ILOブログ:児童労働

第182号条約:さあ、本腰を入れて仕事に取りかかろう

 2020年8月4日にILO全加盟国による「1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号)」の批准が達成されました。児童労働撲滅に向けた活動に長く携わってきたフランチェスコ・ドビディオILO就労基本原則・権利部長代行は、自らの活動、出会った印象的な人々を懐かしく振り返りました。

フランチェスコ・ドビディオILO就労基本原則・権利部長代行

 2020年8月4日にILO全加盟国による「1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号)」の批准が達成されました。これを受けて、児童労働撲滅に向けた活動に長く携わってきたフランチェスコ・ドビディオILO就労基本原則・権利部長代行が自らの活動を振り返りました。

 「ねぇ、フランチェスコ。あれは本当に私の手なの?」

 オスロの会議場ロビーの中央からぶら下げられた長さ5メートルのポスターを見上げてジブーは私に確認を求めました。ポスターにはちっぽけな美しい一組の手の巨大な写真が使われていました。それはジブーの手だと聞いていました。

 当時、ジブーは15歳で、ダカールで働いていた家事労働者の仕事を失ったばかりでした。彼女の女主人はジブーがヨーロッパまでわざわざ出かけて会議に出席しなくてはいけないという事実を受け入れがたかったのです。女主人はジブーにからかわれていると思ったのですが、ジブーがこれほど真剣だったことはありませんでした。きつい仕事に加えて、ジブーは「働く子どもと若者アフリカ運動」セネガル支部のカリスマ的なリーダーであり、その立場によって、「児童労働に反対するグローバル・マーチ」その他の有名な団体の代表らと共に1997年にオスロで開かれた児童労働国際会議にノルウェー政府から招待されたのです。

 そのような招待を受けたのはそれが初めてではありませんでした。ジブーは既にリマやニューヨーク、アムステルダムその他ダカールから遠く離れた地に赴いたことがありました。理由は全て同じであり、国連やILO、政治家に児童労働の実態を辛抱強く説明するためでした。「だって新しい条約をまとめるならば正しいのがいいじゃない?」と彼女は言うのでした。

 1997年のあの日、オスロで一緒にいたように、1998年も私は最悪の形態の児童労働条約(第182号)に関する第一次討議が行われたジュネーブのILO総会でジブーを始めとした子どもたちに同行していました。数年前にイタリアで法学部を卒業した私は、同世代の多くの仲間の例に漏れず、ジョバンニ・ファルコーネ氏とパオロ・ボルセリーノ氏の両判事がマフィアに殺害されてから判事になることを希望していました。

 しかし、物事はそうは進まず、私はセネガルの首都ダカールで国際非政府組織(INGO)のENDAでインターンをすることになりました。仕事の中には「働く子どもと若者アフリカ運動」を支援し、そのリーダーに随行して児童労働に関する国際的な議論の場に出席することが含まれていました。

ジブー(右端女性)と筆者。オスロ会議の準備のためにペルーの首都リマで開かれた会議で他の子どもたちと共に

 私が1997年にオスロに行ったのは偶然でした。上司が具合が悪くなり、ノルウェーまで行けなくなったからです。今度は再び偶然に、上司が空席の就労基本原則・権利部ILOの全加盟国による第182号条約批准を部長代行として祝っているのです。これは今までに起こったことのない大きな出来事です。

 ジブーに会って、「ほら、この条約、ついに正しいものができたよ。今や全ての国が批准国になったよ」と言いたいです。でも彼女の答えはきっとこうでしょう。「それはいいけどフランチェスコ、まだ沢山やることがあるわよ」。

 その通りですよ、ジブー。まだ沢山やることがあり、押し続けるのは時に非常に辛い仕事です。

 砕石や漁獲、鉱山での採掘、工場での溶接といった作業の手を一瞬休め、私に話してくれた何百人もの子どもたちの優れた洞察力を懐かしく思うのと同様、ジブーをとても懐かしく思います。誰もが学校に行って遊びたがっているのは確実でしたが、何よりも親の尊厳と地域社会の平和を望んでいたのです。それが与えられないならば、そう、子どもたちは働き続けるでしょう。批准があろうとなかろうと。

 誤解しないでもらいたいのですが、全加盟国による国際労働基準の批准を達成するのは大変なことであり、誰もがそれは誇りに思うべきです。でも正直に言うと、これで問題が解決したことには、戦いに勝ったことにはならないのです。そうなるためには世界中で条約を実施する必要があります。

 ですから、さあ、腕まくりをして本腰を入れて取り組もうではありませんか。この長く、胸の躍るような旅が真に意味をもつことができるように。

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 以上は、フランチェスコ・ドビディオILO就労基本原則・権利部長代行による、ILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への世界人道デーの2020年8月19日付の英文投稿記事の抄訳です。