ILO新刊「世界の雇用情勢―若者編」

若年雇用の回復、いまだに遅れ

記者発表 | 2022/08/11
ILOは11日、15~24歳の若者の雇用に関する報告書 Global Employment Trends for Youth 2022: Investing in transforming futures for young people を発表しました。若者の雇用の回復はいまだ遅れており、他のどの年齢層よりも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行のダメージを負っている、と報告しています。また、労働市場における若者の雇用見通しに大きな地域差があることも示しています。

報告書の推計によると、世界の若者の総失業者数は2022年に7300万人に達し、2021年の7500万人から若干の改善はあったものの、パンデミック前の2019年の水準を600万人上回っています。

最新の世界的な推計値では、2020年時点で、仕事に就かず、教育・職業訓練も受けていない若者(ニート)の割合は23.3%に上り、前年から1.5ポイント上昇、15年ぶりの水準となりました。ニートの若者は、キャリアに残される長期的な後遺症効果(“scarring” effects)のために、長期的にも労働市場における機会と成果が乏しくなるという特殊なリスクにさらされています。

また、若い女性は若い男性よりも不利で、人口に占める就業者の比率(EPR)はかなり低いとも述べています。推計では2022年に、世界の若年女性の27.4%が就業しているのに対し、若年男性は40.3%に上ります。これは、若い男性が、若い女性よりおよそ1.5倍も雇用されやすいことを示しています。過去20年間、ほとんど縮まる気配がなかったこの男女格差は、最も大きい低中所得国で17.3%、最も小さい高所得国で 2.3% となっています。

地域によって差


若年層の失業率の回復は、低・中所得国グループと、高所得国グループ内でそれぞれ乖離することも予測されます。高所得国では、2022年末までに若年層失業率が2019年の水準に迫るまでに回復するものの、他の国ではコロナ禍前の値を1ポイント以上上回る状態が続くとみられます。

欧州・中央アジアでは、2022年の若年層の失業率は16.4%と、世界平均の14.9%より1.5ポイント高くなるとみられ、男女ともに若者の失業率の改善には進展があったものの、ウクライナ戦争による実際の、また、潜在的な衝撃が影響を与える可能性が高い、としています。

アジア太平洋地域の若者の失業率は、地域や国によって大きな差があるものの、2022年には世界平均と同じ14.9%に達すると予測しています。

ラテンアメリカ諸国では、若年層の失業率が依然として懸念され、2022年には20.5パーセントになると予測されます。歴史的に、若年女性の失業率は若年男性よりも高く、コロナ禍がこの傾向をさらに悪化させました。北米では、若者の失業率は8.3%と世界平均を下回ると予測され、まったく異なる様相を呈しています。

アフリカの若者の失業率は12.7%ですが、多くの若者が労働市場から完全に撤退することを選んでおり、データからはその事実が見えづらくなっています。2020年にはアフリカの若者の5人に1人以上が仕事に就かず、教育・職業訓練も受けていないニートの状態であり、この傾向は悪化しています。

アラブ諸国の若者の失業率は、2022年に24.8%と予測されており、世界で最悪、かつ最も急速に悪化しています。この地域の若い女性の状況はさらに悪く、2022年の失業率は42.5%で、若年女性の世界平均(14.5%)の3倍近くにもなっています。

グリーン、デジタル、ケア経済への投資を

若い女性や男性は、グリーン経済やブルー経済(海洋資源とその持続可能な利用)が拡大する中で、その恩恵を得るのにふさわしいといえます。本報告書によると、グリーン経済およびブルー経済の施策を実施することで、2030年までにさらに840万人の若者の雇用が創出される可能性があります。

また、デジタル技術への重点的な投資により、多くの若年労働者を取り込める可能性もあります。本報告書では、2030年までにブロードバンドをくまなく整備し、誰もが利用できるようにすることで、世界で2400万人の新規雇用が純増し、うち640万人が若年雇用となると試算しています。

ケア部門(医療・介護と教育)への投資は次の4点、若年雇用の見通しの改善、家事を担う若い女性や男性が労働力として留まりやすくなること、教育・訓練の機会拡大、若者の健康に配慮し、心身の健康と幸福を育むこと―につながります。結果として、若者のニート率、特に若い女性のニート率が改善し、若者に資することになります。本報告書では、2030年までにケア部門への投資により、介護・医療分野(1440万人)とその他の分野(340万人)の計1790万の若年雇用が増加すると試算しています。

上記のグリーン、デジタル、ケアの各施策を合わせて大規模な投資を実施すれば、世界の国内総生産(GDP)を4.2%引き上げ、世界のあらゆる年齢層で、1億3900万の追加的な雇用が創出されます。そして、そのうち3200万人を若年層が占めることができるとしています。

以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。