1970年の災害防止(船員)条約(第134号)

ILO条約 | 1970/10/30

船員の職業上の災害の防止に関する条約(第134号)
(1978年7月3日批准登録。2006年の海上の労働に関する条約の批准により2014年8月5日に批准廃棄)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百七十年十月十四日にその第五十五回会期として会合し、
 船内及び港における労働について適用されかつ船員の職業上の災害の防止に関係がある現行の国際労働条約及び国際労働勧告の規定、特に、千九百二十六年の労働監督(海員)勧告、千九百二十九年の産業災害防止勧告、千九百三十二年の災害からの保護(港湾労働者)に関する条約(改正)、千九百四十六年の健康検査(船員)条約並びに千九百六十三年の機械防護条約及び千九百六十三年の機械防護勧告の規定に留意し、
 船舶に雇い入れられる者を保護するための船内における多くの安全措置について規定している千九百六十年の海上人命安全条約の規定及び千九百六十六年に改正された国際満載喫水線条約に附属する規則の規定に留意し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である海上及び港における船内の災害の防止に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定し、
 船内の災害の防止の分野における活動を成功させるため、国際労働機関と政府間海事協議機関とのそれぞれの分野における緊密な協力が維持されることが重要であることに留意し、
 次の基準が政府間海事協議機関の協力を得て作成されたこと及びこの基準の適用に当たつては引き続き同機関の協力を求めることが提案されたことに留意して、
 次の条約(引用に際しては、千九百七十年の災害防止(船員)条約と称することができる。)を千九百七十年十月三十日に採択する。

第 一 条

1 この条約の適用上、「船員」とは、資格のいかんを問わず、この条約の適用を受ける領域において登録され、かつ、通常海洋航行に従事する船舶(軍艦を除く。)に雇い入れられるすべての者をいう。
2 いずれの範疇(ちゅう)の者をこの条約の適用上船員と認めるべきかどうかの問題について疑義がある場合には、その問題については、各国の権限のある機関が関係のある船舶所有者団体及び船員団体との協議の上決定する。
3 この条約の適用上、「職業上の災害」とは、船員が被る災害であつて、その業務に起因し又はその業務の遂行中に生ずるものをいう。

第 二 条

1 各海運国の権限のある機関は、職業上の災害が適切に報告されかつ調査されること及びその災害の詳細な統計が作成されかつ分析されることを確保するため、必要な措置をとる。
2 すべての職業上の災害は、報告するものとし、統計については、死亡又は船舶に係る災害に限定しない。
3 統計には、職業上の災害の件数、性質、原因及び結果が記録され、並びに災害の生じた船内の部(例えば、甲板部、機関部、司厨(ちゅう)部)及び場所(例えば、海上、港)が明確に表示される。
4 権限のある機関は、死亡又は重傷をもたらした職業上の災害その他国内法令に定める災害の原因及び状況について調査する。

第 三 条

 海上の業務に特有の危険に起因する災害を防止するための有効な基礎とするため、一般的な傾向及び統計によつて明らかにされる危険について研究を行う。

第 四 条

1 職業上の災害の防止に関する規定は、法令、実施基準その他の適当な方法で定める。
2 1にいう規定は、業務における災害の防止及び健康の保護に関する規定であつて船員の労働について適用される一般的なものに言及し、かつ、海上の業務に特有の災害を防止するための措置を明示する。
3 1にいう規定は、特に次の事項について定める。
 (a) 一般的及び基本的な規定
 (b) 船舶の構造上の特性
 (c) 機械類
 (d) 甲板上及び甲板下でとるべき特別の安全措置
 (e) 積込み及び取卸しのための設備
 (f) 防火及び消火
 (g) いかり、鎖及び索
 (h) 危険な貨物及びバラスト
 (i) 船員のための保護具

第 五 条

1 前条にいう災害の防止に関する規定は、船舶所有者、船員その他の関係者が遵守すべき義務を明確に定める。
2 保護具その他災害の防止のための安全装置を備えるべき船舶所有者の義務は、一般には、船員がそれらの保護具及び安全装置を使用すべき義務並びにそれらの保護具及び安全装置に関係がある災害の防止のための措置を遵守すべき義務とともに定められる。

第 六 条

1 適切な監督その他の方法により第四条にいう規定の適用を確保するため、適当な措置をとる。
2 第四条にいう規定の遵守を確保するため、適当な措置をとる。
3 監督及び実施のための機関が海上の業務及びその慣行に精通することを確保するため、必要な措置をとる。
4 第四条にいう規定の適用を容易にするため、その規定の写し又は概要を、例えば船内の見やすい場所に掲示することにより、船員に知らせる。

第 七 条

 船長の下で災害の防止について責任を負う適当な者又は委員会の構成員を船舶の乗組員の中から指名するための規定を設ける。

第 八 条

1 職業上の災害を防止するための計画は、権限のある機関が船舶所有者団体及び船員団体の協力を得て作成する。
2 1の計画の実施については、権限のある機関、船舶所有者及び船員又はそれらを代表する者並びに他の適当な団体が積極的な役割を果たすことができるようにする。
3 特に、船舶所有者団体及び船員団体の双方が代表を出す災害の防止のための全国的若しくは地域的な合同の委員会又は船舶所有者団体及び船員団体の双方が代表を出す臨時の作業部会を設置する。

第 九 条

1 権限のある機関は、船員(職種及び職級を問わない。)のための職業訓練機関における教育課程に、職務に関する教育の一部として、業務における災害の防止及び健康の保護に関する教育を含めることを奨励し、また、国内事情に照らし適当である場合には、これを確保する。
2 更に、特定の危険に関する情報を船員に知らせるため、適当かつ実行可能な措置(例えば、その危険に関係がある指示を含む公の情報の提供)をとる。

第 十 条

 加盟国は、相互に協力し及び適当な場合は政府間機関その他国際的な機関の援助を得て、職業上の災害を防止するための他の活動をできる限り統一するよう努力する。

第 十 一 条

 この条約の正式の批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 二 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によつてこの条約を廃棄することができる。その廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1に定める十年の期間が満了した後一年以内にこの条に規定する廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従つてこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 五 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従つて登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 六 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 七 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十三条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 八 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。