ILOモニタリング第9版

コロナ禍からの回復、逆戻り 世界の労働市場

記者発表 | 2022/05/23
ILOは23日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と仕事の世界についての最新の調査結果(ILOモニタリング第9版)ILO Monitor on the world of work. Ninth editionを発表しました。国内または国家間で不平等が拡大するだけでなく、複数の世界的危機が結び付き、世界の労働市場が回復するのを妨げている―と述べています。

本資料によると、世界の労働時間数は2021年第4四半期(10~12月)に大幅に上昇し、2022年第1四半期(1~3月)ではコロナ禍前の水準(2019年第4四半期)から3.8% 減少しました。フルタイム労働者に換算した場合、1億1200万人分の仕事が失われたことになり、2022年1月のILO発表値から大幅な下落となりました。

世界規模の危機―インフレ(特にエネルギーと食料価格)、金融市場の混乱、潜在的な債務支払困難、ウクライナでの戦争によって悪化したサプライチェーンの世界的混乱など―が相互に影響し合い、2022年の労働時間が減少する恐れがあります。今後数カ月で世界の労働市場に与える影響はより大きくなるとみられます。

ロシアのウクライナ侵攻は、先日ILOが発表した概況にあるように、ウクライナやその他の国々の労働市場にすでに影響を及ぼしています。

本資料ではまた、各国の貧富の差がさらに拡大し続けていることもこの(コロナ禍からの)回復の特徴だ、としています。高所得国では労働時間が回復した一方、危機以前の水準と比較した場合第1四半期は低所得国が3.6%、低中所得国で5.7%の開きが生じ、後退しました。こうした傾向は、2022年第2四半期(4月~6月)にかけ悪化する可能性が高いとみられています。

一部の途上国では、財政政策の自由度が低下し、債務の持続可能性の課題によってますます制約を受ける一方、企業は経済的・財政的な不確実性に直面し、労働者は社会的保護を十分に受けられずにいます。

新型コロナウイルス感染症の流行から2年以上が経過し、仕事の世界では多くの人々が依然としてコロナ禍の労働市場における影響に苦しんでいます。
  • 大多数の労働者の労働所得は回復していません。労働所得が2019年第4四半期の水準に戻っていない国の労働者の数は2021年には5人に3人に達しました
  • 労働時間における男女格差もコロナ禍で拡大しました。2022年第1四半期の労働時間における世界の男女格差は、すでに大きな格差が存在していたコロナ禍前の水準(2019年第4四半期)よりも0. 7ポイントの差が開きました。最も大きな影響を受けているのは非正規雇用の女性です。国を所得別にみると、低所得国および中所得国の男女格差が最も大きくなりました
  • 2021年末から2022年初頭にかけて先進国で求人数が急増しました。求職者に対する求人数が増加し、労働市場がひっ迫しましたが、多くの国で失業者や活躍の機会のない労働者は多く、労働市場が総じて過熱しているという決定的な証拠はありません
  • ウクライナ危機で悪化した生産と貿易の混乱にけん引され、食料と商品価格の上昇は、貧しい家計や中小企業、特にインフォーマル経済に従事する人々に大きな打撃を与えています
ILO 事務局長のガイ・ライダーは「(コロナ禍からの)世界の労働市場の回復は逆戻りしている。さまざまな危機が結び付いてその影響を増幅させ、不均等でもろい回復がさらに不透明な状況に置かれている」と述べました。その上で「特に発展途上国の労働者とその家族への影響は壊滅的で、社会的・政治的混乱につながりかねない」とし、「これまで以上に協力し合って『人間を軸に据えた回復』の実現することが不可欠だ」と話しています。

以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。