1987年の船員送還条約(改正)(第166号)

ILO条約 | 1987/10/09

船員の送還に関する条約(第166号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百八十七年九月二十四日にその第七十四回会期として会合し、
 千九百二十六年の海員送還条約及び千九百二十六年の送還(船長及び見習)勧告の採択以来、海運業の発展により、同勧告の適当な要素を織り込んで同条約を改正することが必要となつたことに留意し、
 更に、国内の法令及び慣行を通じて千九百二十六年の海員送還条約の適用の対象となつていない種々の事態における船員の送還について定めることに相当の進展がみられたことに留意し、
 海運業における外国人船員の雇用が著しく増大していることにかんがみ、船員の送還についてのある種の新たな問題について新たな国際文書により更に措置をとることが望ましいことを考慮し、
 前記の会期の議事日程の第五議題である千九百二十六年の海員送還条約(第二十三号)及び千九百二十六年の送還(船長及び見習)勧告(第二十七号)の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百八十七年の船員送還条約(改正)と称することができる。)を千九百八十七年十月九日に採択する。

第 一 部 適用範囲及び定義

第 一 条

1 この条約は、この条約の適用を受ける加盟国の領域において登録され、かつ、通常は商業海洋航行に従事するすべての海上航行船舶(公有であるか私有であるかを問わない。)並びにそのような船舶の所有者及び船員について適用する。
2 権限のある機関は、代表的な漁船所有者団体及び漁船員団体と協議の後、実行可能と認める限り、この条約の規定を商業海洋漁業について適用する。
3 この条約の適用上、いずれかの船舶が商業海洋航行又は商業海洋漁業に従事する船舶に該当することについて疑義がある場合には、当該問題は、権限のある機関が関係のある船舶所有者団体、船員団体及び漁業者団体と協議の後決定する。
4 この条約の適用上、「船員」とは、資格のいかんを問わず、この条約の適用を受ける海上航行船舶に雇い入れられる者をいう。

第 二 部 権利の付与

第 二 条

1 船員は、次の場合に送還の権利を有する。
 (a) 期間又は航海を定めた雇入れが海外で終了した場合
 (b) 雇入契約の規定又は船員の雇用契約に従つて示されている期間が終了した場合
 (c) 送還を必要とする疾病、負傷又はその他の健康状態の場合であつて、医学上旅行に適すると認められたとき
 (d) 難破した場合
 (e) 破産、売船、船籍の変更又は他の類似の理由により、船舶所有者が船員の雇用者としての法律上又は契約上の義務を継続して果たすことができない場合
 (f) 国内法令又は労働協約により定義される戦争区域に船舶が向かわなければならない場合であつて、船員が当該区域に赴くことに同意しないとき
 (g) 労働裁定若しくは労働協約に基づく雇用の終了若しくは中断又は他の類似の理由による雇用の終了の場合
2 国内法令又は労働協約は、その後に船員に送還の権利が生ずることとなる船上での勤務の最長期間を定める。当該期間は、十二箇月未満とする。最長期間を定めるに当たつては、船員の労働環境に影響を及ぼす要因が勘案される。加盟国は、できる限り、技術の変化及び進歩に照らして当該期間の短縮に努めるものとし、この問題についての合同海事委員会の勧告に従うことができる。

第 三 部 目的地

第 三 条

1 この条約の効力が生じている加盟国は、国内法令により船員を送還し得る目的地を定める。
2 1の規定に基づいて定められる目的地には、船員が雇入れに同意した場所、労働協約で定める場所、その船員の居住国及び雇入れの時点で相互に同意した他の場所を含む。船員は、定められた目的地の中から、送還される場所を選択する権利を有する。

第 四 部 送還措置

第 四 条

1 適当かつ迅速な方法により送還の措置をとることは、船舶所有者の責任である。通常の輸送方法は、飛行機によるものとする。
2 送還の費用は、船舶所有者が負担する。
3 国内法令又は労働協約に従い、船員に雇用上の義務の重大な不履行があつたと認められ、その結果送還が行われることとなつた場合には、この条約のいかなる規定も、国内法令又は労働協約に従い送還費用の全部又は一部を当該船員から回収する権利を妨げるものではない。
4 船舶所有者が負担すべき費用は、次のものを含む。
 (a) 前条の規定に基づいて、送還のために選択された目的地までの旅費
 (b) 船員が船舶を離れた時点から送還の目的地に到着するまでの宿泊及び食料に係るもの
 (c) 国内法令又は労働協約に規定している場合には、船員が船舶を離れた時点から送還の目的地に到着するまでの給料及び諸手当
 (d) 送還の目的地までの船員の手荷物三十キログラムの輸送費
 (e) 必要な場合には、船員が送還の目的地までの旅行に医学的に適するようになるまでの医療処置
5 船舶所有者は、雇用の開始時に送還費用のための前払を船員に要求してはならず、また、3に定める場合を除くほか、船員の賃金又はその他の付与された権利から送還費用を回収してはならない。
6 国内法令は、船舶所有者が雇用していない船員の送還費用をその船員の雇用者から回収する権利を害するものではない。

第 五 条

 船舶所有者が、送還される権利を有する船員の送還の措置をとること又はその送還の費用を支弁することができない場合は、
 (a) 自国の領域において船舶が登録されている加盟国の権限のある機関が、当該船員の送還の措置をとり、かつ、その送還の費用を支弁する。このようにすることができない場合には、当該船員が送還されることとなる国又は当該船員が国籍を有する国が送還の措置をとり、その送還の費用は、船舶が登録されている加盟国から回収することができる。
 (b) 当該船員の送還に要した費用については、自国の領域において船舶が登録されている加盟国は、船舶所有者から回収することができる。
 (c) 送還の費用は、前条3に定める場合を除くほか、いかなる場合にも当該船員が負担するものではない。

第 五 部 その他の措置

第 六 条

 送還される船員は、送還のため旅券その他の身分証明書を取得することができる。

第 七 条

 送還のための待機時間及び旅行時間は、船員が受ける年次有給休暇から差し引いてはならない。

第 八 条

 船員が第三条の規定に基づいて定められた目的地に到着したとき又は国内法令若しくは労働協約により定められている妥当な期間内に船員が送還の権利を主張しないときは、当該船員は、正当に送還されたものとみなされる。

第 九 条

 この条約は、労働協約により又はその他の国内事情の下で適当とされるその他の方法により実施されない限り、国内法令により実施される。

第 十 条

 加盟国は、自国の港に寄港し又は自国の領海若しくは内水を通過する船舶において業務を行う船員の送還及び船上における船員の交替を容易にする。

第 十 一 条

 加盟国の権限のある機関は、適当な監督を行うことにより自国の領域において登録された船舶の所有者がこの条約を遵守することを確保するものとし、関係情報を国際労働事務局に提供する。

第 十 二 条

 この条約の本文は、この条約の効力が生じている加盟国の領域において登録されたすべての船舶の乗組員に適切な言語で入手可能なものにする。

第 六 部 最終規定

第 十 三 条

 この条約は、千九百二十六年の海員送還条約を改正するものである。

第 十 四 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 五 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 六 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 七 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 八 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 九 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十六条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 一 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。