1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)

ILO条約 | 1997/06/19

民間職業仲介事業所に関する条約(第181号)
(日本は1999年7月28日に批准)

 国際労働機関の総会は、
 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百九十七年六月三日にその第八十五回会期として会合し、
 千九百四十九年の有料職業紹介所条約(改正)の規定に留意し、
 労働市場が柔軟に機能することの重要性を認識し、
 千九百九十四年のその第八十一回会期において、国際労働機関が千九百四十九年の有料職業紹介所条約(改正)を改正すべきであるとの見解を有したことを想起し、
 同条約が採択された時に一般的であった状況と比較して、民間職業仲介事業所の運営を取り巻く環境が大きく異なっていることを考慮し、
 適切に機能する労働市場において民間職業仲介事業所が果たし得る役割を認識し、
 労働者を不当な取扱いから保護することの必要性を想起し、
 労使関係制度を適切に機能させるために必要な要素として結社の自由の権利を保障すること並びに団体交渉及び社会的対話を促進することの必要性を認識し、
 千九百四十八年の職業安定組織条約の規定に留意し、
 千九百三十年の強制労働条約、千九百四十八年の結社の自由及び団結権保護条約、千九百四十九年の団結権及び団体交渉権条約、千九百五十八年の差別(雇用及び職業)条約、千九百六十四年の雇用政策条約、千九百七十三年の最低年齢条約及び千九百八十八年の雇用促進及び失業保護条約の規定並びに千九百四十九年の移民労働者条約(改正)及び千九百七十五年の移民労働者(補足規定)条約における募集及び職業紹介に関係する規定を想起し、
 その第八十五回会期の議事日程の第四議題である千九百四十九年の有料職業紹介所条約(改正)の改正に関する提案の採択を決定し、
 その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
 次の条約(引用に際しては、千九百九十七年の民間職業仲介事業所条約と称することができる。)を千九百九十七年六月十九日に採択する。

第 一 条

1 この条約の適用上、「民間職業仲介事業所」とは、公の機関から独立した自然人又は法人であって、労働市場における次のサービスの一又は二以上を提供するものをいう。
 (a) 求人と求職とを結び付けるためのサービスであって、民間職業仲介事業所がその結果生ずることのある雇用関係の当事者とならないもの
 (b) 労働者に対して業務を割り当て及びその業務の遂行を監督する自然人又は法人である第三者(以下「利用者企業」という。)の利用に供することを目的として労働者を雇用することから成るサービス
 (c) 情報の提供等求職に関連する他のサービスであって、特定の求人と求職とを結び付けることを目的とせず、かつ、権限のある機関が最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で決定するもの
2 この条約の適用上、「労働者」とは、求職者を含む。
3 この条約の適用上、「労働者の個人情報の処理」とは、特定の又は特定し得る労働者に関する情報の収集、保管、組合せ、伝達その他の取扱いをいう。

第 二 条

1 この条約は、すべての民間職業仲介事業所について適用する。
2 この条約は、すべての種類の労働者及びすべての部門の経済活動について適用する。ただし、船員の募集及び職業紹介については適用しない。
3 この条約の目的は、その規定の枠組みの中において、民間職業仲介事業所の運営を認め及びそのサービスを利用する労働者を保護することにある。
4 加盟国は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、次のことを行うことができる。
 (a) 特定の状況の下で、特定の種類の労働者又は特定の部門の経済活動について民間職業仲介事業所が前条1に規定するサービスの一又は二以上を提供することを禁止すること。
 (b) 特定の状況の下で、この条約の全部又は一部の規定の適用を特定の部門の経済活動又はその一部に従事する労働者について除外すること。ただし、関係する労働者に対して十分な保護が確保されている場合に限る。
5 この条約を批准する加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づく報告において、4の規定に基づき自国が行っている禁止又は除外について明記し及びその理由を示す。

第 三 条

1 民間職業仲介事業所の法的地位については、国内法及び国内慣行に従い並びに最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で決定する。
2 加盟国は、許可又は認可の制度により、民間職業仲介事業所の運営を規律する条件を決定する。ただし、そのような条件が適当な国内法及び国内慣行によって別途規制され又は決定されている場合は、この限りでない。

第 四 条

 加盟国は、第一条に規定するサービスを提供する民間職業仲介事業所によって募集された労働者が結社の自由の権利及び団体交渉権を否定されないことを確保するための措置をとる。

第 五 条

1 加盟国は、労働者が雇用されること及び個々の業務に就くことについての機会及び待遇の均等を促進するため、民間職業仲介事業所が人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的系統若しくは社会的出身による差別又は年齢、障害等国内法及び国内慣行の対象とされている他の形態による差別なしに労働者を取り扱うことを確保する。
2 1の規定は、求職活動において最も不利な立場にある労働者を支援するために民間職業仲介事業所が特別のサービスを提供し又は対象を特定した事業計画を実施することを妨げるような方法で実施してはならない。

第 六 条

 民間職業仲介事業所による労働者の個人情報の処理は、次の条件に従って行われるものとする。
 (a) 国内法及び国内慣行に従い、労働者の個人情報を保護し及び労働者のプライバシーの尊重を確保する方法で処理を行うこと。
 (b) 関係する労働者の資格及び職業経験に関連する事項並びに他の直接に関連する情報に限って処理を行うこと。

第 七 条

1 民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない。
2 権限のある機関は、関係する労働者の利益のために、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、特定の種類の労働者及び民間職業仲介事業所が提供する特定の種類のサービスについて1の規定の例外を認めることができる。
3 2の規定に基づいて例外を認めた加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づく報告において、その例外についての情報を提供し及びその理由を示す。

第 八 条

1 加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、民間職業仲介事業所が自国の領域内で募集し又は紹介した移民労働者に対し十分な保護を与え及び当該移民労働者の不当な取扱いを防止するため、自国の管轄内で、適当な場合には他の加盟国と協力して、すべての必要かつ適当な措置をとる。この措置には、制裁(詐欺行為又は不当な取扱いを行う民間職業仲介事業所の活動の禁止を含む。)を定める法令を含める。
2 労働者がいずれかの国で労働するために他の国において募集される場合には、関係する加盟国は、募集、職業紹介及び雇用における不当な取扱い及び詐欺行為を防止するため相互に協定を締結することを考慮する。

第 九 条

 加盟国は、民間職業仲介事業所が児童労働を利用せず及び提供しないことを確保するための措置をとる。

第 十 条

 権限のある機関は、民間職業仲介事業所の活動に関する苦情並びに民間職業仲介事業所による不当な取扱い及び詐欺行為に関する申立てを調査する適当な制度及び手続(適当な場合には、最も代表的な使用者団体及び労働者団体を関与させるものとする。)が維持されることを確保する。

第 十 一 条

 加盟国は、国内法及び国内慣行に従い、第一条1(b)に規定する民間職業仲介事業所に雇用される労働者に対し次の事項について十分な保護が与えられることを確保するため必要な措置をとる。
 (a) 結社の自由
 (b) 団体交渉
 (c) 最低賃金
 (d) 労働時間その他の労働条件
 (e) 法令上の社会保障給付
 (f) 訓練を受ける機会
 (g) 職業上の安全及び健康
 (h) 職業上の災害又は疾病の場合における補償
 (i) 支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護
 (j) 母性保護及び母性給付並びに父母であることに対する保護及び給付

第 十 二 条

 加盟国は、国内法及び国内慣行に従い、次の事項について、第一条1(b)に規定するサービスを提供する民間職業仲介事業所及び利用者企業のそれぞれの責任を決定し及び割り当てる。
 (a) 団体交渉
 (b) 最低賃金
 (c) 労働時間その他の労働条件
 (d) 法令上の社会保障給付
 (e) 訓練を受ける機会
 (f) 職業上の安全及び健康の分野における保護
 (g) 職業上の災害又は疾病の場合における補償
 (h) 支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護
 (i) 母性保護及び母性給付並びに父母であることに対する保護及び給付

第 十 三 条

1 加盟国は、国内法及び国内慣行に従い並びに最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、公共職業安定組織と民間職業仲介事業所との間の協力を促進するための条件を策定し、確立させ及び定期的に検討する。
2 1に規定する条件は、公の機関が次の事項について最終的な権限を有するとの原則に基づく。
 (a) 労働市場に関する政策の策定
 (b) (a)の政策を実施するために確保される公の資金の利用又は管理
3 民間職業仲介事業所は、権限のある機関が決定する頻度で、次の目的のために権限のある機関が求める情報をその秘密保持に十分な考慮を払って提供する。
 (a) 国内事情及び国内慣行に従い民間職業仲介事業所の組織及び活動について把握すること。
 (b) 統計上の目的
4 権限のある機関は、3の情報を取りまとめ、定期的に公表する。

第 十 四 条

1 この条約は、法令又は判決、仲裁裁定、労働協約等国内慣行に適合する他の手段により適用する。
2 この条約の実施に係る監督は、労働監督機関その他の権限のある公の機関によって確保する。
3 この条約の違反があった場合における適当な救済措置(適当な場合には制裁を含む。)が定められ及び効果的に適用されるものとする。

第 十 五 条

 この条約は、民間職業仲介事業所が募集し、紹介し又は雇用する労働者について他の国際労働条約に基づき適用可能な規定であって一層有利なものに影響を及ぼすものではない。

第 十 六 条

 この条約は、千九百四十九年の有料職業紹介所条約(改正)及び千九百三十三年の有料職業紹介所条約を改正する。

第 十 七 条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第 十 八 条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国で自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国による批准が国際労働事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。
3 その後は、この条約は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第 十 九 条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国で、1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第 二 十 条

1 国際労働事務局長は、加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録についてすべての加盟国に通報する。
2 国際労働事務局長は、二番目の批准の登録について加盟国に通報する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第 二 十 一 条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、前諸条の規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第 二 十 二 条

 国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第 二 十 三 条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、
 (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第十九条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。
 (b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国で1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第 二 十 四 条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。