第76回国連総会

国連事務総長が仕事と社会的保護に関する行動の加速化を呼びかけ

記者発表 | 2021/09/28

 とりわけ低・中所得国における仕事を豊かに生む成長、社会的保護、正味で炭素排出量をゼロにする未来に向けた公正な移行への投資は、新型コロナウイルスの世界的大流行によって深刻化した先進国と途上国の間の不平等のさらなる拡大を防ぐことができようと、2021年9月28日に発表されたアントニオ・グテーレス国連事務総長の政策概説資料は記しています。

 2020年3~12月の間に億万長者の富は3.9兆ドル以上増加した一方で、仕事の世界に対するコロナ禍の影響などの様々な要因により、過去21年間以上なかったことですが、極度の貧困層が増加に転じ、1億1,900万人から2億2,400万人増えています。2020年に合計労働時間は推定8.8%減少しましたが、これはフルタイム労働者2億5,500万人分の年間労働時間に相当します。これに対応する勤労所得の減少分は、政府支援前で3.3兆ドルになると見られます。コロナ禍によって2021年には危機前よりも就業者が推定7,500万人減少し、2022年でも2,300万人少ないと予想されます。

 人々が人生の浮き沈みを切り抜けるのに必要な支援を提供する質の高い公共サービスと社会的保護制度に投資することなしに経済と社会の進歩を達成できた先進国経済はありません。「Investing in jobs and social protection for poverty eradication and a sustainable recovery(貧困根絶と持続可能な回復に向けた仕事と社会的保護への投資・英語)」と題する事務総長の政策概説資料は、仕事を豊かに生む、持続可能で社会を包摂した回復に対する緊急投資を呼びかけています。危機が労働市場に与えた直接的なショックに対応し、公正な移行を支援するには少なくとも9,820億ドルの財政刺激策が、そして低・中所得国における社会的保護の土台整備には毎年1.2兆ドルが必要ですが、官民両部門は世界を持続可能な開発目標の達成に向けた道に戻し、世界の労働力の4割に相当する12億人分の仕事を脅かす可能性がある、ますます増大する気候変動と環境劣化のリスクに対処するため、そのような投資を相当に膨らませるために財政を強化する必要があります。

 コロナ禍からの人間を中心に据えた回復には、人々の生活水準を向上させるためだけでなく、急速に変化する仕事の世界の課題と2050年までに正味で炭素排出量をゼロにする目標に向けた移行を切り抜ける手助けをするものとして、雇用政策と社会的保護政策を共同歩調で進める必要があります。

 仕事を豊かに生む回復と持続可能で包摂的な経済に向けた公正な移行を達成するために、事務総長は最低でも4億人分の仕事を創出し、現在保護されていない40億の人々に社会的保護を拡大する「仕事と社会的保護の世界的な加速装置」の必要性を説き、その目標の達成に向けて以下のような幾つかの行動を提案しています。

  • 介護や保育といったケア部門と環境に優しいグリーン部門を中心とした産業部門における人間らしく働きがいのある仕事の創出、普遍的社会的保護、公正な移行に向けた全国的かつ包摂的な総合回復戦略の策定と、それがマクロ経済及び財政政策に沿ったものであり、しっかりとしたデータに下支えされたものであることの確保
  • 国家予算の対国内総生産(GDP)比で見た社会的保護の土台に対する投資の拡大
  • 非公式(インフォーマル)経済で働く人々に社会的保護を広げ、ケア経済におけるものを含み、企業と雇用の漸進的な公式(フォーマル)化を育む政策措置の設計
  • 仕事の維持あるいは転職、グリーン移行・デジタル移行への適応に向けた労働者の技能向上、再技能取得を手助けする積極的労働市場政策の策定
  • 必要を感じている国には特別引出権(SDR)を国の回復戦略を支える方向に向けることなどを通じて働きがいのある人間らしい仕事、社会的保護、公正な移行に対する投資を動員する堅固な金融構造の開発
  • 技能格差の縮小を目指し、とりわけ女性及び女性が所有する企業に実効的な手を差し伸べつつ起業家精神を促進するために、戦略的な産業部門に対する投資のスケールアップを目的とした民間セクターとの協力強化
  • 各種戦略を気候変動に関するパリ協定に沿ったものとして、正味で炭素排出量をゼロとする経済への移行において脆弱な人々が置き去りにされないよう確保しつつ、企業と労働者を支援する戦略の確保

 国連事務総長はこの概説資料をILOも支援する「新型コロナウイルスの時代とその後における開発のための財源イニシアチブ(FfDI)」の後援の下、2021年9月28日日本時間22時~翌29日2時にILOと共催するバーチャル・ハイレベル会合で発表し、各国指導者に加え、国際機関や多国間銀行・金融機関のトップ、市民社会、民間セクター、学者などが参加して、今後取るべき道を検討します。この「貧困根絶に向けた仕事と社会的保護ハイレベル会合録画動画)」では、国連事務総長、FfDIの共同呼びかけ人であるジャマイカのアンドリュー・ホルネス首相、ガイ・ライダーILO事務局長の開会の辞の後、国際金融機関のトップや国家元首・政府首脳、国際機関の代表などが参加する司会者付の討議が行われ、アミーナ・モハメッド 国連副事務総長が閉会挨拶を行います。


 以上はニューヨーク発英文記者発表の抄訳です。