ILOブログ:グリーン・ジョブ

より良い仕事の未来は緑の未来

 自然は、地球を守りつつ、雇用を創出し、経済を刺激する最善の機会の幾つかを提供することができると、最近発表されたILOと世界自然保護基金(WWF)の共同刊行物の共同編者らは説いています。

マイケル・リウ=キー=ソンILO雇用政策局技術専門官(左)及びバネッサ・ペレス=シレラWWFグローバル気候・エネルギー活動副リーダー

 自然は、地球を守りつつ、雇用を創出し、経済を刺激する最善の機会の幾つかを提供することができると、最近発表されたILOと世界自然保護基金(WWF)の共同刊行物の共同編者らは説いています。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行はこの世界の基盤となっている自然と人工基盤の両方のもろさに最も衝撃的かつ悲劇的な形で光を当てました。

 環境劣化と持続不能な農業活動による土地利用の変化によって野生生物の個体数は世界全体で1970年の平均3分の2に減少しましたが、これに関連して生まれている動物由来ヒト感染症の世界的な増加は破壊的な影響を及ぼしています。一方で、経済の崩壊とその結果として失われた数億人分の仕事と生計手段は、この社会の経済構造に内在する欠陥を露呈させました。

 世界中で都市封鎖がピークを迎えた時、通りから車が消え、都市全体や工場、企業が閉鎖され、温室効果ガスの排出量が一時的に減少したために、公害のない澄んだ空が目撃されました。しかし、この劇的な削減はパリ気候協定の目標値を達成するために毎年必要なものに相当するに過ぎません。

 これらの要素は全て、「人間と自然の壊れた関係を修復する必要性」という一つの決定的に重要なメッセージを一体となって発信しています。これは簡単な等式です。健全な地球なしに健全な経済はあり得ないのです。

 新型コロナウイルスの世界的大流行の中から私たちが学んだ貴重な教訓があるとすれば、その一つは一つの国、一つの地域への影響は私たち全てに影響を与えるという点です。人間と自然の関係も同様です。私たちが自然に対して行っていることは自分たち自身に対して行っていることと同じです。

 2020年10月12~18日に開かれている国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次会合には金融部門の意思決定に携わる人々が参集するわけですが、単なる経済の再開に留まらず、この壊れた関係を癒す助けになるような形でそれを行うために必要な緊急措置に議論の焦点を当てるべきです。

コンゴ民主共和国における環境劣化 © Axel Fassio / CIFOR

 コロナ禍によって生計手段を失う危険に瀕している労働者16億人が仕事を必要としていますが、これはどんな仕事でも良いわけではなく、公正な収入、職場における安全保障、本人と家族への社会的保護を提供するような生産的なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)でなくてはなりません。さらにまた、世界中で経済を活気づかせるこういった仕事が自然、そして私たちが依存している生ける地球を犠牲にすることがあってはなりません。世界の国内総生産(GDP)の半分以上に当たる44兆ドルが中・高度に自然に依存しており、世界全体では12億人分の仕事が生態系の提供するサービスに直接依存しています。

 回復に当たり、政府と民間セクターには選択肢が提示されています。例えば化石燃料を基盤とするような長期的な仕事の安全保障を欠く時代遅れの公害産業を支えるために何兆ドルも投資し続けるか、それとも、低炭素開発などの産業における環境に優しい新たな仕事の創出や労働者の再訓練、環境劣化傾向の逆転、生態系の機能回復に投資する機会を捉えるかのどちらかです。

 幸運なことに、環境に優しいグリーン産業には経済回復と雇用創出を刺激する最善の機会の幾つかが存在します。例えば、気候変動対策は2030年までに6,500万人分の低炭素の仕事を新たに創出する可能性があります。投資100万ドルごとに新たに創出される仕事は化石燃料事業では2.7人分であるのに対し、再生可能エネルギーの場合は7.5人分になります。生産エネルギー単位当たりの生み出される雇用が最大であるソーラーパネル発電は、農山漁村社会で簡単に建造できる便利なものでもあります。

 加えて、社会の主な課題に対処するよう生態系を利用する、自然を基盤とした解決策は食の安全保障や災害リスクの低減、都市再生に寄与しつつ、仕事を創出し、気候関連危機に取り組む助けになり得ます。ILOとWWFの共同刊行物『NATURE HIRES: How nature-based solutions can power a green jobs recovery(自然は人を採用する:自然を基盤とした解決策がグリーン・ジョブを通じた回復を作動させる方法・英語)』は、自然を基盤とした解決策が、より持続可能で雇用を豊かに生む回復を推進できる方法について国際的な証拠を集めています。

 例えば、21の国と国際機関が関与してアフリカで開発が進められている「緑の長城プロジェクト」は、1億ヘクタールの土地を回復し、サハラ砂漠の進行を食い止めようとするものですが、2,000万人に食の安全保障を提供し、35万人分の仕事を創出し、大気中から2億5,000万トンの炭素を除去することを目指しています。ドイツの19の都市を横断する都市森林・生態系回復プロジェクトであるエムシャー景観公園はこれまでに10万人分以上の仕事を創出しています。グリーン工事や生態系回復、そして森林や沿岸湿地帯などの持続可能な自然基盤構造への投資を通じて仕事を創出できることを示す事例は他にもたくさん存在します。

南アフリカの「水のために働く計画」 © Mito Tsukamoto

 自然の消失に取り組まないままでいると、さらなるサプライチェーン(供給網)の混乱につながり、世界中で食の安全保障と生計手段が脅かされ、世界経済は年に最低4,790億ドルの出費を余儀なくされます。これは2050年までに10兆ドルに達します。金融分野の意思決定者には無視できない数字でしょう。

 つい数週間前に自然との新たな関係を発信するものとして、世界の指導者70人以上が「自然のための誓約」に署名し、2030年までに生物の多様性消失の動きを逆転させることを公約しました。金融分野の意思決定者には、自然を評価し保護し回復し、人の健康と生活の糧を守る「自然と人々のための新たな政策」という、この地球規模の野心を達成できるための経済システムの変更を推進するために必要な資金源と規制枠組みを整備する機会が開かれています。

 私たちは労働者、そしてこの惑星の健康と私たちの長期的な未来を危険にさらすような産業部門や科学技術に投資し続ける未来に戻ってはいけません。この新たな「自然に肯定的な経済」は、自然消失の動きを逆転させ、失われたものの多くを回復しつつ、経済開発と雇用を提供すべきであり、それは可能なのです。

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 以上は、IMFと世界銀行の2020年年次会合の開催に合わせて上記共同新刊書の共同編者であるマイケル・リウ=キー=ソンILO雇用政策局技術専門官とバネッサ・ペレス=シレラWWFグローバル気候・エネルギー活動副リーダーが執筆した2020年10月12日付のILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への英文投稿記事の抄訳です。