1947年の労働監督条約(第81号)

ILO条約 | 1947/07/11

工業及び商業における労働監督に関する条約(第81号)
(1953年10月20日批准登録)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百四十七年六月十九日にその第三十回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第四議題である工業及び商業における労働監督の組織に関する諸提案の採択を決定し、
 それらの提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 千九百四十七年の労働監督条約と称する次の条約を千九百四十七年七月十一日に採択する。

第 一 部 工業における労働監督

第 一 条

 この条約の適用を受ける国際労働機関の加盟国は、工業的事業場における労働監督の制度を保持しなければならない。

第 二 条

1 工業的事業場における労働監督の制度は、労働監督官が労働条件及び作業中の労働者の保護に関する法規の実施を確保すべきすべての事業場に適用される。
2 鉱業及び運送業又はそれらの企業の一部は、国内の法令でこの条約の適用から除外することができる。

第 三 条

1 労働監督の制度の機能は、次のとおりとする。
 (a) 労働条件及び作業中の労働者の保護に関する法規、たとえば、労働時間、賃金、安全、健康及び福祉、児童及び年少者の雇用その他の関係事項に関する規定の実施を労働監督官の権限の範囲内で確保すること。
 (b) 法規を遵守する最も実効的な方法に関し、使用者及び労働者に専門的な情報及び助言を与えること。
 (c) 現行の法規に明示的規定のない欠陥又は弊害について、権限のある機関の注意を喚起すること。
2 労働監督官に与えられるその他の任務は、労働監督官の本来の任務の実効的な遂行を妨げるものであつてはならず、また、使用者及び労働者との関係において労働監督官が必要とする権威及び公正を少しでも害するようなものであつてはならない。

第 四 条

1 労働監督は、加盟国の行政上の慣行と両立しうる限り、中央機関の監督及び管理の下に置かなければならない。
2 連邦については、「中央機関」とは、連邦の機関又は連邦の構成単位の中央機関をいう。

第 五 条

 権限のある機関は、次のことを促進するため適当な措置を執らなければならない。
 (a) 労働監督機関とこれと同種の活動に従事する他の政府機関及び公私の施設との間の有効な協力
 (b) 労働監督機関の職員と使用者及び労働者又はそれらの団体との間の協力

第 六 条

 監督職員は、分限及び勤務条件について、身分の安定を保障され、且つ、政府の更迭及び不当な外部からの影響と無関係である公務員でなければならない。

第 七 条

1 労働監督官は、国内の法令で定める公務員の採用に関する条件に従い、その任務の遂行に必要な資格を特に考慮して採用しなければならない。
2 前記の資格を認定する方法は、権限のある機関が決定する。
3 労働監督官は、その任務の遂行のため適当な訓練を受けなければならない。

第 八 条

 男子及び女子のいずれも、監督職員に任命される資格を有する。必要がある場合には、男子監督官及び女子監督官にそれぞれ特別の任務を与えることができる。

第 九 条

 加盟国は、作業中の労働者の健康及び安全の保護に関する法規の実施を確保し、並びに作業工程、材料及び作業方法が労働者の健康及び安全に及ぼす影響を調査する目的をもつて、国内事情の下で最も適当と認める方法により、正当の資格を有する技術者及び専門家(医学、工学、電気学及び化学の専門家を含む。)の監督業務における協力を確保するため必要な措置を執らなければならない。

第 十 条

 労働監督官の数は、監督機関の任務の実効的な遂行を確保するために充分なものでなければならず、また、次のことを考慮して決定しなければならない。
 (a) 監督官が遂行すべき任務の重要性、特に、
  (i)  監督を受ける事業場の数、性質、規模及び位置
  (ii)  それらの事業場で使用する労働者の数及び種類
  (iii) 実施を確保すべき法規の数及び複雑性
 (b) 監督官が使用できる物的手段
 (c) 監督を実効的なものにするため臨検を必要とする実情

第 十 一 条

1 権限のある機関は、労働監督官に次のものを供与するため必要な措置を執らなければならない。
 (a) 業務の必要に応じて適当な設備を有し、且つ、すべての関係者が利用できる地方の事務所
 (b) 適当な公共の交通施設が存在しない場合には、監督官の任務の遂行に必要な交通上の便益
2 権限のある機関は、労働監督官に対してその任務の遂行に必要な旅費を弁償するため必要な措置を執らなければならない。

第 十 二 条

1 正当な証明書を所持する労働監督官は、次の権限を有する。
 (a) 監督を受ける事業場に、昼夜いつでも、自由に且つ予告なしに立ち入ること。
 (b) 監督を受けるべきであると認めるに足りる相当の理由があるいずれの場所にも、昼間立ち入ること。
 (c) 法規が厳格に遵守されていることを確認するため必要と認める調査、検査又は尋問を行うこと、特に、
  (i) 法規の適用に関するいかなる事項についても、余人をまじえずに又は証人の立会の下に使用者又は企業の職員を尋問すること。
  (ii) 労働条件に関する国内の法令の規定により備え付けなければならない帳簿、台帳その他の書類が法規に適合していることを確め、及びそれらの書類の写をとり、又は抜すいを作るため、それらの書類の提出を要求すること。
  (iii) 法規により要求される掲示を行わせること。
  (iv) 使用され、又は取り扱われる原料及び材料を分析のため収去すること。但し、このような目的のために原料又は材料を収去することを使用者又はその代表者に通告しなければならない。
2 監督官は、臨検をする場合には、任務の遂行を妨げる虞があると認める場合を除く外、その来訪を使用者又はその代表者に通告しなければならない。

第 十 三 条

1 労働監督官は、設備、配置又は作業方法について認めた欠陥で労働者の健康又は安全を脅かすと認めるに足りる相当の理由があるものに対するきよう正措置を執る権限を与えられる。
2 監督官は、前記の措置を執るため、次のことを要求する命令を出し、又は出させる権限を与えられる。但し、法令の定める司法機関又は行政機関に訴える権利は、留保される。
 (a) 労働者の健康又は安全に関する法規の遵守を確保するため必要な施設又は設備の変更を一定の期間内に行うこと。
 (b) 労働者の健康又は安全に急迫した危険がある場合には、即時の措置を執ること。
3 2に定める手続が加盟国の行政上又は司法上の慣行に反する場合には、監督官は、権限のある機関に対して命令の発出又は即時の措置の開始を申請する権限を有する。

第 十 四 条

 産業災害及び職業病については、国内の法令で定める場合において、その定める方法で労働監督機関に通告しなければならない。

第 十 五 条

 国内の法令で定める例外を留保して、労働監督官は、
 (a) その監督の下にある企業に対し直接又は間接の利害関係をもつことを禁ぜられる。
 (b) 職務上知り得た製造上若しくは商業上の秘密又は作業工程をその職を退いた後も漏らしてはならず、これに違反したときは相当の刑罰又は懲戒処分を受ける。
 (c) 施設の欠陥又は法規の違反に関して監督官の注意を喚起する苦情については、その出所を極秘として取り扱わなければならず、また、そのような苦情を受理した結果として臨検を行つたことを使用者又はその代表者に知らせてはならない。

第 十 六 条

 事業場に対しては、関係法規の実効的な適用の確保に必要である限りひんぱん且つ完全に監督を実施しなければならない。

第 十 七 条

1 労働監督官によつて実施を確保されるべき法規に違反し、又はこれを遵守することを怠る者は、事前の警告なしにすみやかに司法上の手続に付される。但し、きよう正措置又は予防措置を執るべき旨の予告を必要とする場合について、国内の法令で例外を設けることができる。
2 労働監督官は、その裁量により、司法上の手続を開始し又は勧告する代りに、警告及び助言を与えることができる。

第 十 八 条

 労働監督官によつて実施を確保されるべき法規の違反及び労働監督官の任務の遂行の妨害については、相当な刑罰を国内の法令によつて規定し、且つ、実効的に実施しなければならない。

第 十 九 条

1 労働監督官又は地方の監督事務所は、その監督活動の結果に関する定期報告を中央監督機関に提出するものとする。
2 これらの報告は、中央機関が定める様式によつて作成し、且つ、この機関が随時定める事項を取り扱う。これらの報告は、少くとも中央機関が定める回数だけ(いかなる場合にも年に一回以上)提出しなければならない。

第 二 十 条

1 中央監督機関は、その管理の下にある監督機関の業務に関する年次一般報告を公表しなければならない。
2 その年次報告は、当該年度の終了後適当な期間内に、いかなる場合にも十二箇月以内に公表しなければならない。
3 年次報告の写は、公表後適当な期間内に、いかなる場合にも三箇月以内に国際労働事務局長に送付しなければならない。

第 二 十 一 条

 中央監督機関が公表する年次報告は、次の事項及びその他の関係事項でその管理の下にあるものを取り扱う。
 (a) 労働監督機関の業務に関係のある法令
 (b) 労働監督機関の職員
 (c) 監督を受けるべき事業場に関する統計及びそこで使用する労働者の数
 (d) 臨検に関する統計
 (e) 違反及び処罰に関する統計
 (f) 産業災害に関する統計
 (g) 職業病に関する統計

第 二 部 商業における労働監督

第 二 十 二 条

 この条約のこの部の適用を受ける国際労働機関の加盟国は、商業的事業場における労働監督の制度を保持しなければならない。

第 二 十 三 条

 商業的事業場における労働監督の制度は、労働監督官が労働条件及び作業中の労働者の保護に関する法規の実施を確保すべき事業場に適用される。

第 二 十 四 条

 商業的事業場における労働監督の制度については、この条約の第三条から第二十一条までの規定を準用する。

第 三 部 雑則

第 二 十 五 条

1 この条約を批准する国際労働機関の加盟国は、その批准に附する宣言により、この条約の受諾から第二部を除外することができる。
2 そのような宣言を行つた加盟国は、その後の宣言によつていつでもその宣言を取り消すことができる。
3 本条1によつて行つた宣言の適用を受ける加盟国は、毎年、この条約の適用に関する年次報告において、この条約の第二部の規定についての法律及び慣行の現況並びにそれらの規定がどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているかを示さなければならない。

第 二 十 六 条

 企業、一企業の一部若しくは一業務又は事業場がこの条約の適用を受けるものであるかどうかが疑わしい場合には、権限のある機関がこれを解決するものとする。

第 二 十 七 条

 この条約において「法規」という場合には、法令の外、法的効力を有し、且つ、労働監督官が実施を確保すべき仲裁裁定及び労働協約を含むものとする。

第 二 十 八 条

 国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出すべき年次報告には、この条約の規定を実施するためのすべての法令に関する詳細な資料を含めるものとする。

第 二 十 九 条

1 加盟国の領域内の広大な地域について、権限のある機関が、人口のき薄性又は発達の程度にかんがみ、この条約の規定を実施することができないと認める場合には、その機関は、全面的に又は特定の企業若しくは職業について適当と認める例外を設けて、その地域をこの条約の適用から除外することができる。
2 加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出するこの条約の適用に関する第一回の年次報告において、本条の規定を適用しようとする地域を指定し、且つ、その規定を適用しようとする理由を示さなければならない。いずれの加盟国も、第一回の年次報告の日付の日の後は、こうして指定した地域を除く外、本条の規定を適用してはならない。
3 本条の規定を適用する加盟国は、その後の年次報告において、本条の規定を適用する権利を放棄する地域を指定しなければならない。

第 三 十 条

1 この条約を批准する国際労働機関の加盟国は、千九百四十六年の国際労働機関憲章の改正文書によつて改正された国際労働機関憲章第三十五条に掲げる地域のうち同条4及び5に掲げる地域以外のものについては、批准の後なるべくすみやかに、次の事項を述べる宣言を国際労働事務局長に通知しなければならない。
 (a) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えずに適用することを約束する地域
 (b) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えて適用することを約束する地域及びその変更の細目
 (c) この条約を適用することができない地域及びその適用することができない理由
 (d) 当該加盟国が決定を留保する地域
2 本条1(a)及び(b)に掲げる約束は、批准の不可分の一部とみなされ、且つ、批准と同一の効力を有する。
3 加盟国は、本条1(b)、(c)又は(d)に基きその最初の宣言において行つた留保の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも取り消すことができる。
4 加盟国は、第三十四条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、且つ、指定する地域に関する現況を述べた宣言を事務局長に通知することができる。

第 三 十 一 条

1 この条約の主題たる事項が非本土地域の自治権の範囲内にあるときは、当該地域の国際関係について責任を負う加盟国は、当該地域の政府と合意して、当該地域のためにこの条約の義務を受諾する宣言を国際労働事務局長に通知することができる。
2 この条約の義務を受諾する宣言は、次のものが国際労働事務局長に通知することができる。
 (a) 国際労働機関の二以上の加盟国の共同の権力の下にある地域については、その二以上の加盟国 又は
 (b) 国際連合憲章等によつて国際機関が施政の責任を負う地域については、その国際機関
3 本条1及び2に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、当該地域内でこの条約の規定を変更を加えずに適用するか又は変更を加えて適用するかを示さなければならない。その宣言は、この条約の規定を変更を加えて適用することを示している場合には、その変更の細目を示さなければならない。
4 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、前の宣言において示した変更を適用する権利の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも放棄することができる。
5 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、第三十四条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、且つ、この条約の適用についての現況を述べる宣言を国際労働事務局長に通知することができる。

第 四 部 最終規定

第 三 十 ニ 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知しなければならない。

第 三 十 三 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長により登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 三 十 四 条

1 この条約を批准した各加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によってこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、それが登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した各加盟国で、1に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年間拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基づいて、十年の期間が満了するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 三 十 五 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 三 十 六 条

 国際労働事務局長は、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准、宣言及び廃棄の完全な明細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 三 十 七 条

 国際労働機関の理事会は、この条約の効力発生の後十年の期間が満了するごとに、この条約の運用に関する報告を総会に提出しなければならず、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 三 十 八 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として、第三十四条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、この条約を批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 三 十 九 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ひとしく正文とする。