ILO Newsletter「ビジネスと人権」

国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の相互の関係性について (5)

各国は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)へのコミットメントの表明として、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(NAP)を採択することが奨励される中、 ビジネスと人権に関する国内政策の一貫性を強化する目的で、NAPを策定・採択する国が増えています。今年6月に発行されたILOと国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループが共同でまとめたブリーフィング・ノートより、最終回は、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループについて、またILOとワーキング・グループの関係性について紹介します。

記事・論文 | 2021/09/22
© ILO:バングラデシュのチッタゴンにある造船工場の若い研修生

2021年6月21日、ILOは、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループと共同で、”The linkages between international labour standards, the United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights, and National Action Plans on Business and Human Rights” ( 「国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の相互の関係性について」 [1]) と題するブリーフィング・ノートを発行しました。

これはNAPの策定、採択、実施において重要な役割を担う政府、使用者・労働者団体に向けて作成されています。

最終回は、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループについて、またILOとワーキング・グループの関係性について紹介します。

国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループについて

国連人権理事会は、UNGPsを承認する決議の中で、様々な手段を用いてUNGPsの効果的かつ総合的な普及と実施を促進することを使命とする「人権及び多国籍企業並びにその他の企業の問題に関するワーキング・グループ」(以下、国連「ビジネスと人権に関するワーキング・グループ」)を設立しました。

ワーキング・グループは、各地域を地理的に代表する独立専門家 5 人で構成されており、国連人権理事会によって指名され、3年間の任期が与えられます。ワーキング・グループに付託された使命は、2014年 [2]、2017年 [3] 、2020年 [4] に拡張されました。ワーキング・グループは毎年、国連人権理事会と国連総会の両方に報告しています。

また、国連人権理事会は、ワーキング・グループの指導のもと、「ビジネスと人権に関するフォーラム」を毎年開催し、UNGPsの実施における傾向と課題を議論し、ビジネスと人権に関する問題についての対話と協力を促進すると共に、好事例を示しています。このフォーラムは、2012年から毎年開催されています。[5]ビジネスと人権に関する国連の年次フォーラムや、ビジネスと人権に関する地域フォーラムでは、NAPの策定と実施に関する知見の共有が行われています。

ILOとビジネスと人権に関するワーキング・グループとの関係性について

ILOは、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と共にビジネスと人権の分野に積極的に関与しており、さらに人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」が採択されて以降は、ビジネスと人権に関するワーキング・グループとも連携しています。[6] この協力関係は、2015年の人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関するワーキング・グループの第10回セッションで、作業の進め方が改定された際に、より明確になりました。 [7]

『ILOの使命と密接な関わりがあることから、ワーキング・グループとILOは、協力協定を結んだ。ワーキング・グループは、独立した専門機関としての任務に従ってその機能を遂行するにあたり、必要に応じて以下のことを行うものとする。(a) 労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言に由来する指導原則、及びILOの権限の範囲内にあるその他の問題について、ILOと協議をする、(b) 報告書及びその他の活動において、これらの問題に関連するILOのコメント及び参考文書を考慮する、(c) 適切と思われる場合には、ワーキング・グループの成果の評価についてILOと調整する。』

2017年4月、ワーキング・グループは、改定されたILO 多国籍企業宣言の採択について、ビジネスと人権に関する収束に向けた新たな一歩として歓迎し、次のように述べています。

『2017年3月にILO理事会で採択された多国籍企業宣言は、労働諸権利が国境を越えたビジネスの中で、保護、尊重されることを確保するための共同の取組みに関して、国際的に重要な参考文書を提供している。今改定は、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」との整合性を図り、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を考慮することで、関連領域における基準の一貫性の向上に大いに資するものである。』 [8]

ワーキング・グループはまた、ILO 多国籍企業宣言の実施を促進するために、宣言に規定されている国レベルでの促進/政労使三者によって任命された各国担当窓口(ナショナル・フォーカルポイント)などの様々な運用ツールを歓迎しました。[9]

作業レベルでは、ILOとワーキング・グループは様々な形で協力しています。ILOとワーキング・グループとの調整会議は、国連ワーキング・グループ会期中の年3回開催され、ILOは、労働における基本的原則及び権利と、ILO 多国籍企業宣言の効果的な実施を促進するための作業や、新しい国際労働基準や関連するILOの政策議論について報告しています。

ILOはまた、ILO条約の批准状況や、ILO監視機構に寄せられたコメント及び懸案事項に関する情報提供を行い、ILO加盟国政労使との連絡窓口となることで、ワーキング・グループによる国別訪問(平均年2回)の実施に貢献しています。また国連総会及び人権理事会へのテーマ別レポートに関してもインプットを行い、年次開催されている国連ビジネスと人権フォーラムにパネルスピーカーとして参加しています。さらに、ビジネスと人権に関する地域フォーラムや協議に参加、共同開催しています。これは特に、ラテンアメリカ、南アジア、アジア太平洋地域におけるケースです。

ILOは、OHCHRおよびOECDと共同で「ラテンアメリカにおける責任ある企業行動(CERALC)」プロジェクトを実施しており、このプロジェクトはワーキング・グループとの密接な協力のもとに進められています。 このプロジェクト(2019年~2022年)は、欧州連合(EU)の資金提供により、責任ある企業行動を支援することで、EU、ラテンアメリカ、カリブ地域における、スマートかつ持続可能な包摂的成長を促進することを目的としています。このプロジェクトでは、対象となる9カ国の政府が、使用者、労働者団体と協議・協力してNAPの策定、実施することを支援しています。

本ブリーフィング・ノートの情報に関するさらなる詳細について

ILOジュネーブ本部企業局多国籍企業ユニットのウェブサイトをご参照ください。www.ilo.org/mnedeclaration

最後に

今回、5回に渡りまして、ILOと、国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループが共同で作成したブリーフィング・ノート 「国際労働基準、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の相互の関係性について」の日本語訳をご紹介してまいりました。そのシリーズを書き終える少し前となります2021年9月16日に、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の策定にご尽力をされました、ジョン・ラギー博士がご逝去されました。
ご功績に敬意を表しますとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

脚注:
[1] Briefing Note: “The linkages between international labour standards, the United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights, and National Action Plans on Business and Human Rights”. ILO. 17 June 2021: https://www.ilo.org/empent/areas/mne-declaration/WCMS_800261/lang--en/index.htm

[2] A/HRC/RES/26/22.

[3] A/HRC/RES/35/7.

[4] A/HRC/RES/44/15.

[5] 国連人権高等弁務官事務所ウェブサイト: 
https://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Forum/Pages/ForumonBusinessandHumanRights.aspx

[6] 国連人権理事会決議 A/HRC/RES/17/4, para 6(h)にILOについての言及がある。

[7] A/HRC/WG.12/10/1.

[8] Information Note: “UN expert group welcomes revised ILO declaration on multi-national enterprises – another step toward greater convergence on business and human rights” 国連人権高等弁務官事務所ウェブサイト:
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/TransCorporations/2017-04-28_INFONOTE_WGBHR_ILO_MNE.pdf

[9] ILO多国籍企業宣言―解説 ILO駐日事務所ウェブサイト
https://www.ilo.org/tokyo/helpdesk/WCMS_676219/lang--ja/index.htm