国際女性デー

ILO新刊:中南米・カリブで労働市場に復帰できていない女性は400万人超

記者発表 | 2022/03/03

 新型コロナウイルスの世界的大流行が中南米・カリブの労働市場に引き起こした危機の影響は女性の方により大きく、この地域は就労に関わる男女平等における前代未聞の後退という課題に直面しています。国際女性デー(3月8日)に先立ち、2022年3月3日に発表されたILO中南米・カリブ総局の新刊書はそう記しています。

 コロナ禍の中での中南米・カリブの労働市場を概観する刊行物シリーズの一つである技術資料『América Latina y Caribe: Politicas de igualdad de género y mercado de trabajo durante la pandemia(中南米・カリブ:コロナ禍の中での労働市場及び男女平等政策・西語)』は、危機が最悪だった2020年第2四半期に仕事を失った2,360万人の女性の内、2021年末現在でも約420万人が労働市場に復帰できていないことを示しています。対して、同時期に仕事を失った男性2,600万人のほとんどが今は完全に復帰しています。

 中南米・カリブにおける女性の就業状態に関する一連のデータを紹介し、域内諸国で導入された関連戦略を分析する本書は、1990年代初めに41%前後に留まっていた女性の地域平均労働力率が着実な上昇を続け、2019年最初の3四半期平均で52.3%にまで達したものの、2020年同期に47%まで下がり、同年の地域平均は43%にまで落ち込んだ時もあったと記しています。2021年の回復は不十分で、コロナ禍前より2.5ポイント低い49.7%までしか戻っていません。

 2021年第3四半期の女性の地域平均失業率が2020年と同レベルの12.4%であることは、改善がなかった印であり、2019年の9.7%まで戻すには大幅な減少が必要です。これは合計失業率10%、男性の平均失業率8.3%を大きく上回っています。

 本書は、保健非常事態に対処するために採用された、一般的な教育施設や介護・保育などのケアセンターの閉鎖などの措置が女性の労働力率にマイナスの影響を与えたと分析しています。加えて、とりわけ商業や飲食・宿泊業、娯楽活動などといった、社会的隔離措置の影響が最も大きかった活動部門は女性が集中している部門です。一方で、非公式(インフォーマル)就労や中小・零細企業といった影響が大きかった部門も女性就業者が優勢を占め、就業者の91%が女性である家事労働や72%を占めるインフォーマル経済の就業者は大幅に減少しています。

 ビニシウス・ピニェイロILO中南米・カリブ総局長は、「3月8日の国際女性デーに際し、私たちは仕事に係わる男女平等における懸念すべき後退に直面していることに留意すべきです。地域はしたがって、失われた地歩を回復し、女性により多くのより良い雇用機会を生み出す努力を倍増させる必要があります」と説いています。さらに、「2年前の2020年3月半ばに危機が始まった時、女性の失った職と収入は災害的でした。女性の失業者が増大しましたが、最も衝撃的なことは、この20年間で見たこともない水準まで労働力率を引き下げることになった労働市場からの女性の大挙しての退出です」と指摘しています。

 本書の作成を支援したロクサナ・マウリッツィオILO労働経済地域専門官は、「農山漁村の女性、幼い子どものいる女性世帯主、教育や訓練の水準が低い女性、先住民女性、アフリカ系女性」への影響がより大きく、労働力率と所得の両方において、所得水準や教育水準がより低い女性の男女格差がなかなか解消されていないことを指摘して、コロナ禍が従来より存在していた構造的不平等を悪化させたと説いています。

 性差の視点を考慮に入れたものに特に重点を置いて、コロナ禍の悪影響の緩和及び回復に寄与することを目指して講じられた労働市場関連の政策・措置を分析した本書は、コロナ禍の最中及び回復段階に実施されるあらゆる事業計画、戦略、政策、法規の設計、推敲、適用、結果分析に内在する要素として男女平等に対する配慮を組み込むことを提案しています。

 3部構成の本書は、第1部でコロナ禍の中での中南米・カリブの女性の労働状況を概観した上で、第2部で雇用と労働力率を回復するために域内諸国が講じているジェンダー政策の好事例を紹介し、第3部で結論と提案を提示しています。


 以上はILOカリブ諸国ディーセント・ワーク技術支援チーム(DWT)兼国別事務所によるリマ発英文記者発表の抄訳です。