶が登録される場合
 (b) 事故又は緊急事態の結果としてではなく、長期計画の結果として船舶に本質的な構造上の変更又は大修理を為す場合
3 登録領域に対するこの条約の効力発生の日において建造中及び(又は)改造中の船舶については、権限ある機関は、船舶所有者団体及び(又は)船舶所有者並びに公認された誠実な船員労働組合と協議して、船舶をこの条約の要件に適合させるため関係ある実際問題を考慮して可能と認められる変更を要求することができる。かかる変更は、船舶が再登録されるまでは、この条約の条件に最終的に適合するものでなければならない。

第 五 部 最終規定

第 十 九 条

 この条約のいかなる規定も、この条約により定められるものよりも一層有利な条件を確保する法律、裁定、慣習又は船舶所有者と船員との間の協約に影響を及ぼすものではない。

第 二 十 条

 この条約の正式批准は、登録のため国際労働事務局長にこれを通告しなければならない。

第 二 十 一 条

1 この条約は、国際労働事務局長にその批准を登録した国際労働機関の加盟国のみを拘束する。
2 この条約は、次の諸国中の七箇国でその中少くとも四箇国で少くとも百万総登録トンの船舶を有するものによる批准が登録された日の六箇月後に効力を発生する。アメリカ合衆国、アルゼンテイン共和国、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、中華民国、デンマーク、フインランド、フランス、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、ギリシヤ、インド、アイルランド、イタリア、オランダ、ノールウエー、ポーランド、ポルトガル、スウエーデン、トルコ、ユーゴースラヴイア。この規定は、加盟国によるこの条約の早期の批准を容易にし、且つ促進するために挿入されるものである。
3 爾後この条約は、他の何れの加盟国についても、その批准が登録された日の六箇月後に効力を発生する。

第 二 十 二 条

1 この条約を批准した加盟国は、条約が効力を発生した日から十年の期間満了後に於て、国際労働事務局長宛登録の為にする通告によりこれを廃棄することができる。右の廃棄は、その登録のあつた日の後一年間はその効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国であつて前項に掲げた十年の期間満了後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受くべく、又爾後各十年の期間満了毎に本条に定める条件により、この条約を廃棄することができる。

第 二 十 三 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通告を受けた批准及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、この条約が効力を発生するに必要な最後の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を発生する日について国際労働機関の加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 二 十 四 条

 国際労働事務局長は、前数条の規定に従い登録されたすべての批准及び廃棄の詳細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通告しなければならない。

第 二 十 五 条

 国際労働事務局の理事会は、この条約の効力発生後各十年の期間満了毎にこの条約の運用に関する報告を総会に提出すべく、且つその全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に掲ぐべきや否やを審議しなければならない。

第 二 十 六 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合には、新条約が別段の規定をしない限り、
 (a) 一加盟国による新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したとき、前記第二十二条の規定に拘わらず、当然にこの条約の即時の廃棄を生ぜしめる。
 (b) 新改正条約の効力発生の日から、この条約は、加盟国により批准され得ないようになる。

第 二 十 七 条

 この条約は、イギリス語及びフランス語の本文を以て共に正文とする。