1948年の職業安定組織条約(第88号)

ILO条約 | 1948/07/09

職業安定組織の構成に関する条約(第88号)
(日本は1953年10月20日に批准)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりサン・フランシスコに招集されて、千九百四十八年六月十七日にその第三十一回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第四議題である職業安定組織の構成に関する諸提案の採択を決定し、
 それらの提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 千九百四十八年の職業安定組織条約と称する次の条約を千九百四十八年七月九日に採択する。

第 一 条

1 この条約の適用を受ける国際労働機関の加盟国は、無料の公共職業安定組織を維持し、又はその維持を確保しなければならない。
2 職業安定組織の本来の任務は、必要な場合には他の公私の関係団体と協力して、完全雇用の達成及び維持並びに生産資源の開発及び利用のための国家的計画の不可分の一部として雇用市場を最もよく組織化することである。

第 二 条

 職業安定組織は、国の機関の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成される。

第 三 条

1 その体系は、当該国の各地理的区域について充分な数であつて使用者及び労働者にとつて便利な位置にある地区職業安定機関及び適当な場合には地方職業安定機関の網状組織から成る。
2 この網状組織の構成は、
 (a) 次の場合には、再検討しなければならない。
  (i) 経済活動及び労働力人口の分布に重大な変化が起つた場合
  (ii) 権限のある機関が、実験期間中に得た経験にかんがみて再検討が望ましいと認める場合
 (b) 前記の再検討の結果改正を必要とする場合には、改正しなければならない。

第 四 条

1 職業安定組織の構成及び運営並びに職業安定業務に関する政策の立案について使用者及び労働者の代表者の協力を得るため、審議会を通じて適当な取極が行われなければならない。
2 それらの取極においては、一又は二以上の中央の審議会並びに必要な場合には地方及び地区の審議会の設置を定めなければならない。
3 それらの審議会における使用者及び労働者の代表者は、使用者及び労働者の代表的団体が存在する場合には、それらと協議の上それぞれ同数が任命されなければならない。

第 五 条

 職業安定組織の労働者に対する職業紹介についての一般的政策は、第四条に定める審議会を通じて使用者及び労働者の代表者に諮問した上で決定しなければならない。

第 六 条

 職業安定組織は、効果的な募集及び斡旋を確保することができるように構成しなければならず、また、この目的のため、
 (a) 労働者が適当な職業を見出すこと及び使用者が適当な労働者を見出すことを援助し、特に、全国的に適用される規程に従つて次のことを行わなければならない。
  (i) 求職者を登録し、その者について、職業上の技能、経験及び希望を記録し、職業紹介のために面接し、必要な場合にはその肉体的及び職業的能力を評価し、並びに適当な場合にはその者が職業指導又は職業訓練若しくは職業再訓練を受けることを援助すること。
  (ii) 使用者が職業安定機関に通告する求人及び使用者の求めている労働者の具備すべき要件について正確な情報を使用者から得ること。
  (iii) 職業的及び肉体的能力を有する求職者を適当な職業に紹介すること。
  (iv) 最初の職業安定機関が求職者を適当な職業に斡旋することができないか若しくは求人を適当に充足することができない場合又は他の適当な事由がある場合には、求職及び求人を他の職業安定機関に連絡すること。
 (b) 次のことを行うため適当な措置を執らなければならない。
  (i) 労働力の供給を各種の職業における雇用機会に適応させるため職業間の移動を容易にすること。
  (ii) 適当な雇用機会のある地域への労働者の移動を援助するため地域間の移動を容易にすること。
  (iii) 労働力の需要供給の一時的な地方的不均衡に応ずる手段として、一地域から他の地域への労働者の一時的移動を容易にすること。
  (iv) 関係政府の承認を得て行われる一国から他国への労働者の移動を容易にすること。
 (c) 適当な場合には、他の公の機関、経営者及び労働組合と協力して、全国並びに各産業、各職業及び各地区における雇用市場の状況及び予想される発展に関するできる限り完全な情報を収集分析しなければならず、また、これを組織的且つ迅速に関係のある公の機関、使用者団体及び労働者団体並びに一般国民の利用に供さなければならない。
 (d) 失業保険、失業者扶助その他の失業者救済措置の実施について協力しなければならない。
 (e) 必要がある場合には、好ましい雇用状態を確保するための社会上及び経済上の計画の立案について他の公私の団体を援助しなければならない。

第 七 条

 次のことを行うため措置を執らなければならない。
 (a) 職業別及び産業別による専門化を有益とする農業その他の活動部門については、各種の職業安定機関においてその専門化を促進すること。
 (b) 身体障害者のような特殊な種類の求職者の要求を充分に満たすこと。

第 八 条

 職業安定及び職業指導の業務の範囲内において年少者に対する特別の措置を執り、且つ、発展させなければならない。

第 九 条

1 職業安定組織の職員は、分限及び勤務条件について、政府の更迭及び不当な外部からの影響と無関係であり、且つ、当該組織上の必要による場合を除く外、身分の安定を保障される公務員でなければならない。
2 職業安定組織の職員は、国内の法令で定める公務員の採用に関する条件に従い、その任務の遂行に必要な資格を特に考慮して採用しなければならない。
3 前記の資格を認定する方法は、権限のある機関が決定する。
4 職業安定組織の職員は、その任務の遂行のため適当な訓練を受けなければならない。

第 十 条

 職業安定組織及び適当な場合には他の公の機関は、使用者団体、労働者団体その他利害関係のある団体と協力して、使用者及び労働者が任意に職業安定組織を充分に利用することを奨励するためあらゆる措置を執らなければならない。

第 十 一 条

 権限のある機関は、公共職業安定組織と営利を目的としない私営の職業紹介所との間の実効的な協力を確保するため必要な措置を執らなければならない。

第 十 二 条

1 加盟国の領域内の広大な地域について、権限のある機関が、人口の希薄性又は発達の程度にかんがみ、この条約の規定を実施することができないと認める場合には、その機関は、全面的に又は特定の企業若しくは職業について適当と認める例外を設けて、その地域をこの条約の適用から除外することができる。
2 加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条に基いて提出するこの条約の適用に関する第一回の年次報告において、本条の規定を適用しようとする地域を指定し、且つ、その規定を適用しようとする理由を示さなければならない。いずれの加盟国も、第一回の年次報告の日付の日の後は、こうして指定した地域を除く外、本条の規定を適用してはならない。
3 本条の規定を適用する加盟国は、その後の年次報告において、本条の規定を適用する権利を放棄する地域を指定しなければならない。

第 十 三 条

1 この条約を批准する国際労働機関の加盟国は、千九百四十六年の国際労働機関憲章の改正文書によつて改正された国際労働機関憲章第三十五条に掲げる地域のうち同条4及び5に掲げる地域以外のものについては、批准の後なるべくすみやかに、次の事項を述べる宣言を国際労働事務局長に通知しなければならない。
 (a) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えずに適用することを約束する地域
 (b) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えて適用することを約束する地域及びその変更の細目
 (c) この条約を適用することができない地域及びその適用することができない理由
 (d) 当該加盟国が決定を留保する地域
2 本条1(a)及び(b)に掲げる約束は、批准の不可分の一部とみなされ、且つ、批准と同一の効力を有する。
3 加盟国は、本条1(b)、(c)又は(d)に基きその最初の宣言において行つた留保の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも取り消すことができる。
4 加盟国は、第十七条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、且つ、指定する地域に関する現況を述べた宣言を事務局長に通知することができる。

第 十 四 条

1 この条約の主題たる事項が非本土地域の自治権の範囲内にあるときは、当該地域の国際関係について責任を負う加盟国は、当該地域の政府と合意して、当該地域のためにこの条約の義務を受諾する宣言を国際労働事務局長に通知することができる。
2 この条約の義務を受諾する宣言は、次のものが国際労働事務局長に通知することができる。
 (a) 国際労働機関の二以上の加盟国の共同の権力の下にある地域については、その二以上の加盟国 又は
 (b) 国際連合憲章等によつて国際機関が施政の責任を負う地域については、その国際機関
3 本条1及び2に従つて国際労働事務局長に通知する宣言は、当該地域内でこの条約の規定を変更を加えずに適用するか又は変更を加えて適用するかを示さなければならない。その宣言は、この条約の規定を変更を加えて適用することを示している場合には、その変更の細目を示さなければならない。
4 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、前の宣言において示した変更を適用する権利の全部又は一部をその後の宣言によつていつでも放棄することができる。
5 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、第十七条の規定に従つてこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、且つ、この条約の適用についての現況を述べる宣言を国際労働事務局長に通知することができる。

第 十 五 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知しなければならない。

第 十 六 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国のうちその批准を事務局長が登録したもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、他のいずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 七 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間が経過した後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によつて廃棄することができる。その廃棄は、その登録の日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で1に掲げる十年の期間の経過の後一年以内に本条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年間拘束を受けるものとし、その後は、本条に定める条件に基いて、十年の期間が経過するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 八 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 十 九 条

 国際労働事務局長は、前各条の規定に従つて登録されたすべての批准、宣言及び廃棄書の完全な明細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 二 十 条

 国際労働機関の理事会は、この条約の効力発生の後十年の期間が経過するごとにこの条約の運用に関する報告を総会に提出しなければならず、また、この条約の全部又は一部を改正する問題を総会の議事日程に加えることの可否を審議しなければならない。

第 二 十 一 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その新条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正新条約の批准は、改正新条約の効力発生を条件として、第十七条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正新条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 二 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ひとしく正文とする。