1949年の賃金、労働時間及び定員(海上)条約(改正)(第93号)

ILO条約 | 1949/06/18

賃金、船内労働時間及び定員に関する条約(第93号)(千九百四十九年改正)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千二十一年六月十八日にその第百九回会期として会合し、八本の国際労働条約の廃止並びに十本の国際労働条約及び十一本の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千二十一年六月十八日に、千九百四十九年の賃金、労働時間及び定員(海上)条約(改正)(第九十三号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の全加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百四十九年六月八日を以てその第三十二回会議を開催し、
 この会議の議事日程の第十二議題に含まれている、賃金、船内労働時間及び定員に関する提案の採択を決議し、且つ
 この提案は国際条約の形式によるを要することを思い、
 千九百四十九年の賃金、労働時間及び定員(海上)条約(改正)として引用することができる次の条約を千九百四十九年六月十八日に採択する。

第 一 部 一般規定

第 一 条

 この条約のいかなる規定も、この条約により定められるものよりも一層有利な条件を船員に確保する法律、裁定、慣習又は船舶所有者と船員との間の協約による賃金、船内労働時間又は定員に関する規定を阻害するものと認めてはならない。

第 二 条

1 この条約は、公有たると私有たるとを問わず、次のすべての船舶に適用する。
 (a) 機械推進のもの
 (b) この条約が実施される領域において登録されたもの
 (c) 商業のため貨物又は旅客の輸送に従事するもの
 (d) 海洋航行に従事するもの
2 この条約は、次のものに適用しない。
 (a) 五百総登録トン未満の船舶
 (b) ダウ及びジヤンクの如き原始的構造の木造船
 (c) 漁撈又はこれと直接関係ある作業に従事する船舶
 (d) 江湾船

第 三 条

 この条約は、船内業務に従事するすべての者に適用する。尤も次の者を除く。
 (a) 船長
 (b) 乗組員でない水先人
 (c) 医師
 (d) 専ら看護に従事する看護人及び病室に勤務する者
 (e) 専ら船内貨物に関する業務に従事する者
 (f) 専ら自己の計算において働く者又は専ら利益若しくは所得の分配により報酬を受ける者
 (g) 自己の勤務に対し報酬を受けない者又は名目のみの給料若しくは賃金を受ける者
 (h) 船舶所有者以外の使用者により船内において使用される者。尤も無線電信会社の勤務に服する者を除く。
 (i) 船員ではない移動港湾労務者(仲仕)
 (j) 船員団体により締結された給与率、労働時間及びその他の勤務条件を定める特別共同捕鯨協定又は類似の協定の条項により規律される条件の下に捕鯨又は類似の作業のために捕鯨船、浮工場、運送船その他に使用される者
 (k) 乗組員でない者(契約条項上で労働すると契約条項外で労働するとを問わない。)で、船舶が入港中、船舶の修理、清掃、積荷、積卸しその他類似の作業に使用されるもの又は港湾の回復、保全若しくは監視の業務に使用されるもの。

第 四 条

 この条約において、
 (a) 「士官」と称するのは、船長以外の者で、士官として海員名簿に記入されたもの又は法律、労働協約若しくは慣習により士官の勤務と認められるものに従事しているものをいう。
 (b) 「属員」と称するのは、船長又は士官以外の乗組員をいい、免状を有する海員を含む。
 (c) 「有能海員」と称するのは、国内の法令若しくは規則により、又はかかる法令若しくは規則がない場合には労働協約により、指導的又は専門的属員の職務以外の甲板部に勤務する属員について要求される職務を遂行する能力ありと認められた者をいう。
 (d) 「基準給与又は賃金」と称するのは、超過時間手当、賞与又は現金若しくは現物で支払われるその他の手当を除き、現金で支払われる士官又は属員の報酬をいう。

第 二 部 賃金

第 五 条

1 この条約が適用される船舶に使用される有能海員の一暦月間の勤務に対する基準給与又は賃金は、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国の通貨で十六ポンド、アメリカ合衆国の通貨で六十四ドル、又は他の通貨でそれに相当するものを下つてはならない。
2 ポンド又はドルの平価の変動が国際通貨基金に通告された場合には、
 (a) 本条1に規定され、かくの如き通告がなされた通貨による最低基準賃金は、他の通貨と同等価値を維持するようこれを調整しなければならない。
 (b) この調整は、国際労働事務局長より国際労働機関の加盟国にこれを通告しなければならない。
 (c) このように調整された最低基準賃金は、本条1に規定される賃金と同様に、この条約を批准した加盟国を拘束し、且つ遅くとも事務局長が加盟国に変動を通告した月の翌翌月の当初に各批准加盟国に対し効力を発生する。

第 六 条

1 他の船舶で使用されるよりも多くの属員の使用を必要とするような属員群を使用する船舶に付ては、有能海員の最低基準給与又は賃金は、前条に規定される最低基準給与又は賃金の同価値調整額として定められる額でなければならない。
2 同価値調整額は、同一労働同一給与の原則に従つて定められ、且つ次について適当の斟酌をしなければならない。
 (a) 使用されるかかる群の余分の属員数
 (b) かかる属員群の使用の結果として生ずる船舶所有者の費用の増減
3 同価値調整額は、関係ある船舶所有者団体と船員団体との間の労働協約により、又かかる協約がなく且つこの条約を批准した関係ある両国については関係ある船員群の領域の権限ある機関により、決定されねばならない。

第 七 条

 食事が無償で支給されないときは、最低基準給与又は賃金は、船舶所有者団体と船員団体との間の労働協約により、又かかる協約が存しないときは権限ある機関により決定される額だけこれを増加しなければならない。

第 八 条

1 第五条に規定される最低基準給与又は賃金の他の通貨における同価値額を決定するため使用される率は、当該通貨の平価とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国のポンド又はアメリカ合衆国のドルの平価との比率でなければならない。
2 国際通貨基金の加盟国である国際労働機関の加盟国の通貨については、その平価は、国際通貨基金協定の条項にもとづく現行のものでなければならない。
3 国際通貨基金の加盟国ではない国際労働機関の加盟国については、その平価は、千九百四十四年七月一日現在において国際取引のための支払及び振替に用いられている目方と純度の金又はアメリカ合衆国のドルで表わされた正式の交換率でなければならない。
4 前二項の何れかの規定によつて処理することができない通貨については、
 (a) 本条のために採用される率は、関係ある国際労働機関の加盟国がこれを決定しなければならない。
 (b) 関係加盟国は、国際労働事務局にその決定を通告し、事務局長は、この条約を批准した他の加盟国に直ちに通告しなければならない。
 (c) 事務局長より通告があつた日より六箇月以内に、この条約を批准した他の加盟国は、当該国がその決定に反対であることを国際労働事務局長に通告することができ、且つ事務局長は、これについて関係加盟国及びこの条約を批准した他の加盟国に通告し、且つ第二十一条に定められる委員会に問題を報告しなければならない。
 (d) 前記の諸規定は、関係加盟国の決定に変更があつた場合に適用しなければならない。
5 他の通貨における同価値額を決定するための率の変更に伴う基準給与又は賃金の変更は、遅くとも当該通貨の相対的平価の変更が効力を発生する月の翌翌月の当初に効力を発生しなければならない。

第 九 条

 各加盟国は、次のため必要な措置を講じなければならない。
 (a) 監督及び許可の制度により、報酬がこの条約の要求する率を下らない率で支払われることを確保するため、及び
 (b) この条約の要求するものよりも低い率で支払われた者をして低廉且つ迅速な司法又はその他の手続により支払不足額を回収することを得しめることを確保するため。

第 三 部 船内労働時間

第 十 条

 この条約のこの部は、次のものに適用しない。
 (a) 一等航海士又は機関長
 (b) 事務長
 (c) 各部の責任者で航海当直をしない他の士官
 (d) 船舶の事務部内又は賄部内において使用される次の者
  (i)  関係ある船舶所有者及び船員の団体間の労働協約により定められる上級勤務者
  (ii)  主として自己の計算において労働する者、又は
  (iii) 専ら手数料により又は主として利益若しくは所得の分配により報酬を受ける者

第 十 一 条

 この条約のこの部において、
 (a) 「近海航行船」と称するのは、船舶が出航する国から次の地理的範囲内における隣接諸国の近接港よりも遠くに赴かない航行に専ら従事する船舶をいう。
  (i)  国内の法令若しくは規則により又は船舶所有者及び船員の団体間の労働協約により明示される地域
  (ii)  この条約のこの部のすべての規定の適用に関して一様である地域
  (iii) 加盟国がその批准を登録するときその批准に添付する宣言により通告された地域
  (iv) 他の関係加盟国と協議して定めた地域
 (b) 「遠海航行船」と称するのは、近海航行船以外の船舶をいう。
 (c) 「旅客船」と称するのは、十二人を超える旅客を輸送することを許可された船舶をいう。
 (d) 「労働時間」と称するのは、上級者の命令により船舶又は船舶所有者のために労働することを要求される時間をいう。

第 十 二 条

1 本条は、近海航行船の甲板部、機関部及び無線部に使用される士官及び属員に適用する。
2 士官又は属員の通常の労働時間は、次の時間を超えてはならない。
 (a) 船舶が海上にあるときは、連続二日の期間において二十四時間
 (b) 船舶が入港中のときは、
  (i) 週休日には平常の職務及び衛生の職務のために必要な二時間以内
  (ii) その他の日には、労働協約が或る日に付一層短い時間を定めている場合を除き八時間
 (c) 連続二週間において百十二時間
3 2(a)及び(b)に規定される限度を超えて労働する時間は、超過時間と認められ、関係ある士官又は属員は、この条約の第十七条の規定に従い補償を受ける権利を有する。   
4 超過時間と認められる時間を除き、連続二週間の期間における労働時間の合計が百十二時間を超えるときは、士官又は属員は、関係ある船舶所有者及び船員の団体間の労働協約の定めるところに従い入港中の休息時間又はその他の方法により補償を受けなければならない。
5 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、本条の適用上船舶が海上にあると認められる時及び船舶が入港中であると認められる時を決定しなければならない。

第 十 三 条

1 本条は、遠海航行船の甲板部、機関部及び無線部に使用される士官及び属員に適用する。
2 船舶が海上にあるとき並びに出帆及び到着の日には、士官又は属員の通常の労働時間は、一日につき八時間を超えてはならない。
3 船舶が入港中であるときは、士官又は属員の通常の労働時間は、次の時間を超えてはならない。
 (a) 週休日には、平常の職務及び衛生の職務のために必要な二時間以内
 (b) その他の日には、労働協約が或る日に付一層短い時間を定めている場合を除き八時間
4 前諸項に規定される限度を超えて労働する時間は、超過時間と認められ、関係ある士官又は属員は、この条約の第十七条の規定に従い補償を受ける権利を有する。
5 超過時間と認められる時間を除き、一週間の期間における労働時間の合計が四十八時間を超えるときは、士官又は属員は、関係ある船舶所有者及び船員の団体間の労働協約の定めるところに従い入港中の休息時間又はその他の方法により補償を受けなければならない。
6 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、本条の適用上船舶が海上にあると認められる時及び入港中であると認められる時を決定しなければならない。

第 十 四 条

1 本条は、船舶の賄部に使用される者に適用する。
2 旅客船に付ては、通常の労働時間は、次の時間を超えてはならない。
 (a) 船舶が海上にあるとき並びに出帆及び到着の日には、連続十四時間の期間に付十時間
 (b) 船舶が入港中であるときは、
  (i) 旅客が船内にあるときは、十四時間の期間に付十時間
  (ii) その他の場合には、
  週休日の前日には五時間
  週休日には、炊事業務に従事する者については五時間、その他の者については平常の職務及び衛生の職務のために必要な二時間以内
  その他の日には八時間
3 旅客船でない船舶については、通常の労働時間は、次の時間を超えてはならない。
 (a) 船舶が海上にあるとき並びに出帆及び到着の日には、十三時間の期間に付九時間
 (b) 船舶が入港中であるときは、
 週休日には五時間
 週休日の前日には六時間
 その他の日には十二時間の期間に付八時間
4 超過勤務と認められる時間を除き、連続二週間の期間において労働する時間の合計が百十二時間を超えるときは、関係ある士官又は属員は、労働協約の定めるところに従い入港中の休息時間又はその他の方法により補償を受ける権利を有する。
5 国内の法令若しくは規則又は労働協約は、本条の適用上船舶が海上にあると認められる時及び船舶が入港中であると認められる時を決定しなければならない。

第 十 五 条

1 本条は、近海及び遠海航行船に使用される士官及び属員に適用する。
2 入港中の休息時間は、士官及び属員が入港中可能な最大限度の休息時間を受けるべきであり、且つかかる休息時間は休暇として計算すべきではないということを基礎として、関係ある船舶所有者及び船員の団体間の交渉の対象でなければならない。

第 十 六 条

1 権限ある機関は、次の条件の下に第十条によりその適用を除外されていない士官を、この条約の適用から除外することができる。
 (a) 士官は、労働協約の定めるところにより、この条約のこの部の不適用に対し充分な補償をなすものと権限ある機関が認定する雇用条件を与えられる権利を有しなければならない。
 (b) 労働協約は、本来千九百四十六年六月三十日以前に締結されたものでなければならず、且つ右の協約又はその更新されたものが現在有効でなければならない。
2 第一項の規定を援用する加盟国は、右の労働協約の詳細を国際労働事務局に提出し、且つ事務局長は、その受理した情報の摘要を第二十一条に掲げられる委員会に提出しなければならない。
3 右の委員会は、これに報告された労働協約がこの条約のこの部の不適用に対する充分な補償となる雇用条件を定めているか否かを考慮しなければならない。この条約を批准する各加盟国は、右の協約に関する委員会の所見及び提案に対して考慮を払うことを約し、且つこの条約の当事者である船舶所有者及び士官の団体に右の所見及び提案を通告することを約する。

第 十 七 条

1 超過勤務に対する補償率は、国内の法令若しくは規則によりこれを規定し又は労働協約によりこれを定むべく、いかなる場合においても超過勤務に対する給与率は、一時間当り基準給与又は賃金の一倍四分の一を下つてはならない。
2  労働協約は、現金支給の方法に代えて、同等時間の休息及び下船又はその他の補償方法を定めることができる。

第 十 八 条

1 超過勤務の恒常的活用は、できる限りこれを避けなければならない。
2 次の労働に費した時間は、通常の労働時間に含まれず、又この条約のこの部の超過時間と認めてはならない。
 (a) 船長が船舶、積荷又は人命の安全のため必要且つ緊急であると認める労働
 (b) 遭難中の他の船舶又は人命の救助のため船長により要求される労働
 (c) 現在実施中の「海上における人命の安全のための国際条約」により規定される種類の呼集、防火操練、救命艇操練その他これに類する訓練
 (d) 通関手続又は検疫その他の衛生手続のための臨時労働
 (e) 船舶の位置の測定及び気象観測をするため士官による普通且つ必要の労働
 (f) 当直の正規の交代のため必要な臨時時間
3 この条約のいかなる規定も、船舶の安全及び能率的な運転のため船長の必要と認める労働を要求する船長の権利及び義務又はかかる労働を遂行する士官若しくは属員の義務を阻害するものと認めてはならない。

第 十 九 条

1 年令十六歳未満の者は、夜間労働をしてはならない。
2 本条において「夜間」と称するのは、午前零時の前後の少くとも連続九時間の時間で、国内の法令若しくは規則又は労働協約により定められるものをいう。

第 四 部 定員

第 二 十 条

1 この条約が適用されるすべての船舶は、次の各号のために充分にして有効な定員を乗組ませなければならない。
 (a) 海上における人命の安全を確保すること。
 (b) この条約の第三部の規定を実施すること。
 (c) 船員の過度の負担を防止し、且つ超過勤務の労働をできるだけ避け又は最小限に止めること。
2 各加盟国は、船舶の定員についての不満又は紛争の調査及び解決のために有効な機関を維持することを約し又はこれが維持されることを確認することを約する。
3 船舶所有者及び船員の団体の代表者は、独立して又は他の者若しくは機関と共に右の機関の運営に参加しなければならない。

第 五 部 条約の適用

第 二 十 一 条

1 この条約の規定は、(a)法令又は規則、若しくは(b)船舶所有者と船員との間の労働協約(第二十条2に関するものを除く。)、又は(c)法令若しくは規則と労働協約との組合わせによりこれを実施することができる。この条約の規定は、これに別段の定めのある場合を除き、批准加盟国の領域において登録されたすべての船舶及びかかる船舶に使用されるすべての者に適用しうるものとしなければならない。
2 この条約の規定が本条1に従い労働協約により実施される場合においては、この条約の第九条に含まれるいかなる規定にもかかわらず、加盟国は、労働協約により実施されたこの条約の規定に関してこの条約の第九条による措置を講ずることを要しない。
3 この条約を批准する各加盟国は、この条約が適用される措置に関する情報(その規定を実施する現行の労働協約の詳細を含む。)を国際労働事務局長に提供しなければならない。
4 この条約を批准する各加盟国は、三者構成代表の方法により政府並びに船舶所有者及び船員の団体の代表者を以て構成し、且つこの条約を実施するため執られる措置を調査するため設けられ、且つ国際労働事務局の合同海事委員会の代表者を顧問の資格において包含する委員会に参加することを約する。
5 事務局長は、3によりその受理した情報の摘要を右の委員会に提出しなければならない。
6 委員会は、これに報告された労働協約がこの条約の規定を実施しているか否かを審議しなければならない。この条約を批准する各加盟国は、この条約の適用に関する委員会の所見又は提案に考慮を払い、且つ更に1に掲げられる労働協約の当事者である船舶所有者及び船員の団体に対し、かかる協約がこの条約の規定を実施する程度に関する前記委員会の所見又は提案を通知することを約する。

第 二 十 二 条

1 この条約を批准する各加盟国は、その領域において登録された船舶に対するその規定の適用に付責任を負い、且つ労働協約によりこの条約が実施される場合を除き、次の事項に関する法令又は規則の実施を維持しなければならない。
 (a) その遵守を確保するための船舶所有者及び船員の夫々の責任を決定すること。
 (b) その違反に対し適当な罰則を規定すること。
 (c) この条約の第四部の遵守に関する適当な公の監督を定めること。
 (d) この条約の第三部の適用上必要とされる労働した時間並びに超過勤務及び臨時労働時間に関し与えられた補償についての記録の保存を要求すること。
 (e) 超過勤務及び臨時労働時間に対する補償に関し船員に支払わるべき給与を回収するため他の延滞給与を回収すると同一の救済方法を船員に確保すること。
2 関係ある船舶所有者及び船員の団体は、合理的にして実行しうる限り、この条約の規定を実施するためのすべての法令又は規則の制定において協議をうけなければならない。

第 二 十 三 条

 この条約の実施に相互的援助を与えるため、この条約を批准する各加盟国は、その領域内にあるすべての港における権限ある機関に対し、この条約の要件が他の加盟国の領域において登録された船舶内で遵守されていないことをかかる機関が知つた事件について、他の加盟国の領事又はその他の適当な機関に通告するよう要求することを約する。

第 六 部 最終規定

第 二 十 四 条

 千九百三十六年の労働時間及び定員(海上)条約の第二十八条の適用上、この条約は、右の条約を改正する条約とこれを認めなければならない。

第 二 十 五 条

 この条約の正式批准は、登録のため国際労働事務局長にこれを通告しなければならない。

第 二 十 六 条

1 この条約は、事務局長にその批准を登録した国際労働機関の加盟国のみを拘束する。
2 この条約は、次の条件が充された日の六箇月後に初めて効力を発生する。
 (a) 次の加盟国中の九箇国の批准が登録されたこと。即ち、アメリカ合衆国、アルゼンテイン共和国、オーストラリヤ、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリー、中華民国、デンマーク、フインランド、ギリシヤ、インド、アイルランド、イタリア、オランダ、ノールウエー、ポーランド、ポルトガル、スウエーデン、トルコ、ユーゴースラヴイア
 (b) 批准が登録された加盟国中の少くとも五箇国が登録の日において各百万総登録トンを下らない船舶を有すること。
 (c) 批准が登録された加盟国による登録の日において所有する船舶の合計トン数が千五百万を下らない総登録トンであること。
3 前項の規定は、加盟国による早期の批准を容易にし、且つ促進するため挿入されるものである。
4  この条約が最初に効力を発生した後は、この条約は、他の何れの加盟国についてもその批准が登録された日の六箇月後に効力を発生する。

第 二 十 七 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約の効力発生の日より五年の期間満了後において、国際労働事務局長宛登録のためにする通告によりこれを廃棄することができる。右の廃棄は、その登録のあつた日の後一年間はその効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国であつて前項に掲げた五年の期間満了後一年以内に本条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受くべく、又爾後各五年の期間満了毎に本条に定める条件によつてこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 八 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通告をうけたすべての批准、宣言及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、この条約を実施するに必要な最後の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する場合、この条約が効力を発生する日について国際労働機関の加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 二 十 九 条

 国際労働事務局長は、前数条の規定に従つて登録されたすべての批准、宣言及び廃棄の詳細を国際連合憲章第百二条による登録のため国際連合事務総長に通告しなければならない。

第 三 十 条

 国際労働事務局の理事会は、この条約の効力発生後各十年の期間満了毎に、この条約の運用に関する報告を総会に提出し、且つこの条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に掲ぐべきや否やを審議しなければならない。

第 三 十 一 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合は、新条約が別段の規定をしない限り、
 (a) 一加盟国による新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したとき、前記第二十七条の規定に拘わらず、当然にこの条約の即時の廃棄を生ぜしめる。
 (b) 新改正条約の効力発生の日から、この条約は、加盟国によつて批准され得ないようになる。
2 この条約は、これを批准したるも改正条約を批准しない加盟国に対しては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容において引続いて効力を有する。

第 三 十 二 条

 この条約は、イギリス語及びフランス語の本文を以て共に正文とする。