ILO Newsletter「ビジネスと人権」

国内・世界のサプライチェーンにおける児童労働のリスク

2021年6月10日、児童労働に関する世界的な現状を示す最新報告書『児童労働:2020年の世界推計、動向、前途』が発表されました。本報告書は、ILOとUNICEFにより、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット8.7の達成に向けた共同報告書として発行されたものです。今回は、グローバルビジネスを展開する上で、人権リスク対策の課題のひとつにあげられる児童労働の問題とそれへの対応について、報告書より抜粋して、ご紹介します。

記事・論文 | 2021/06/23
6月13日に閉幕したG7コーンウォール・サミットの首脳宣言において、「農業、太陽光、衣類の部門におけるものを含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、国家により行われる脆弱なグループ及び少数派の強制労働を含むあらゆる形態の強制労働の利用について懸念」が表明されました(外務省・G7首脳コミュニケ・自由で公正な貿易参照)。このことは、グローバル・サプライチェーンの分野における人権問題への対応が、国際社会全体で取り組むべき急務であることを示しています。強制労働とともに重大な人権侵害である児童労働に関し、今年が児童労働撤廃国際年であることをご存じですか。[1] これまでの児童労働に対する取組みを加速させ、さらなる前進を目指して、2019年の国連総会で採択されました。ILOは、Alliance8.7 [2] のグローバルパートナー機関と共に国際年を主導しています。国際年の今年、行動(Act)、啓発(Inspire)、スケールの拡大(Scale Up)の3つの柱の下で、SDG8.7 達成のための道筋をつけることが目標となります。

2021年6月10日、児童労働に関する世界的な現状を示す最新報告書『児童労働:2020年の世界推計、動向、前途』が発表されました。本報告書は、国際労働機関(ILO)と国連児童基金(UNICEF)により、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット8.7の達成に向けた共同報告書として発行されたものです。今回は、グローバルビジネスを展開する上で、人権リスク対策の課題のひとつにあげられる、児童労働の問題とそれへの対応について、報告書より抜粋して、ご紹介します。

世界の推計値と傾向

最新の世界推計によると、2020年初頭の時点で、世界で1億6,000万人の子どもたち(6,300万人の少女と9,700万人の少年)が児童労働に従事しており、これは全世界の子どもたちのほぼ10人に1人に相当します。7,900万人の子どもたち(児童労働者全体の約半数)は、子どもたちの健康、安全、道徳的な発達を直接危険にさらす仕事に就いていました。

 
2000年に児童労働に関する世界推計を開始して以降初めて、2016年から2020年の間、児童労働撤廃に対する進展は停滞しています。児童労働者数の割合はこの4年間で変化していませんが、児童労働に従事している子どもの絶対数は800万人以上増加しています。同様に、危険有害な仕事に就いている子どもの割合はほぼ横ばいでしたが、絶対数は650万人増加しています。

世界の状況を見ると、アジア・太平洋地域と南米・カリブ海地域で児童労働撤廃について継続的な進展が見られます。この2つの地域では、過去4年間で児童労働が割合的にも絶対的にも減少傾向にあります。

一方、サハラ以南のアフリカでは、同様の進展は見られませんでした。この地域では、2012年以降、児童労働をしている子どもの数と割合が増加しています。現在、サハラ以南のアフリカで児童労働に従事する子どもたちの数は、世界の他の地域を合わせた数よりも多くなっています。世界の児童労働をなくすという目標は、この地域の躍進なしには達成できません。

参考:”Child labour: Global estimates 2020, trends and the road forward”(2021)P.13

この4年間、12歳~14歳、15歳~17歳の子どもたちの間では、一貫した減少傾向が続いています。しかし、5歳~11歳までの幼い子どもたちの児童労働は、2020年の時点で、2016年に比べて1,680万人増加しました。

早急に対策を講じない限り、児童労働撤廃に対する世界の進歩はさらに損なわれる恐れがあります。新たな分析によると、パンデミックによる貧困の拡大の結果、2022年末までにさらに890万人の子どもが児童労働に従事することになります

しかし、予測される児童労働の増加は、対策の対応次第です。社会的保護の適用率が低下すると、2022年末までに児童労働の大幅な増加が起こる可能性があります。一方、社会的保護の普及率が上がれば、COVID-19が児童労働に与える影響を低減し、この問題を前進させることができます。

今後について

2020年のILOとユニセフの世界推計値は、児童労働に対する世界的な取組みが重大な岐路にあることを示しています。現在続いているCOVID-19危機の中で、これ以上の取組みの遅れを取らないためにも、早急な対策が必要です。パンデミックは、児童労働のリスクを明らかに高めています。特に、貧困の急激な増加は、家族の児童労働への依存度を高める可能性があり、また、学校の閉鎖は、家族の、児童労働に代わる就学という論理的選択肢を奪うことにつながります。

私たちは、拡大する危機、紛争、災害において児童労働のリスクが高まっていることに特に注意を払うべきです。危機への備えや緊急時の計画から、人道的対応、危機後の復興・復旧活動まで、人道的活動のすべての段階で児童労働への配慮が必要です。

そして、国内および世界のサプライチェーンにおける児童労働のリスクに対処することは、引き続き重要です。 特に、サプライチェーンの下層部で活動する非公式な零細企業や小規模企業は、児童労働やその他の人権リスクが最も顕著に見られます。最新報告書では、パンデミックがこのリスクを高めることがあってはならないとし、次のような提言をしています。[3]
  • パンデミックに関連した緊急のニーズに対応しているため、公共機関による労働法や規制の施行能力は、財政的にも人的にも厳しい状況にある。しかし、各国政府は、国内外のあらゆる規模の企業に対し、事業活動やサプライチェーンにおける透明性と人権に関するデュー・ディリジェンスを求める法律と執行メカニズムを、引き続き強化する必要がある。これらの国には、国際企業が拠点を置いている国の政府も含まれる。
  • 企業は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、ILOの条約、および「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)」に従って、事業活動やサプライチェーンにおける児童労働の問題を特定し、防止・撤廃のための対策を講じるために、法律を適用し、さらなる措置を講じる責任を果たす必要がある。
  • サプライチェーンにおける児童労働のリスク評価をすることで、COVID-19 危機に対応した事業運営が可能となる。サプライチェーンの下層部に位置するインフォーマルな零細企業や小企業は、児童労働やその他の人権リスクが最も顕著であり、危機の影響が甚大であるため、特に注意が必要とされる。このような評価を行うには、労働者やその代表組織、コミュニティのメンバーなど、現地のリスクを特定し、最も適切な対策を講じることのできる立場にあるステークホルダーによる有意義な関与が必要である。
  • 短期的な危機であれば、即座の行動が重要である。しかし、このような行動には、グローバル・サプライチェーンの回復力、倫理性、持続可能性を高め、将来の危機において児童労働やその他の人権侵害の影響を受けないようにするため、より長期的かつ体系的な対応を伴うべきである。確立された責任あるビジネスと消費の行動は、企業を存続させ、児童労働の撲滅に役立つ。 例えば、サプライヤーとの長期契約、将来の契約内容の明確化、注文と支払いの取り決めの遵守、公正な支払いスケジュール、製品やサービスの真の生産コストと市場価値を反映した価格設定などが挙げられる。
  • 個々の企業では力を発揮できないことが多いため、サプライチェーンの下層部で児童労働の根絶を図るために、業界全体や業界を超えた協力体制が必要である。このような認識のもと、近年、企業が主導するさまざまな自主的な取組みが行われている。持続可能性と実行性は、政府、社会的パートナー、市民社会による、児童労働の撲滅に向けた既存の取組みに、企業の活動を組み入れることで大きく変化する。
国内およびグローバル・サプライチェーンにおける児童労働のリスクを低減させるためには、危機の急性期と回復期の間、すべてのステークホルダー間による、児童労働撤廃に向けた、より広範な対策が必要です。

グローバル・サプライチェーンにおける児童労働とILOの取組み

2020年1月、オランダ政府が、ILO、児童労働に反対するグローバルマーチ、オランダ企業庁の協力を得て開催した「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働に終止符を打つために次の手を講じる」会議において、ガイ・ライダーILO事務局長は、「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働に対する取り組みは、直接的な下請け業者を越え、原材料の採取や生産に関わる者たちも含む必要性」を指摘し、「サプライチェーン全体を通じた取り組み」を提唱しました。[4]

2019年11月に、ILO、経済協力開発機構(OECD)、国際移住機関(IOM)、国際連合児童基金 (UNICEF)により発表された報告書「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を[5]でも、その相当割合が連鎖下層の原材料の採取や農業などの活動で発生しており、デュー・ディリジェンスや可視性、追跡可能性を難しくしていることを明らかにしています。

ILO駐日事務所では、日本語版での児童労働撤廃国際年特設サイトを通して、児童労働について学ぶための様々な資料をまとめ、紹介しています。「児童労働について理解を深めるための10の参考資料」で、ひとつでも関心のある資料がございましたら、ぜひご覧ください。また、世界各国、様々なステークホルダーによるアクション・プレッジ(行動の誓い)に関するストーリーは、組織として、個人として、今私たちができることについてのヒントを得るきっかけとなるでしょう。


脚注
[1] 国連の児童労働撤廃国際年(英)特設サイト https://endchildlabour2021.org/overview/
[2] Alliance 8.7とは、2015年に発足し、SDG目標8「働きがいも、経済成長も」のターゲット7「強制労働、現代の奴隷制、人身取引に終止符を打ち、2025年までにあらゆる形態の児童労働の終結」の達成に向けて取り組むグローバル組織。https://www.alliance87.org/
[3] 『児童労働:2020年の世界推計、動向、前途』p67-68
[4]グローバル・サプライチェーンにおける児童労働に終止符を打つための次の一歩を目指して国際会議を開催」(2020年1月27日)
[5] グローバル・サプライチェーンにおける児童労働の規模を初めて推計した報告書『Ending child labour, forced labour and human trafficking in global supply chains』(2019)/ エグゼクティブサマリー(日本語訳)