雇用集約型投資計画

東チモールにおける雇用と生計手段への道

 学校や市場、病院に通じる道が整備されていないことは東チモールの共同体にとっての課題ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行の中では特にそう言えます。農山漁村道路の復旧に向けたILOのイニシアチブは、この孤立を打破し、仕事を提供し、生計手段を向上させる手助けをしています。

アデリーナ・ダ・シウバさん

 ある早朝、アデリーナ・ダ・シウバさんとフランシスカ・メンドンサさんは同僚と落ち合い、シフト勤務を開始しました。2人が住む東チモール山中のリウライ村と首都ディリ市を結ぶ曲がりくねった道を維持する作業に一日中従事するのです。

 どちらの女性にとってもこれが初めての公式(フォーマル)な有償の仕事です。ダ・シウバさんはこれまで自宅で家事を手伝っており、一方、12歳の子どもがいるメンドンサさんは夫の農作業を手伝いつつ、家族の面倒を見てきました。

 側溝のゴミを除去し、道路の穴を埋め、道路脇の草を刈り取って道路を良好な状態に維持する手助けをしている2人は声を揃えて、「この仕事を誇りに思う」と言っています。

参加している事業計画について語るアデリーナ・ダ・シウバさん・英語字幕付・1分6秒

 この道路復旧事業はオーストラリア政府の任意資金協力を受けて実施されている東チモールの「開発のための道路(R4D)事業計画」の一環としてILOが支援しています。これは東チモールの農山漁村で展開されている主導的な道路計画であり、2012年から農山漁村道路部門の開発を支えてきました。

 市場や各種サービスへのアクセスを提供する道路は僻地の共同体にとっては生命線です。労働基盤型手法を用いることによって、この事業計画は障害者や女性、若者を含み、農山漁村の共同体に雇用機会をもたらしています。

 メンドンサさんの家族はかつて、2時間以上かけて徒歩で市場まで農産物を運搬し、約20ドルの売り上げを得ていたものでした。今では市場までは公共交通機関を用いてわずか30分で到着できる上、可能な限り多くの農産物を持ち運べるため、売上高は最大100ドルに達します。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の時代にはかつてないほど重要なこととして、道路の復旧は共同体の保健サービスも改善しました。メンドンサさんは今、月に一度、共同体や各世帯に基本的な一次保健医療サービスを普及するボランティア活動を行っています。

フランシスカ・メンドンサさん一家

 ダ・シウバさんも「何年もの間、私たちは孤立していましたが、今では保健医療が必要な人のもとに救急車が楽に到着できます」と語って、かつての共同体が学校や病院に行くのに直面していた困難を振り返ります。

 10.4キロの距離の道路維持作業を週3日行って、労働者が手にする月収は60ドルです。ダ・シウバさんはこの一部を学校の制服や本の購入に充てて兄弟姉妹を援助しています。メンドンサさんもこの特別収入が年下の子どもたちの学業資金の足しになっていることを明らかにします。

 新型コロナウイルスの世界的大流行によって維持作業は今年に入ってから3カ月間中断され、その間、労働者らは農作業に戻りました。今は作業が再開され、労働者らはマスク着用や物理的な距離の確保、定期的な手洗いなどの健康を保つための手順に従って働いています。

 ダ・シウバさんにとっては収入だけでなく、この就労体験も大切です。「チームワークについて学びました。この仕事はまた、他の仕事に就く自信を与えてくれました。コロナ禍が治まったらオーストラリアでの果物摘みの季節労働に申し込むつもりです。兄弟の成功を目にすることができるよう、大学まで教育を支え続けたいと思っています」。

 R4D計画のアウグストゥス・アザレ主任技術顧問もこのイニシアチブがもたらした非常に現実的な利点を目にしています。「農山漁村道路の復旧と維持は、農山漁村共同体の生活の質を大きく高めます。地域社会と地元の資源を基盤とした手法の利用はまた、東チモールの請負業者やR4Dプロジェクトで働く住民が暮らす地元共同体の人々にも収入をもたらします」。オーストラリアの外務・貿易省の任意資金協力を受け、ILOが技術支援を提供するこのプロジェクトは、公共事業省を通じて国家道路・橋梁・治水総局が実施しています。


 以上はILOアジア太平洋総局による2020年11月2日付の東チモール発英文広報記事の抄訳です。