新型コロナウイルス

脆弱なアラブ諸国で新型コロナウイルスの打撃を最も被っているのは弱い立場の労働者

記者発表 | 2020/10/13
ヨルダンとレバノンの調査結果を3分で紹介(英語・3分3秒)

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行以前からアラブ世界の多くは既に、近隣職国からの難民流入や若者の高失業率、女性の労働力率の低さ、貧困、非公式(インフォーマル)経済の大きさなどに関連して労働市場に以前から存在していた様々な課題に対処しなくてはなりませんでした。

 ILOアラブ総局がファフォ労働社会研究所、そして国連開発計画(UNDP)や対イラク・キャッシュ・コンソーシアム(CCI)、レバノンの生計セクター中核グループなどの開発・人道分野の一連のパートナーの協力を得て、ヨルダン、レバノン、イラクの3カ国について実施した調査研究の複数の成果物がこの度発表されました。これらの国別報告は、シリア難民、インフォーマルな就労形態の労働者、女性、若年労働者が危機の影響を不均衡に大きく受けている実態を明らかにしています。脆弱アラブ諸国における弱い立場の労働者と企業に対するコロナ禍の直接の影響についての簡易調査からは、シリア難民と受入社会の両方における仕事と収入の激減が示されています。危機に対処できる経済力が限られていることから、全ての労働者の生活・労働条件の悪化が引き起こされています。

 この調査は報告書の作成に関係している組織で実施されている事業計画に参加した労働者と企業の標本調査であるため、全国的な状況を代表しているわけではないものの、調査結果はコロナ禍がいかに基底にある課題を深刻化させ、脆弱な人々が生計を立て、収入源にアクセスすることを一層困難にしたかを示しています。

 ヨルダンの調査からは、新型コロナウイルスの発生前には働いていた労働者の約半分が危機突入後数週間で非就労状態になったことが示されています。大半は取り崩せる貯蓄が全くなく、限られた現金・現物支援しか受けられなかったと報告しています。

 不安定な政治情勢と顕著な難民危機に加えて、この数十年で最悪の経済・金融危機に取り組んでいた時にコロナ禍に見舞われたレバノンでも、自国民とシリア難民両方の生活・労働条件の悪化が見られます。中でも深刻な打撃を受けているのは低賃金や過酷な労働条件を甘受する傾向があったシリア難民です。

 140万人近い国内避難民を抱えるイラクでは、危機前から既に失業者が多かった女性や年少労働者にウイルスの流行は深刻な影響を与えています。一家の中心的な稼ぎ手である回答者の3分の1以上が完全に解雇された状況では、コロナ禍は解雇された当人だけでなく、経済的に扶養されている人々にも相当の影響を与えているとみられます。

 フランク・ハゲマンILOアラブ総局長代行は、他の地域の場合同様、新型コロナウイルスの流行はアラブ諸国にも追加的な経済課題を形成し、雇用を豊かに生む基幹部門が深刻な打撃を受けていることを報告した上で、「重い負担を抱える政府構造、勢いのない経済・労働市場、この危機に対処するのに必要な基本的基盤構造の欠如に鑑み、紛争被災国にはさらに深い影響」が目撃されていると指摘しています。さらに、難民が多く住む他の国も直面しているリスクが高まっているため、「たとえ政府の資金が縮小し続けるとしても、難民や地元の脆弱な住民集団への支援の増大」が求められると説いています。

 一連の簡易評価報告書は、以前から存在する労働市場の課題に対処する措置を含み、以下のような即時の行動と、より長期的な政策措置を提案しています。

  • 直接的な現金支援を通じた脆弱な労働者と苦闘中の企業の支援
  • 労働者の新たなニーズ、緊急ニーズに合わせて現行の事業計画の適応を図り、新型コロナウイルスの流行中及び事後における地域社会と公共資産の構築、そして保護措置の強化に焦点を当てること
  • 政府が後援するローン保証制度、賃金のデジタル払いへの移行、免税措置を通じて公式(フォーマル)企業のインフォーマル化・リスクの低減を図ること
  • ニーズを抱えるものが、得られるサービスや資金を利用できる機会の改善を図るため、行政手続きの簡素化を図ること

 以上はILOアラブ総局によるベイルート発英文記者発表の抄訳です。