1951年の最低賃金決定制度(農業)条約(第99号)

ILO条約 | 1951/06/28

農業における最低賃金決定制度に関する条約(第99号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジユネーヴに招集されて、千九百五十一年六月六日にその第三十四回会期として会合し、
 この会期の議事日程の第八議題である農業における最低賃金決定制度に関する提案の採択を決定し、
 この提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定したので、
 次の条約(引用に際しては、千九百五十一年の最低賃金決定制度(農業)条約と称することができる。)を千九百五十一年六月二十八日に採択する。

第 一 条

1 この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、農業的事業及びこれに関連する業務において使用される労働者のため最低賃金率を決定することができる適当な制度を設立し、又は維持することを約束する。
2 この条約を批准する各加盟国は、関係のある使用者及び労働者の最も代表的な団体が存在するときは、それらの団体と協議の上、いずれの事業及び業務並びにいずれの種類の者について前項に掲げる最低賃金決定制度を適用するかを決定する自由を有する。
3 権限のある機関は、農業者が使用するその家族の構成員のように、雇用条件上この条約の規定を適用することができない種類の者をこの条約の全部又は一部の適用から除外することができる。

第 二 条

1 現物給与の形式での支払が慣習的であるか又は望ましい場合には、国内法令、労働協約又は仲裁裁定により現物給与の形式で最低賃金の一部を支払うことを認めることができる。
2 現物給与の形式で最低賃金の一部を支払うことを認める場合には、次のことを確保するため適当な措置を執らなければならない。
 (a) 前記の給与が労働者及びその家族の個人的使用及び利益に適合していること。
 (b) 前記の給与の評価が公正かつ合理的であること。

第 三 条

1 この条約を批准する各加盟国は、次の各項に掲げる条件に従つて、最低賃金決定制度の性質及び形態並びにその運用方法を決定する自由を有する。
2 決定に先だち、関係のある使用者及び労働者の最も代表的な団体が存在するときは、それらの団体並びに職業又は職務上特に適任であり、かつ、権限のある機関が協議することを有益と認める他の者は、事前に十分な協議を受けるものとする。
3 関係のある使用者及び労働者は、国内法令により定める方法及び程度において、最低賃金決定制度の運用に参加し、協議を受け、又は意見を聴取される権利を有するものとする。ただし、いかなる場合においても完全に平等の条件によるものとする。
4 決定された最低賃金率は、関係のある使用者及び労働者を拘束するものとする。この最低賃金率は、引き下げることができない。
5 権限のある機関は、身体又は精神に障害のある労働者の雇用の機会の減少を防止するため、必要な場合には、個別的に最低賃金率に除外を認めることができる。

第 四 条

1 この条約を批准する各加盟国は、関係のある使用者及び労働者が現行の最低賃金率を知らされること並びにその最低賃金率が適用される場合にその率より低い率で賃金が支払われないことを確保するため必要な措置を執るものとする。これらの措置は、必要な、かつ、当該国の農業事情に適当な監督、臨検及び制裁の措置を含むものとする。
2 最低賃金率の適用を受ける労働者でその率より低い率で賃金の支払を受けたものは、裁判上その他の適当な手続により、国内法令により定める期間内に支払不足額を回復する権利を有する。

第 五 条

 この条約を批准する各加盟国は、最低賃金決定制度の適用の方法及び結果を記載した一般的説明書を毎年国際労働事務局に送付するものとする。この説明書には、その制度の適用を受ける労働者の業務及び概数、決定された最低賃金率並びに最低賃金率に関連して定められた比較的重要なその他の措置が存在するときはその措置に関する概要を含めるものとする。

第 六 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知しなければならない。

第 七 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長により登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二加盟国の批准が事務局長により登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 八 条

1 国際労働機関憲章第三十五条2の規定に従って国際労働事務局長に通知する宣言は、次の事項を示さなければならない。
 (a) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えずに適用することを約束する地域
 (b) 当該加盟国がこの条約の規定を変更を加えて適用することを約束する地域及びその変更の細目
 (c) この条約を適用することができない地域及びその適用することができない理由
 (d) 当該加盟国がさらに事情を検討する間決定を留保する地域
2 1(a)及び(b)に掲げる約束は、批准の不可分の一部とみなされ、かつ、批准と同一の効力を有する。
3 いずれの加盟国も、1(b)、(c)又は(d)の規定に基づきその最初の宣言において行なった留保の全部又は一部をその後の宣言によっていつでも取り消すことができる。
4 いずれの加盟国も、第十条の規定に従ってこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、指定する地域に関する現況を述べる宣言を事務局長に通知することができる。

第 九 条

1 国際労働機関憲章第三十五条4又は5の規定に従って国際労働事務局長に通知する宣言は、当該地域内でこの条約の規定を変更を加えることなく適用するか又は変更を加えて適用するかを示さなければならない。その宣言は、この条約の規定を変更を加えて適用することを示している場合には、その変更の細目を示さなければならない。
2 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、前の宣言において示した変更を適用する権利の全部又は一部をその後の宣言によっていつでも放棄することができる。
3 関係のある一若しくは二以上の加盟国又は国際機関は、第十条の規定に従ってこの条約を廃棄することができる期間中はいつでも、前の宣言の条項を他の点について変更し、かつ、この条約の適用についての現況を述べる宣言を事務局長に通知することができる。

第 十 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年の期間の満了の後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によってこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、それが登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に掲げる十年の期間の満了の後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、さらに十年間拘束を受けるものとし、その後は、この条に定める条件に基づいて、十年の期間が満了するごとにこの条約を廃棄することができる。

第 十 一 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准、宣言及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告しなければならない。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日について加盟国の注意を喚起しなければならない。

第 十 二 条

 国際労働事務局長は、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准、宣言及び廃棄の完全な明細を国際連合憲章第百二条の規定による登録のため国際連合事務総長に通知しなければならない。

第 十 三 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出しなければならず、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討しなければならない。

第 十 四 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国による改正条約の批准は、改正条約の効力発生を条件として第十条の規定にかかわらず、当然この条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国によるこの条約の批准のための開放は、改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、この条約を批准した加盟国で改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 五 条

 この条約の英語及びフランス語による本文は、ひとしく正文とする。