1946年の年少者健康検査(工業)条約(第77号)

ILO条約 | 1946/10/09

工業における児童及び年少者の雇用適格のための健康検査に関する条約(第77号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてモントリオールに招集され、且つ千九百四十六年九月十九日にその第二十九回会議を開催し、
 この会議の会議事項の第三項目に含まれている工業における児童及び年少者の雇用適格のための健康検査に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は国際条約の形式によるべきものであることを決定したので、
 千九百四十六年の年少者健康検査(工業)条約として引用することができる次の条約を千九百四十六年十月九日に採択する。

第 一 部 総則

第 一 条

1 この条約は、公有であると私有であるとを問わず、工業的企業において又はこれに関連して、雇用され又は労働する児童及び年少者に適用する。
2 この条約において「工業的企業」と称するのは、特に左に掲げるものを包含する。
 (a) 鉱山業、石切業その他土地より鉱物を採取する事業
 (b) 物品の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売のためにする仕立、破壊若しくは解体をし又は材料の変造をする企業(造船並びに電気又は各種動力の発生、変更及び伝導に従事する諸企業を含む。)
 (c) 建築及び土木工事に従事する企業(建設、修理、保存、変更及び解体工事を含む。)
 (d) 道路、鉄軌道、内地水路又は航空による旅客又は貨物の運送(船渠、岸壁、波止場、倉庫又は空港における貨物の取扱を含む。)
3 権限のある機関は、工業と農業、商業及びその他の非工業的業務との分界を定めるものとする。

第 二 条

1 児童及び十八歳未満の年少者は、厳密な健康検査によつて使用されるべき作業に適すると認められるのでなければ、工業的企業にこれを使用してはならない。
2 雇用適格のための健康検査は、権限のある機関の承認する有資格の医師によつて行われなければならない。又該検査は、健康証明書により又は労働許可書若しくは労働手帳の裏書によつて、これを証明しなければならない。
3 雇用適格を証明する書類は、次の場合に発行することができる。
 (a) 雇用の特殊の条件に基き、
 (b) 雇用適格のための健康検査に関する法令の施行につき責任を有する当局が同一部類の健康上の危険をもつものとして分類した特定の職務若しくは職務群又は業務群に対して
4 国内の法令は、雇用適格を証明する書類を発行する権限のある機関を定め、且つ該書類の作成及び発行に関し守るべき条件を定めなければならない。

第 三 条

1 児童又は年少者の従事する雇用に対する適格は、十八歳に達するまで医師の監督の下におかなければならない。
2 児童又は十八歳未満の年少者を継続して雇用する場合は、一年を超えない間隔をおいて繰り返し健康検査を受けさせなければならない。
3 国内の法令は、次の規定を含まなければならない。
 (a) 以前の検査に現われたその児童又は年少者の職業における危険及び健康状態に関し有効な監督を行うために、年次検査に加えて又は更に頻繁に健康再検査を必要とする特別の場合の規定を設けること。又は
 (b) 例外の場合に権限のある機関に健康検査を要求する権限を与えること。

第 四 条

1 高度の健康上の危険のある職業においては、少くとも二十一歳に達するまで、雇用適格の健康検査及び再検査を行わなければならない。
2 国内の法令は、少くとも二十一歳に達するまで、雇用適格のための健康検査及び再検査を必要とする業務又は業務の範囲を定めるか、又はこれを定める権限を適当な機関に与えなければならない。

第 五 条

 前諸条により要求される健康検査については、児童若しくは年少者又はその両親に何等の費用をも負担させてはならない。

第 六 条

1 権限のある機関は、健康検査によりある種の作業に不適当であること又は身体上に障害若しくは限界をもつことが明かにされた児童及び年少者の職業指導並びに肉体的及び職業的更生について、適当な措置を執らなければならない。
2 かかる措置の性質及び範囲は、権限のある機関がこれを決定するものとする。このためには労働、保健、教育及び社会の各関係機関の間において協力を保たなければならず、又かかる措置を実施するためにこれら各機関の間に有効な連絡を維持しなければならない。
3 国内の法令は、雇用に対する適格が明確に決定されない児童及び年少者に対して左記を発行する規定を設けることができる。
 (a) 一定期間有効でありその期間の満了とともに年少者が健康再検査を受けることを要する如き仮の労働許可証又は健康証明書
 (b) 特別の雇用条件を必要とする許可証又は証明書

第 七 条

1 使用者は、国内の法令により規定される使用に対する医学的支障がないことを示した雇用適格の証明書又は労働許可証若しくは労働手帳を備え付け、労働監督官に提示し得るようにしておかなければならない。
2 国内の法令は、この条約の厳重な施行を確保するためにその他の監督方法を定めなければならない。

第 二 部 若干の国に対する特別規定

第 八 条

1 人口の稀薄又はその地域の発展段階の理由で権限のある機関がこの条約の規定の施行を不可能と認める如き広大な地域をもつた加盟国については、該機関は、かかる地域に対し、一般的に又は特定の企業若しくは職業についてその適当と認める如き除外例を設けて、この条約の適用を除外することができる。
2 各加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条により提出されるべきこの条約の適用に関するその第一回の年次報告において、本条の規定を援用せんとする地域を指摘することを要し、且つ如何なる加盟国も、その第一回の報告の日附後は、指摘された地域についての外、この条の規定を援用することはできない。
3 本条の規定を援用する加盟国は、その後の年次報告において、本条の規定を援用する権利を放棄する地域を指摘しなければならない。

第 九 条

1 この条約の批准を許す法令の採択の日附以前に児童及び年少者の工業における雇用適格のための健康検査に関する法令を有しなかつた加盟国は、その批准に附する宣言において、第二条及び第三条に規定する十八歳の代りに十八歳よりも少い年令を以てすることができるが、如何なる場合にも、十六歳よりも少くすることはできず、又第四条に規定する二十一歳の代りに二十一歳より少い年令を以てすることができるが、如何なる場合にも十九歳よりも少くすることはできない。
2 かかる宣言をした加盟国は、何時でもその後に発する宣言によつてこの宣言を取消すことができる。
3 本条1による宣言が実施されている加盟国は、毎年この条約の適用に関するその年次報告においてこの条約の条項の完全な適用を目指して如何なる進歩が為されたかについて報告をしなくてはならない。

第 十 条

1 この条約の第一部の規定は、本条に示された変更を条件として、インドに適用されるものとする。
 (a) 前記の規定は、インド立法府がその適用の管轄権を有するすべての領土に適用される。
 (b) 「工業的企業」と称するのは、次に掲げるものを含む。
  (i) インド工場法に定義されている工場
  (ii) インド鉱山法に定義されている鉱山
  (iii) 鉄道
  (iv) 千九百三十八年の児童雇用法の適用を受けるすべての雇用
 (c) 第二条及び第三条は、児童及び十六歳未満の年少者に適用されるものとする。
 (d) 第四条においては、十九歳を以て二十一歳に代えるものとする。
 (e) 第六条1及び2は、インドに適用されないものとする。
2 本条1の規定は、次に掲げる手続によつて修正され得るものとする。
 (a) 国際労働総会は、当該問題がその会議事項に含まれる会議において、本条1の改正案を三分の二の多数で採択することができる。
 (b) 右改正案は、総会の閉会後一年以内に又は例外の事情においては十八箇月以内に、インドにおいて立法その他の措置のために当該事項について権限のある機関に提出されなければならない。
 (c) インドは、当該事項について権限のある機関の同意を得たときは、改正の正式批准を登録のため国際労働事務局長に通告しなければならない。
 (d) 右の改正案は、インドにより批准されたときは、この条約の改正として効力を発生するものとする。

第 三 部 最終規定

第 十 一 条

 この条約の規定は、この条約により定められるものよりも有利な条件を確保するいずれの法律、裁定、慣習又は使用者と労働者との間の協約にも影響を及ぼすものではない。

第 十 二 条

 この条約の正式批准は、登録のため国際労働事務局長にこれを通告しなければならない。

第 十 三 条

1 この条約は、事務局長にその批准を登録した国際労働機関の加盟国のみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長に登録された日から十二箇月後に効力を発生する。
3 爾後この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日から十二箇月後に効力を発生する。

第 十 四 条

1 この条約を批准した加盟国は、条約が効力を発生した日から十年の期間満了後において、国際労働事務局長に登録のためにする通告によりこれを廃棄することができる。右の廃棄は、その登録のあつた日の後一年間はその効力を生じない。
2 この条約を批准した各加盟国であつて前項に掲げた十年の期間満了後一年以内にこの条に定めた廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受くべく、又爾後各十年の期間満了毎に本条に規定する条件に従つてこれを廃棄することができる。

第 十 五 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の各加盟国から通告をうけたすべての批准及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通告をうけた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、条約が効力を発生する日について国際労働機関の加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 十 六 条

 国際労働事務局長は、前諸条の規定に従い登録されたすべての批准及び廃棄の詳細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通告しなければならない。

第 十 七 条

 国際労働事務局の理事会は、この条約の効力発生の後十年の期間が満了するごとに、この条約の施行に関する報告を総会に提出し、且つこの条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の会議事項に掲ぐべきか否かを審議しなければならない。

第 十 八 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合、新改正条約に別段の定のない限り、
 (a) 一加盟国による新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したとき、前記第十四条の規定に拘わらず当然にこの条約の即時の廃棄を生ぜしめる。
 (b) 新改正条約の効力発生の日から、この条約は、加盟国により批准され得ないようになる。
2 この条約は、これを批准したが改正条約を批准しない加盟国に対しては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容において引き続いて効力を有する。

第 十 九 条

 この条約は、イギリス語及びフランス語の本文を以て共に正文とする。