1996年の労働監督(船員)条約(第178号)

ILO条約 | 1996/10/22

船員の労働条件及び生活条件の監督に関する条約(第178号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十六年十月八日にその第八十四回会期として会合し、
 海運業の性質の変化並びにその結果としての千九百二十六年の労働監督(海員)勧告が採択された後の船員の労働条件及び生活条件の変化に留意し、
 千九百四十七年の労働監督条約及び千九百四十七年の労働監督勧告、千九百四十七年の労働監督(鉱業及び運送業)勧告並びに千九百七十六年の商船(最低基準)条約の規定を想起し、
 千九百八十二年の海洋法に関する国際連合条約が千九百九十四年十一月十六日に効力を生じたことを想起し、
 前記の会期の議事日程の第一議題である千九百二十六年の労働監督(海員)勧告の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が旗国のみにより実施される国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百九十六年の労働監督(船員)条約と称することができる。)を千九百九十六年十月二十二日に採択する。

第 一 部 適用範囲及び定義

第 一 条

1 この条に別段の定めがある場合を除くほか、この条約は、この条約の適用を受ける加盟国の領域において登録され、かつ、営利の目的で貨物若しくは旅客の運送に従事し又は他の商業的目的で使用されるすべての海上航行船舶(公有のものであるか私有のものであるかを問わない。)について適用する。この条約の適用上、二の加盟国に登録されている船舶は、この船舶の旗国の領域において登録されたものとみなす。
2 この条約の適用上、海上航行船舶に該当する船舶は、国内法令により定める。
3 この条約は、海上を航行する引き船について適用する。
4 この条約は、総トン数五百トン未満の船舶並びに石油掘削船及び掘削用のプラットフォーム等の船舶で航行していないものについては適用しない。この4の規定の適用を受ける船舶については、中央調整機関が最も代表的な船舶所有者団体及び船員団体との協議の上決定する。
5 この条約の規定は、代表的な漁船所有者団体及び漁船員団体と協議を行った後、中央調整機関が実行可能と認める範囲内で、商業海洋漁船について適用する。
6 いずれの船舶がこの条約の適用上商業海洋航行又は商業海洋漁業に従事していると認めるべきか否かの問題について疑義がある場合には、その問題については、中央調整機関が関係のある船舶所有者団体、船員団体及び漁船員団体と協議を行った後決定する。
7 この条約の適用上、
 (a) 「中央調整機関」とは、加盟国の領域において登録される船舶に関する船員の労働条件及び生活条件の監督に関し規則を設け及び命令その他法的効力を有する訓令を発し並びにそれらの履行を監督する権限を有する大臣、官庁その他の公的機関をいう。
 (b) 「監督官」とは、船員の労働条件及び生活条件のあらゆる側面について監督する責任を有する公務員又はその他の公的職員並びに正当な証明書を所持し、次条3の規定に基づき中央調整機関が認めた機関又は団体のために監督を実施する他の者をいう。
 (c) 「法規」には、法令に加え、法的効力を有する仲裁裁定及び労働協約を含む。
 (d) 「船員」とは、資格のいかんを問わず、この条約が適用される海上航行船舶において雇用される者をいう。いずれの範ちゅうの者がこの条約の適用上船員と認められるべきか否かの問題について疑義がある場合には、その問題については、中央調整機関が関係のある船舶所有者団体及び船員団体と協議を行った後決定する。
 (e) 「船員の労働条件及び生活条件」とは、船内における生活区域及び労働区域の維持及び清潔さの基準、最低年齢、雇入契約、食料及び司厨(ちゅう)、乗組員の施設、募集、配乗、資格、労働時間、健康検査、職業上の災害の防止、医療、疾病及び負傷に対する給付、社会福祉及びこれに関連する事項、送還、国内法令に従った雇用条件、国際労働機関の千九百四十八年の結社の自由及び団結権保護条約に規定する結社の自由等に関する条件をいう。

第 二 部 監督の組織

第 二 条

1 この条約の適用を受ける加盟国は、船員の労働条件及び生活条件の監督の制度を保持する。
2 中央調整機関は、船員の労働条件及び生活条件に全部又は一部関係する監督を調整し並びに遵守すべき原則を確立する。
3 中央調整機関は、いかなる場合にも、船員の労働条件及び生活条件の監督について責任を負う。中央調整機関は、当該機関が能力を有しかつ独立していると認める公的機関又は他の団体に対し当該機関に代わって船員の労働条件及び生活条件の監督を行うことを認めることができる。中央調整機関は、そのような機関又は団体の一覧表を保持し及び公に利用可能なものとする。

第 三 条

1 加盟国は、船内における船員の労働条件及び生活条件が国内法令に適合していることを確認するため、自国の領域において登録された船舶が三年を超えない間隔で及び、実行可能な場合には毎年、監督を受けることを確保する。
2 加盟国は、自国の領域において登録された船舶が船員の労働条件及び生活条件に関して国内法令に適合していないことにつき苦情を受け又は証拠を得たときは、実行可能な限り速やかに、当該船舶を監督するための措置をとる。
3 船舶は、その構造又は居住設備に実質的な変更がある場合には、その変更後三箇月以内に監督を受けるものとする。

第 四 条

 加盟国は、任務の遂行に必要な資格を有する監督官を任命し及びこの条約が定める要件を満たすために十分な人数の監督官が利用可能であることを確保するために必要な措置をとる。

第 五 条

1 監督官は、政権の交替及び不当な外部からの影響に左右されないことが確保されるような身分及び勤務条件を有する。
2 正当な証明書を所持する監督官は、次のことを行う権限を与えられる。
 (a) 加盟国の領域において登録された船舶に乗船し及び監督を行うため必要に応じ事業所に立ち入ること。
 (b) 法規が厳格に遵守されていることを確保するため必要と認める調査、検査又は取調べを行うこと。
 (c) 不備な点を是正するよう求めること。
 (d) 不備な点が船員の健康及び安全に対し重大な危険をもたらすと信ずるに足りる根拠がある場合には、司法当局又は行政当局に対し申立てを行う権利があることを条件として、必要な措置がとられるまで船舶の出港を禁止すること。ただし、当該船舶を不当に抑留し又はその出航を不当に遅延させてはならない。

第 六 条

1 この条約の規定に従って監督を行い又は措置をとる場合には、船舶を不当に抑留し又はその出航を不当に遅延させることのないように、あらゆる合理的な努力を払う。
2 船舶が不当に抑留され又は不当に出航を遅延させられた場合には、船舶所有者又は船舶の運航者は、被った損失又は損害の賠償を受ける権利を有する。不当な抑留又は遅延についての申立てがあるいかなる場合にも、挙証責任は、船舶所有者又は船舶の運航者にある。

第 三 部 罰則

第 七 条

1 監督官によって実施を確保されるべき法規の違反及び監督官の任務の遂行の妨害については、相当な罰則を国内法令によって規定し、かつ、実効的に実施する。
2 監督官は、司法上の手続を開始し又は勧告する代りに、警告及び助言を与える裁量を有する。

第 四 部 報告

第 八 条

1 中央調整機関は、船員の労働条件及び生活条件の監督に関する記録を保持する。
2 中央調整機関は、監督活動に関する年次報告(当該機関に代わって監督を行うことを認められた機関及び団体の一覧表を含む。)を公表する。この年次報告は、その報告が関係する年度の終了後合理的な期間内に、いかなる場合にも六箇月以内に公表するものとする。

第 九 条

1 監督官は、監督ごとの報告を中央調整機関に提出する。英語又は船舶の常用語による当該報告の一通は船長に提出し、他の一通は船員への情報として船内の掲示板に掲示し又は船員の代表に送付する。
2 大規模な事故に対応して監督が行われる場合には、その報告は、実行可能な限り速やかに、遅くとも監督の終了後一箇月以内に提出するものとする。

第 五 部 最終規定

第 十 条

 この条約は、千九百二十六年の労働監督(海員)勧告に代わるものとする。

第 十 一 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 二 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 三 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 四 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 五 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 六 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 七 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十三条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 八 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。