ILOブログ:暴力・ハラスメント

「より良い日常」は職場における暴力とハラスメントに対する取り組みを意味しなくてはならない

 新型コロナウイルス危機の中で仕事に関連した暴力やハラスメントが増えているように見えます。ILOの新刊書はこの発現や原因に取り組む方法を検討しています。「より良い日常」を構築しようと思うならばこの取り組みは必須になることでしょう。

マナル・アッジ労働安全衛生上級専門官

 2019年のILO総会で画期的な「暴力及びハラスメント条約(第190号)」と付随する同名の勧告(第206号)を採択することによって187のILO加盟国はこの災いをなくす世界的な公約を示しました。しかし、このような包括的な公約には草の根の活動による支えが必要であり、ハラスメントを永続させるあるいは許すような仕組み、文化、個人は、指弾して是正し続ける必要があります。

 暴力とハラスメントは、国境、社会的・経済的状況、職業分野、就労取り決めを越えて仕事の世界にはびこる有害な問題です。同僚同士の場合も部下と上司の間、労働者と顧客や一般の人々の間など、様々に発生する可能性があり、関係者全ての安全と健康を脅かします。

 暴力とハラスメントは身体的なものや性的なものだけに留まらず、変化する多様な形態を取り得ます。とりわけ、精神的ないじめは最も巧妙な形での陰険な攻撃となり得、精神を損傷させて時には自殺にまで追い込みます。

 労働者の厚生に対する負の影響は企業にも影響を与え、恐れや傷病に関連した退職者の増加や欠勤に寄与します。こういった変化は企業にとっても相当のコストを意味し、生産性や業績が損なわれる場合もあります。

 現在進行中の公衆衛生危機の中で暴力とハラスメントが増えているようにみられます。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行の下で人々に課されている前代未聞の規模の制限はストレスレベルの上昇を引き起こし、時に必要不可欠業務に従事する人々や保健医療従事者その他ウイルスと最前線で戦っている人々に向けられる暴力とハラスメントを引き起こしています。

 武漢市の混み合った病院で医師が脅かされ殴打された事件、品切れの雑貨店で必要不可欠業務に従事する労働者が暴力やハラスメントを受けている事件、より最近では店内でのマスク着用指針に従うよう求めた警備員が殺害された米国の事件などが報告されています。

 労働に関連した暴力とハラスメントの発現とその原因を認識し、これに対処することが今ほど重要な時はありません。ILOはそこで、そのための新刊書『Safe and healthy working environments free from violence and harassment(暴力とハラスメントから自由な安全で健康的な労働環境・英語)』を発表しました。本書は、仕事の世界における暴力とハラスメントの規模を分析し、労働安全衛生マネジメントシステムや訓練の改善など、職場における心理社会的リスクへの対処や予防のための労働安全衛生分野の既存の枠組み、取り組み、活動分野を検討しています。

 新型コロナウイルス後により良い日常が構築されることは皆の望みですが、この要素の中に暴力とハラスメントのない職場を含めようではありませんか。

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 以上はマナル・アッジ労働安全衛生上級専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年7月27日付の英文投稿記事の抄訳です。