ILO統計局ブログ:世界統計デー

コロナ禍から得られた教訓:将来に向けたより良い性別データの構築

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は男女間を含む仕事の世界の不平等を露呈させただけでなく、この不平等の深さ、性質、推移についての理解を阻む性別データの不足をさらに強調することになったと、世界統計デーの2020年10月20日付のILO統計局職員による投稿記事は記しています。

キーラン・ウォルシュ上級統計官

 精神を集中させて、新たなあるいは既存の不平等に光を当て、行動を呼び起こすには、しばしば危機が必要ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行の場合にもそう言えます。ILOが最近発表した政策概説文書で記しているように、「新型コロナウイルス危機は労働市場に定着している男女不平等を露呈させ、育児や介護などの無償ケア労働における男女不平等をさらに広げることになりました」。

 この結論を支持する証拠は一見、容易に得られるように見えます。例えば、ILOの推計では、世界全体で「深刻な打撃を受けている産業部門で働いているのは、男性が男性就業者全体の36.6%であるのに対し、女性は約5億1,000万人で、これは女性就業者全体の40%」に相当し、「深刻な打撃を受けている産業部門の非公式(インフォーマル)就労者の割合で見た男女間格差はさらに大きく、危機開始時点で女性インフォーマル就労者の42%がこれらの産業部門で働いていたのに対し、男性インフォーマル就労者の割合は32%」であったとしています。他にも、国連女性機関(UN Women)が実施した一連の簡易評価調査は危機期間中に無償のケア労働や家事労働に従事する女性の割合が増加し、これは希望通りに労働市場に従事する女性の能力に影響を与えていることを示しています。

 このような声明や証拠に直面し、仕事の世界に対するコロナ禍の影響を理解するために必要なデータは豊富に存在すると考えたい誘惑に駆られますが、これは事実からは遠く、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団データ2Xに示されているように、実際にはコロナ禍の性別影響を十分に理解するために得られる国際比較可能なデータはほとんどなく、政策対応を形成するのに妥当なレベルの最新の理解に達するには大いなる苦労があります。男女不平等に光を当てるデータの場合は特にそう言えます。上述のように、新型コロナウイルスの影響によって不平等が悪化したのは疑いようのない事実ですが、その程度を包括的に推定することはまだできません。

 性別データの不足を説明する歴史的な理由は多々ありますが、このギャップを認識し、対処する方向に向けた動きは強くなってきています。一つの重要な進展は、2013年の第19回国際労働統計家会議における画期的な一連の基準の採択です。これは仕事に関する統計の新たな枠組みを形成するものであり、適用されたとしたら、仕事の世界の多くの側面についての集団的な理解を改善することが期待されます。

 コロナ禍から得られた教訓に関するILOの2冊の新刊書、統計方法論シリーズ第8号『Lessons from COVID-19 pandemic: Closing gender data gaps in the world of work - role of the 19th ICLS standards(新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行から得られた教訓:仕事の世界における性別データ不足の解消-第19回国際労働統計家会議の役割・英語)』と概説資料『Gender relevance of the 19th ICLS statistical standards(性差の観点から見た第19回国際労働統計家会議で採択された統計基準の関連性・英語)』は、とりわけ男女不平等の理解にこれがいかに重要になり得るかを示しています。

 仕事に関するデータにとって定義や決議は重要ですが、それがもたらす違いは目に見えて初めて真に評価することができます。ILOが実施した幅広いパイロット研究から得られたデータを用いた両書は、最新の決議と定義に従った場合に解放できる可能性がある分析潜在力の例を数多く示しています。

 見出し項目の点では、1982年の第13回国際労働統計家会議で採択された、以前の基準は全ての生産年齢人口を本質的に就業者、失業者、非労働力人口の3種に分類していました。これに対して、第19回会議で採択された決議は就業、失業の定義を再び取り上げたことに加え、解析全般、そしてとりわけ性別についてもっと詳しく、微妙な差違のある基盤を形成しています。

 新たな基準が触れている就労生活の数多くの側面の一例を示すものとして、下図は様々な種類の労働活動に対する男女の寄与度の不平等性を示しています。この調査に対する男性回答者は労働時間全体の6割以上を就業に費やしていたものの、無償のケア労働と家事労働の場合にはこの差が逆転し、女性回答者がその4分の3を負担していました。この比較的直接的でありながら強力な分析の際立っている点は、第13回会議の基準は測定用に就業しか定義していなかったため、無償労働は可視化されていなかったという点です。これを始めとして報告書に例示されている他の多くの分析は新しい基準が実行されて初めて可能になったものです。

図:就労活動別で見た労働時間全体に対する男女別寄与度
自家使用物品生産には農業、漁業、水汲み、薪拾いなどの活動が含まれます。自家使用サービス提供の例には、子どもその他の扶養家族の世話、料理や家事などが含まれます。
出典:ILOパイロット研究参加8カ国の平均

 近年の労働統計の土台となった第13回会議の価値を看過すべきではありませんが、新しい基準の幅広い適用は仕事の世界に関する私たちの理解を劇的に拡充する展望が開けます。男女平等を新型コロナウイルス後の経済回復の中心に据え、この目標に向けた歩みを監視することを真に望むならば、これこそが切に必要とされているものなのです。

 現実的に言って、新たな統計基準の採択は、重要なものであるとは言え、データの入手可能性改善に向けたほんの一歩に過ぎません。新たな一連の仕事に関する統計の主流を達成するには、数多くの機関や利害関係者からの幅広い支持が必要です。公式統計の生成者は支援と資料を必要とすることでしょう。ILOは幅広いツールや資料の公刊、能力構築、技術支援などを通じて、この支援を提供する自らの役割を担う用意があります。

 コロナ禍から得られたもう一つの教訓は、切に必要とされているデータを生成する私たちの能力は脆弱なものである可能性があり、当然のものと見なすべきではないということです。地域封鎖や移動制限は多くの国で対面式世帯調査のような伝統的な手法でのデータ収集能力に破壊的な影響を与えました。このことに留意した上で、世界がコロナ禍からのより良い立て直しに関心を移す中、第19回国際労働統計家会議で合意されたような国際基準、好事例、近代的な手法に基づき、将来的に有意義なデータを生成する、より強靱な仕組みを構築する方法も一考すべきだと思われます。

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 以上はILO統計局労働力調査方法論チームのキーラン・ウォルシュ上級統計官による2020年10月20日付の英文投稿記事の抄訳です。ILOの労働統計データベースILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。