広報記事:地域経済開発

ココナツと熱意と環境変化と

 ILOの「経済開発と和解を通じた地元エンパワーメント(LEED+)プロジェクト」はスリランカで民間セクターと地元コミュニティーと協働し、農業や園芸で幅広く用いられているココチップを相互に利益を生むビジネスになるよう育んでいます。

写真スライドショー:ILOのLEED+プロジェクトを通じてココナツの殻を用いた事業を立ち上げたナダラジャさん(英語)© ILO, © Diomari Madulara, © Manjunath Kiran/AFP

 スリランカの年間ココナツ生産量は30億個に上ると推計されます。郷土料理の必須食材であるだけでなく、主要な輸出品目でもあります。

 スリランカ北部のムッライティーブー県に住むナダラジャ家でも奥さんのラバニアさん(39歳)が二つに割ったココナツから小さな白い薄片を削り取ってボウルに入れ、昼食の準備をしている奥で、夫のキドナンさん(49歳)が殻を裁断機に通して小さな茶色の粒に砕き、ココチップを生産しています。ココチップは世界中で農業や園芸に用いられています。

 キドナンさんは最近、スリランカにおけるココ培地の主要輸出業者の一つであるトロピコイア社の供給業者となりました。

 殻を手で外しながらキドナンさんは言います。「ココナツの殻を収入源として見たことはありませんでした。商売のことは何も分かりませんでしたが、学びたいと思いました。5人家族ですが、今はココチップの収入で暮らしていけています。幼稚園の先生をしている妻の給料も助けになっています」。

 ILOがスリランカで展開する「経済開発と和解を通じた地元エンパワーメント(LEED+)プロジェクト」はココナツのコイア(ココヤシの実の外皮から取った繊維)を含む複数のバリューチェーン(価値連鎖)を手がけています。キドナンさんはプロジェクトがウダヤルカッドゥ協同組合と共同で行う活動に選ばれた8人の参加者の1人として、今年2月からこの仕事を始めました。

 「まず、トロピコイア社から一連の研修講座が提供されました。クルネガラにある工場の視察も行い、そこで事業全体の規模を直に見て、どうすれば成長させられるかにも気付きました。裏庭に操業用の構造を立て、電源供給の問題を解決し、その他の手配もすませました。これは自己資金ですが、機械はLEED+プロジェクトとトロピコイア社から支給されました」とキドナンさんは説明します。

 LEED+プロジェクトから生まれた新規事業は、トロピコイア社を通じたものだけでも既に八つを数えます。プロジェクトが便宜を図る民間セクター・パートナーシップの主な特徴は投資と責任の分担であり、これは最初から民間企業と供給業者の双方に所有権と説明責任を生じさせます。新規に立ち上げられた事業には必要不可欠な支援が提供されますが、長期的には民間企業と個々の供給業者の両方を利する互恵関係が築かれると共に、産業部門の前進が図られます。一方で、全国規模の大企業による投資と事業運営の点で遅れている北部でサプライチェーン(供給網)の育成を助けることによって地元共同体にも新たな機会の利益がもたらされます。

 キドナンさんが事業を興してから1カ月も経たないうちに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がスリランカにも上陸し、全島に戒厳令が敷かれました。トロピコイア社も輸出を一時中断しましたが、戒厳令が解除され次第ココチップを買い上げることを供給業者に保障しました。ナダラジャ一家も無収入となり、政府の総合的救済措置と自家菜園の野菜に頼った生活を送っていましたが、生産は止めなかったっため、戒厳令が解かれた時には2トンのココチップが生産できていました。7月からはコロナ禍によって2、3回中断させられたものの、事業は順調に続いています。

 昼休み、キドナンさんは息子のジーバラジさん(20歳)と1日の生産量を調べます。北東からの季節風が毎日にわか雨を降らせて箱詰め前のココチップの乾燥を中断させます。ココナツの殻の供給も最近減少し、値段が上がってきています。それでもキドナンさんはこういった課題に動じず、将来に向けた大きな計画を語ります。

 「私の熱意を見たトロピコイア社が、もう1台機械を提供してくれることに同意したので、最近、別の場所に事業所を立ち上げ、4人の従業員を雇い入れました。家族の借金はなくなり、質に入れた妻の宝石も請け戻し始めています。将来的にはココチップだけでなくコイアとコイア粉を生産する機械も手に入れて事業をさらに拡大していきたいです。見通しは明るいですから」。

 ILOの「平和と強靱性のための仕事グローバル計画」の一環として、オーストラリア外務・貿易省とノルウェー政府の任意資金協力を得てスリランカで展開されているLEED+プロジェクトは、典型的なILOの取り組みとして、包摂的かつ持続可能な働きがいのある人間らしい仕事の創出、その過程での紛争被災コミュニティーのエンパワーメント確保を最終目標に掲げています。


 以上はILOスリランカ・モルジブ国別事務所による2020年12月7日付のスリランカ発英文広報記事の抄訳です。