ILO統計局ブログ:消費者物価指数

世界中で食品価格の上昇を引き起こしている新型コロナウイルス

 新型コロナウイルスによる各種の制限は消費者の支出パターンを変化させました。地域封鎖措置はとりわけ、一定の商品の需給、したがってその価格に影響を与えました。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行は、それに関連した地域封鎖や移動制限、物理的距離確保のルールと共に大幅な失業者の増加、多くの人の相当の減収をもたらしただけでなく、消費パターンや物価上昇率も変化させました。地域封鎖措置はとりわけ、一定の商品の需給、したがってその価格に影響を与えました。

 新型コロナウイルスの世界的大流行が始まってから、職を失ったり、労働時間を減らすことを余儀なくされた人々が増え、これによって収入は減り、結果として、多くの必須でない商品やサービスに対する需要が急落しました。

 当初急激に落ち込んだ需要は消費者物価指数の計算に用いられている商品及びサービスのバスケット内にある燃料などの一部品目の価格低下を招きました。結果として消費者物価の上昇率は2020年第1四半期の約4%が第2四半期には約2.5%と世界的に鈍化しました。その後、地域封鎖措置が緩和されると、消費者物価上昇率は幾分持ち直しましたが、なおも新型コロナウイルス以前の水準を下回ったままでした。2020年8月に全ての商品及びサービスの物価は前年同月比で平均2.7%上昇しました。

 一方で新型コロナウイルスに関連した供給の混乱や食料、医薬品のみならず、身の回りを手入れするための製品や掃除用品、トイレットペーパーの買いだめにも走った消費者の強い需要によってこれらの商品の価格は大幅に上昇しました。下の表で見られるように、世界中どの地域でも消費者物価指数全体よりも食品部分が急速に伸びました。2020年8月に世界の食品価格は平均で前年同月比5.5%上昇しました。

 食品価格の上昇は、通常、収入のほとんどを食料購入に充てる低所得世帯の生活水準に大きな影響を与えている可能性があります。こういった世帯はたとえわずかな上昇であっても難しい決定を迫られる可能性があり、新型コロナウイルスの世界的大流行が引き金となった雇用減と食品価格の上昇は、持続可能な開発目標(SDGs)の歩みを損ない、社会不安さえを引き起こしかねない潜在力を秘めています。

図:コロナ禍の開始と共に食品価格は平均物価上昇率を上回る伸びを記録
前年同期比で見た消費者物価指数の推移

 1月30日(薄いブルーの部分)に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言された新型コロナウイルス感染症は3月11日(ブルーの部分)にパンデミック(世界的な大流行)と宣言されました。感染者数は人口1万人あるいは10万人当たりとし、図表作成の関係上、トップコーディング処理が施してあり、地域比較を意図したものにはなっていません。出典:消費者物価についてはILOSTATのデータベース、新型コロナウイルス感染症の感染者数と人口についてはOur World in Dataのデータを用いたILOの推計。英語原文記事ではこのデータを地域別で数値を含めて見ることができます。

 地域別の食品価格の動向を眺めると、2020年1月に中央・南アジア、東・東南アジアで上昇し始め、数カ月遅れで他の地域も後追いしたのが明らかになります。これは、ウイルスが欧米よりも多くのアジア諸国に早く上陸したという、新型コロナウイルスの地域別流行の時期に関連している可能性があります。

 東・東南アジアでは、食品価格の上昇率は2019年12月には5.2%でしたが、2020年1月には9.3%に上昇しました。欧米では2020年3月は1.9%でしたが、地域封鎖措置が導入された2020年4月には3.8%に上昇しました。他のどの地域でも同じような傾向が見られます。

 消費者物価指数とは、食品や飲料、たばこ、衣服、住宅、燃料、家庭用電気製品、交通費、医療費、電気通信費などの典型的な個人世帯で消費される商品とサービスの価格の経時的な推移の平均を測定したものです。地域別の消費者物価上昇率は世界銀行で得られる購買力平価の現在ドル建てによる2017年の各国の推定国内総生産で重み付けした国内物価指数の加重幾何平均として算出されています。地域別推計値は2019年1月~2020年8月の期間の消費者物価指数系列が得られる全ての国のデータをもとにしています。

 消費者物価指数と新型コロナウイルス感染症の感染者数の地域推計には、国連でSDGs指標の報告に用いられている公式の地域分類が用いられており、ILOの統計データベースILOSTATで用いられている地域分けとは異なります。

SDGの地域分類 消費者物価指数データが得られる国・地域の数
中央・南アジア 11
東・東南アジア 17
欧米 41
中南米 33
北アフリカ・西アジア 20
大洋州
サハラ以南アフリカ 43
世界全体 172

 月ごとの確認された新型コロナウイルス感染症感染者数と人口のデータはオックスフォード大学が運営する「Our World in Data(データで見る私たちの世界)」のデータを用いています。

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 以上はILO統計局のバレンチナ・ストエフスカ上級統計官による2020年12月9日付の英文投稿記事の抄訳です。ILOの労働統計データベースILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。