1996年の船員の募集及び職業紹介条約(第179号)

ILO条約 | 1996/10/22

船員の募集及び職業紹介に関する条約(第179号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千二十一年六月十八日にその第百九回会期として会合し、八本の国際労働条約の廃止並びに十本の国際労働条約及び十一本の国際労働勧告の撤回に関する提案を検討し、二千二十一年六月十八日に、千九百九十六年の船員の募集及び職業紹介条約(第百七十九号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の全加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十六年十月八日にその第八十四回会期として会合し、
 千九百二十六年の海員の雇入契約条約、千九百四十八年の結社の自由及び団結権保護条約、千九百四十八年の職業安定組織条約及び千九百四十八年の職業安定組織勧告、千九百四十九年の団結権及び団体交渉権条約、千九百五十八年の船員雇入(外国船舶)勧告、千九百五十八年の差別待遇(雇用及び職業)条約、千九百七十年の船員雇用(技術的発展)勧告、千九百七十三年の最低年齢条約、千九百七十六年の雇用継続(船員)条約及び千九百七十六年の雇用継続(船員)勧告、千九百七十六年の商船(最低基準)条約、千九百八十七年の船員送還条約(改正)並びに千九百九十六年の労働監督(船員)条約の規定に留意し、
 千九百八十二年の海洋法に関する国際連合条約が千九百九十四年十一月十六日に効力を生じたことを想起し、
 前記の会期の議事日程の第三議題である千九百二十年ノ海員紹介条約の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百九十六年の船員の募集及び職業紹介条約と称することができる。)を千九百九十六年十月二十二日に採択する。

第 一 条

1 この条約の適用上、
 (a) 「権限のある機関」とは、船員の募集及び職業紹介に関し規則を設け及び命令その他法的効力を有する訓令を発する権限を有する大臣、官吏、官庁その他の機関をいう。
 (b) 「募集及び職業紹介機関」とは、公共部門又は民間部門における個人又は会社、協会、機関その他の団体であって、使用者に代わって船員を募集し又は船員を使用者に紹介することに従事するものをいう。
 (c) 「船舶所有者」とは、船舶の所有者又は船舶の運航に関する責任を船舶所有者から引き受け、かつ、当該責任の引受けに伴うすべての任務及び責任を引き継ぐことに同意した管理人、代理人、裸傭(らよう)船者等の団体若しくは個人をいう。
 (d) 「船員」とは、資格のいかんを問わず、軍事又は非商業的目的で使用される政府船舶を除く海上航行船舶において雇用され又は従業するための条件を満たすすべての者をいう。
2 権限のある機関は、代表的な漁船所有者団体及び漁船員団体又は場合に応じて代表的な海上移動型の沖合施設の所有者団体及び当該施設で勤務する船員団体と協議を行った後、実行可能と認める範囲内で、この条約の規定を漁船員又は海上移動型の沖合施設で勤務する船員について適用することができる。

第 二 条

1 この条約のいかなる規定も、
 (a) 加盟国が、船員及び船舶所有者の需要を満たすための政策の枠組みにおいて、船員のための無料の公共の募集及び職業紹介機関(すべての労働者及び使用者のための公共職業紹介機関の一部であるか否か又は当該公共職業紹介機関と調整が行われているか否かを問わない。)を維持することを妨げるものと解してはならない。
 (b) 加盟国に、民間の募集及び職業紹介機関の運営のための制度を設立する義務を課すものと解してはならない。
2 民間の募集及び職業紹介機関が既に設立され又は今後設立される場合には、当該機関は、加盟国の領域内においては、免許交付、資格証明その他の形態の規制の制度に従ってのみ運営される。この制度は、代表的な船舶所有者団体及び船員団体と協議を行った後にのみ設け、維持し、修正し又は変更するものとする。民間の募集及び職業紹介機関の過度の増加は奨励してはならない。
3 この条約のいかなる規定も、船員の募集及び職業紹介に関して、加盟国が自国の旗を掲げる船舶について自国の法令を適用する権利に影響を及ぼすものではない。

第 三 条

 この条約のいかなる規定も、船員が団結権を含む基本的人権を行使する能力をいかなる場合においても妨げるものではない。

第 四 条

1 加盟国は、その国内法又は関係規則により次のことを行う。
 (a) 船員の募集又は雇用のための手数料その他の費用の全部又は一部を直接又は間接に船員が負担しないことを確保すること。このために、国内法令で定められた健康検査、証明書、個人の旅行証明書及び船員手帳に係る経費は、募集のための手数料その他の費用とはみなさない。
 (b) 募集及び職業紹介機関が国外にわたり船員を紹介することができるか否か又は募集することができるか否か及びいずれの条件の下で紹介又は募集を行うことができるかについて決定すること。
 (c) プライバシーの権利及び秘密保護の必要性に十分な考慮を払って、募集及び職業紹介機関による船員の個人に係る情報の処理(当該情報の収集、保管、組合せ及び第三者への伝達を含む。)に関する条件を定めること。
 (d) 募集及び職業紹介機関が関連する法令に違反した場合において当該機関の免許、証明書又はこれらに類似する許可書を停止し又は取り消すことができる条件を定めること。
 (e) 免許交付又は資格証明以外の規制の制度が存在する場合には、募集及び職業紹介機関が運営できる条件及び当該条件に違反した場合に適用される罰則を定めること。
2 加盟国は、権限のある機関が次のことを行うことを確保する。
 (a) すべての募集及び職業紹介機関を十分に監督すること。
 (b) 募集及び職業紹介機関が国内法令の要件を満たしていることを確認した後にのみ、免許、証明書又はこれらに類似する許可書を与え又は更新すること。
 (c) 船員のための募集及び職業紹介機関の経営者及び職員が海運業に関連する知識を有し、かつ、十分に訓練を受けた者であることを求めること。
 (d) 募集及び職業紹介機関が船員が雇用を得ることを妨げることを目的とする手段、仕組み又は名簿を用いることを禁止すること。
 (e) 募集及び職業紹介機関が、実行可能な限り、船員が外国の港に置き去りにされないよう保護する手段を使用者が有することを確保するための措置をとることを求めること。
 (f) 募集及び職業紹介機関が船員に対する義務を履行しないことにより当該船員が負うこととなる金銭的損失を補償するため、保険又はそれと同等の適当な措置によって保護の制度が確立されることを確保すること。

第 五 条

1 すべての募集及び職業紹介機関は、権限のある機関による検査の際に利用することができるようにするため、当該機関を通じて募集又は紹介されたすべての船員の登録簿を保管する。
2 すべての募集及び職業紹介機関は、次のことを確保する。
 (a) 当該機関により募集又は紹介された船員が職務に必要な資格を有し及びそのための証明書を保持していること。
 (b) 雇用契約及び雇入契約が関係法令及び労働協約に従っていること。
 (c) 雇用契約及び雇入契約に先立ち又はその過程において、これらの契約の下での船員の権利及び義務について当該船員に告げること。
 (d) 船員が雇用契約及び雇入契約に署名する前及び署名した後にこれらの契約を検討し及び当該雇用契約の写しを受け取れるように適当な措置をとること。
3 2のいかなる規定も、船舶所有者又は船長の義務及び責任を軽減するものと解してはならない。

第 六 条

1 権限のある機関は、適当な場合には船舶所有者及び船員の代表の参加を得て、必要に応じて募集及び職業紹介機関の活動に関する苦情を調査するための適当な機構及び手続が存在することを確保する。
2 すべての募集及び職業紹介機関は、その活動に関するすべての苦情について調査し及び回答し並びに解決されていない苦情について権限のある機関に通知する。
3 募集及び職業紹介機関は、船内における労働条件又は生活条件に関する苦情について知らされたときは、当該苦情を適当な機関に通知する。
4 この条約のいかなる規定も、船員が苦情を適当な機関に直接届け出ることを妨げるものではない。

第 七 条

 この条約は、千九百二十年ノ海員紹介条約を改正する。

第 八 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 九 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国でその批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、その後更に十年間拘束を受けるものとし、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 十 一 条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録をすべての加盟国に通告する。
2 事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 十 ニ 条

 国際労働事務局は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 十 三 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 十 四 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約の効力発生を条件として、第十条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) 加盟国による批准のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 十 五 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。