ILO統計局ブログ:教育と雇用

教育は報われるが辛抱が必要

 コロナ禍は教育の再考、再編成を促しています。教育到達度が高い労働者は仕事が得られるようになれば、すぐに質の高い仕事が見つかると期待しているかもしれませんが、その期待は正しいでしょうか。

ロシーナ・ガンマラーノ経済専門官

 教育は持続可能な開発の決定的に重要な要素の一つであり、経済成長、労働生産性、人的資本の向上、社会的移動を可能にします。より高い教育は労働者が将来的により良い職に就けることを期待して技能を高めることを許します。

 しかしながら、高等教育は依然として少数派の特権に過ぎません。ILOの統計データベースILOSTATのデータからは、ほとんどの国で労働力の大半が高等学位を取得していないことが示されています。

 労働力の教育水準は国民所得と結び付いており、国が豊かになるほどに高等学位を取得した労働力の割合が上昇します。元気づけられることとして、労働力の教育水準は上がってきており、若い世代は前の世代よりも高い教育水準に達しています。

 高等教育に進むに当たり、労働者は労働市場に対する備えが改善し、それほど苦労せずに良質の仕事が見つかると期待するかもしれません。しかし、現実は必ずしもそうなっておらず、教育水準が高い労働者が時には長期にわたって失業する場合があります。

 実際、データが得られる低所得国の82%、下位中所得国の70%で、基礎教育レベルの労働者よりも高等教育水準の労働者の方が失業率が高くなっています。ただし、下位中所得国と高所得国ではこの割合はそれぞれ31%と16%になっています。つまり、とりわけ基礎教育水準の労働者との比較において、教育水準が高い労働者が失業する可能性は高所得国より低所得国で高くなる傾向があります。

 就業者と失業者に占める教育水準が高い人々の割合を比較することによってこの事実を確認することができます。高所得国ではわずか10%ですが、低所得国では驚くことに82%もの国で、教育水準が高い人々が失業者に占める割合が就業者に占める割合よりも高くなっています。同様に、低所得国ではわずか9%ですが、高所得国では衝撃的なことに84%もの国で、基礎教育水準以下の労働者が失業者に占める割合が就業者に占める割合よりも高くなっています。

所定の教育水準における就業者と失業者の割合
図:高等教育水準の人々に占める就業者と失業者の割合
英語記事の図では国名・数値を見ることができます
図:基礎教育水準以下の人々に占める就業者と失業者の割合
英語記事の図では国名・数値を見ることができます

 つまり、低所得国では適切な仕事を見つけるのに最も苦労するのは教育水準が高い労働者であるのに対し、高所得国では基礎教育水準以下の労働者の方がそのような状態にあります。これは高技能職と低技能職のどちらがより豊富かといったような労働市場構造や雇用機会の国による違いに関連している可能性があります。低所得国では高技能職が乏しく、得られる仕事に求められている技能と求職者の技能のミスマッチが発生している可能性があります。逆に高所得国の労働市場では低技能職が少なく、基礎教育水準の求職者の職探しがより困難になっているかもしれません。

 にもかかわらず、これによって失業給付受給の有無、利用できる職探しの基盤構造の種類、採用の申し出を受諾する基準など、失業者の状況を巡る情報が得られるわけではありません。さらに、教育水準が高い人々の失業率が高いことは必ずしもこれらの人々の経済状況が悪いことを意味するわけでもありません。基礎教育水準以下の労働者よりも長く失業していられる余裕があるのかもしれません。失業率から何が分かり何が分からないかについて、詳しくは簡易ガイドをご覧ください。

 雇用の質は雇用機会と同じくらい重要です。教育水準が高い労働者は公式(フォーマル)の雇用者になる可能性がずっと高く、労働時間や収入も十分である可能性が高くなっています。

 就業者は従業上の地位によって雇用者と自営業者に分類されます。自営業者には使用者、個人事業主、寄与的家族従業者が含まれます。一般に雇用者の方が労働条件は良いため、就業人口全体に占める雇用者の割合から就業者の労働条件が判断でき、雇用の質の代用指標となります。

 労働者の教育水準が雇用者となる可能性に与える影響は明白であり、データが得られるほとんどの国(87%)で、教育水準が高い人々の中で雇用者が占める割合は基礎教育水準以下の人々の中で雇用者が占める割合を上回っています。実際、教育水準が高い労働者は雇用者になる傾向が非常に高く、データが得られる国の中では2カ国(ソロモン諸島とトーゴ)を除き、教育水準が高い労働者の中で雇用者が占める割合は6割を超えています。

図:教育水準別雇用者割合
英語記事の図では国名・数値を見ることができます

 ここで最も衝撃的なのは、教育水準が高い人々と基礎教育水準以下の人々の中でそれぞれに雇用者が占める割合の違いです。一般に高所得国では雇用者になるのが普通であるため、これらの国ではほとんどの労働者について雇用者の割合が高く、したがって、高所得国では教育水準による雇用者割合の違いが小さいのに対し(図で高所得国は二等分線の周辺と右上の象限に集中しています)、低所得国では雇用者はそれほど一般的ではなく、基礎教育水準以下の労働者はめったに雇用者の職を確保できません。しかしながら、低所得国でも教育水準が高い労働者は高所得国同様、雇用者となる可能性が高いため、言い換えると、低所得国では教育水準が高い人々は労働条件の点でずっと優位に立っています(図で低所得国は右下の象限に固まっています)。

 仕事の質を判断するもう一つの重要な側面はその仕事が公式のものか非公式(インフォーマル)のものかといった違いです。インフォーマルな仕事は各国の労働法規の枠外にあるため、労働者の脆弱性リスクは高まります。データからは労働力の教育水準とフォーマルな仕事の機会を得られる確率の間には強い相関関係があることが見出されています。国民所得水準にかかわらず、データが得られる全ての国で教育水準が高い労働者がインフォーマル経済で働く割合は基礎教育水準以下の労働者をずっと下回っています。つまり、裕福な国でも貧しい国でも教育は労働者がフォーマルな仕事を得る機会を促進することを示すように見えます。

 さらに、全体としてインフォーマルな仕事は低所得国の方で多く見られるため、ここでも教育水準が高い労働者は労働条件の点でより低い教育水準の労働者よりも優位に立っています。

 次に、労働時間や収入といったより具体的な労働条件ですが、十分な労働時間の確保が困難な場合、労働者とその家族は厳しい状況に置かれる可能性があります。後期中等教育を修了していない労働者はよりしばしばこのような事態に陥ることが世界中のデータから示されています。

 一般的に言って、国の所得水準にかかわらず、労働者の教育到達度が高くなるにつれて平均所定週労働時間は長くなります。データが得られる国の大半(70%)で平均所定週労働時間が最も長いのは高等あるいは中等教育水準の労働者となっています。これに対して、データが得られる国の68%で、基礎教育水準以下の労働者の所定週労働時間は最も短くなっています。

図:教育水準別平均所定週労働時間
英語記事の図では国名・数値を見ることができます

 教育水準の高い労働者と基礎教育水準の労働者の収入比率は、この二つの集団の収入を比較した場合の状況を明確に示しています。この数値は79カ国について得られますが、3カ国(ガーナ、リベリア、スーダン)を除く全ての国で教育水準が高い労働者の平均収入は基礎教育水準の労働者を上回っています。自営業者についても46カ国についてこの数値が得られますが、同じく3カ国(コモロ、イタリア、サモア)を除く全ての国で教育水準が高い自営業者の平均収入は基礎教育水準の自営業者を上回っています。

 結論として、低所得国では高技能職が乏しいため、教育水準が高い労働者は適切な仕事を見つけるのにより苦労する可能性がありますが、見つけた仕事は質の高いものになる可能性があります。教育水準が低い労働者のより低い失業率は確実に雇用の質の点で相殺されており、教育水準が高い労働者の方が収入が高く、労働時間は長く、フォーマルな雇用者となる可能性が高くなっています。

 逆に高所得国では後期中等教育の学位もない労働者は失業と仕事の質の両方で状況はより悪く、教育水準が高い労働者よりも失業する可能性は高く、就職してもフォーマルな雇用者となる可能性は低くなっています。

 にもかかわらず、相関関係が必ずしも因果関係を意味するわけではないことに光を当てる必要があります。一般的に言って、労働者の教育水準が高くなるにつれて労働条件は向上しますが、これは必ずしも教育水準が高い労働者の教育水準の高さだけが労働条件の向上に結び付くことを意味するわけではありません。他の要素が働いている可能性があり、労働者の教育水準と雇用の質の両方を推進する共通の要素があるかもしれません。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な大流行は教育部門に即座に多大な影響を与えました。世界中で意思決定者がウイルスの拡大を抑える行動を取ることを強い、現場での公式教育、非公式教育の再考及び再編成を促しました。ほとんどの国であらゆるレベルの教育がバーチャルな授業とオンライン学習に移行するよう求められ、前代未聞の規模で遠隔授業が実施されています。

 コロナ禍とその対策措置が教員や学生・生徒、教育の質に与えている影響の全体像を評価するのは多分まだ時期尚早に過ぎますが、将来的な改善に向けてこの異常な時期に学んだ教訓を注意深く検討すべきことは明白です。

 本記事で用いた教育到達度分類は2011年版の国際標準教育分類に基づいています。

本文中での使用 2011年版国際標準教育分類
言及なし 9)分類不能
基礎以下 X)無学歴&0)就学前教育
基礎 1)初等教育&2)前期中等教育
中等 3)後期中等教育&4)中等以降高等以前教育
高い教育水準 5)短期高等教育、6)学士、7)修士、8)博士

* * *

 高等教育が労働市場における好待遇につながるか否かを分析した概況資料を最近まとめたILO統計局データ生成・分析班のロシーナ・ガンマラーノ経済専門官は、2020年8月24日付の英文投稿記事で以上のような分析結果を紹介しています。ミクロデータ処理について詳しくはこちらへ。ILOの労働統計データベースILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。