1919年の母性保護条約(第3号)

ILO条約 | 1919/11/29

産前産後に於ける婦人使用に関する条約(第3号)
(日本は未批准、仮訳)

 国際労働機関の総会は、
 亜米利加合衆国政府に依り千九百十九年十月二十九日華盛頓に招集せられ、
 右華盛頓総会の会議事項の第三項目の一部たる「婦人使用の件、産前産後(産婦に対する手当問題を含む。)」に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は国際条約の形式に依るべきものなることを決定し、
 国際労働機関の締盟国に依り批准せらるるが為国際労働機関憲章の規定に従い、千九百十九年の母性保護条約と称せらるべき左の条約を採択す。

第 一 条

1 本条約に於て工業的企業と称するは、左に掲ぐるものを特に包含す。
(a) 鉱山業、石切業其の他土地より鉱物を採取する事業
(b) 物品の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売の為にする仕立、破壊若は解体を為し又は材料の変造を為す工業(造船竝電気又は各種動力の発生、変更及伝導を含む。)
(c) 建物、鉄道、軌道、港、船渠、棧橋、運河、内地水路、道路、隧道、橋梁、陸橋、下水道、排水道、井、電信電話装置、電気工作物、瓦斯工作物、水道其の他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更又は解体及上記の工作物又は建設物の準備又は基礎工事
(d) 道路、鉄軌道、海又は内地水路に依る旅客又は貨物の運送(船渠、岸壁、波止場又は倉庫に於ける貨物の取扱を含むも人力に依る運送を含まず。)
2 本条約に於て「商業的企業」と称するは、物品を販売し又は商業を経営する一切の場所を包含す。
3 工業及商業と農業との分界は、各国に於ける権限ある機関之を定むべし。

第 二 条

 本条約に於て「婦人」と称するは、年齢又は国籍に拘らず、結婚者たると否とを問はず、一切の女性の人を謂ひ、「生児」と称するは、嫡出子たると否とを問はず一切の生児を謂ふ。

第 三 条

 同一の家に属する者のみを使用する企業を除くの外、一切の公私の工業的若は商業的企業又は其の各分科に於て、婦人は、
(a) 其の出産後六週間之を労働せしむることを得ず。
(b) 六週間以内に出産することあるべき旨を記載したる診断書を提出するときは、其の業を休むの権利を有す。
(c)  (a)号及(b)号に依り其の休業せる期間内、公共基金より又は保険制度の方法に依り、自身及其の生児の充分且健康維持の扶持を為すに足るの利益を支払はるべく、該利益の定額は、各国に於ける権限ある機関之を決定す。尚附加利益として無料にて医師又は免許産婆の手当を受くるの権利を有す。医師又は産婆が出産の日の予測を誤りたる場合と雖、診断書に記載の日より出産の実際にありたる日に至る迄の間、右利益を婦人が受くることを妨げず。
(d) 自ら其の生児を哺育するときは、之が為其の労働時間中一日二回三十分宛を如何なる場合に於ても与へらるべし。

第 四 条

 婦人が本条約第三条(a)号若は(b)号に依り休業せるとき、又は病気にして妊娠若は出産に基くと診断せられ且其の婦人をして労働するに不適当ならしむるものの結果として一層長期に亘り休業せるときは、右の休業が各国の権限ある機関の定むべき最長期間を超えざる限り、当該使用者は右休業中に解雇の通告を為し、又は右休業中満了すべき期間を附して解雇の予告を為すことを得ず。

第 五 条

 国際労働機関憲章に定むる条件に依る本条約の正式批准は、登録の為国際労働事務局長に之を通告すべし。

第 六 条

1 本条約を批准する各締盟国は、其の植民地、保護国及属地にして完全なる自治を有せざるものに左の条件の下に之を適用することを約す。
(a) 其の規定が土地の状況に照し適用不可能に非ざること。
(b) 其の規定を土地の状況に適用せしむる為必要なる変更を加ふること。
2 各締盟国は、其の植民地、保護国及属地にして完全なる自治を有せざるものに付其の執りたる措置を国際労働事務局に通告すべし。

第 七 条

 国際労働機関の締盟国中の二国が国際労働事務局に本条約の批准の登録を為したるときは、事務局長は、国際労働機関の一切の締盟国に右の旨を通告すべし。

第 八 条

 本条約は、国際労働事務局長が前条の通告を発したる日より効力を発生すべく、且該事務局に其の批准を登録したる締盟国のみを拘束すべし。爾来本条約は、他の何れの締盟国に付ても、右事務局に其の批准を登録したる日より効力を発生するものとす。

第 九 条

 本条約を批准する各締盟国は、千九百二十二年七月一日迄に其の規定を実施し、且右規定を実施するに必要なるべき措置を執ることを約す。

第 十 条

 本条約を批准したる締盟国は、本条約の最初の効力発生の日より十年の期間満了後に於て国際労働事務局長宛登録の為にする通告に依り之を廃棄することを得。右の廃棄は、該事務局に登録ありたる日以後一年間は其の効力を生ぜず。

第 十 一 条

 国際労働事務局の理事会は、少くとも十年に一回本条約の施行に関する報告を総会に提出すべく、且其の改正又は変更に関する問題を総会の会議事項に掲ぐべきや否やを審議すべし。

第 十 二 条

 本条約は、仏蘭西語及英吉利語の本文を以て共に正文とす。