ILOブログ:先住民と新型コロナウイルス

先住民を包摂した新型コロナウイルス対応を

 新型コロナウイルスの大流行はネパールで既に疎外されてきた人々に大きな影響を与えています。

プラチマ・グルン先住民障害者グローバル・ネットワーク(IPWDGN)事務局長

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は先住民、とりわけ障害を有する先住民に大きな影響を与えていますと、先住民障害者グローバル・ネットワーク(IPWDGN)の事務局長を務めるプラチマ・グルン・ネパール全国先住民女性障害者協会(NIDWAN)会長は記しています。

 ネパールでは総人口3,000万人の約3分の1を先住民が占め、その数は1,100万人近くになります。同国では2020年3月から始まった全国的な国土封鎖がその後6回ほど延長され、感染者数が増え続けているため、7月22日までこの措置が延長されることが決まっています。

 新型コロナウイルス危機の影響は先住民に特に厳しく、検疫や自己隔離、手指の消毒剤、社会的距離の確保といった新たな言葉を用い、新たな語彙を学ぶ必要が生じました。これまでの暮らしには適用されてこなかった新たなルールを尊重する必要もあります。先住民の文化は母なる大地と非常に近しく、ほとんどの場合、水道水もないため、常に手を洗う習慣がありませんでした。

 障害のある先住民の場合、状況は一層難しく、支援を必要とする場合には社会的距離を確保できず、グルン会長自身、片腕しかないために独りで何とかすることはできても保健勧告に字義通りに従うことはできず、それは非常な苦痛を引き起こし、コロナ禍によって自らの障害をかつてないほどに自覚することになったと告白しています。

 障害のある先住民は、日々このような状況に直面しており、例えば、カテーテルを必要とする脊髄損傷患者や血漿が必要な血友病患者など、ほとんどが必須の医薬備品を入手できていません。

 障害のある先住民女性はこれまでも差別や暴力、虐待を受けてきましたが、コロナ禍の中で自殺率も上がっています。

 新型コロナウイルス対応に際しては、先住民の文化に配慮する形でその特別のニーズに対処する必要があるものの、ウイルスに関連した保健・広報キャンペーンはまだ先住民文化に優しくないため、当局が国土封鎖を宣言した時、この情報は先住民の言葉や現地語、手話では届けられませんでした。政府は一部の住民に救援品を配布していますが、助けを得るためには市民権や障害者カードを持っているか、名前が登録されている必要があり、ほとんどの先住民にそういった品を受け取るために必要な書類がありません。先住民や障害者のような疎外されている脆弱な集団にはそのような書類がないことが多いため、サービスから排除され、餓死しそうになっています。

 しかし、ネパールで実際に何が起こっているか、その全体像は把握できていません。状況を改善するには、まず最初に現場の状況を正しく評価する必要があります。先住民、とりわけ障害のある先住民は特別のニーズを抱えています。一律の手法では役に立たないため、性、年齢、民族、障害、健康状態、収入、地理別のデータなしに正しく対処することはできません。

広報動画:より良い日常の立て直しを手助けできる先住民(英語・1分8秒)

 あらゆる困難にもかかわらず、先住民は課題に立ち向かっています。NIDWANなど、幾つかの団体が新型コロナウイルスに関する情報を広め、一部の共同体に食料や衛生備品を配っています。NIDWANはまた、先住民テレビチャンネルが手話と先住民の言語の両方で情報を提供するのを支援してもいます。

 保健制度の強化、雇用回復の確保、社会的保護の適用拡大といった、政府が導入した措置が先住民を置き去りにしないことが望まれます。コロナ禍の影響を知っているのは当事者だけであるため、こういった問題に対処するあらゆる議論に当事者を参画させる必要もあります。したがって、ILOの先住民及び種族民条約(第169号)の実施がかつてないほど重要になっています。

 グルン会長はこのように説いた上で、首都カトマンズに封じ込められ、移動できない自分と自分の組織にとって、この状況は真の挑戦であり、望むほどに助けを提供できない歯がゆさを訴えています。そして、現場で実際に何が起こっているか判明した時にはネパールを打ちのめした2015年の大地震後よりも悪い状況に直面するのではないかとの不安を口にしています。

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 以上はプラチマ・グルンIPWDGN事務局長(NIDWAN会長)によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年7月20日付の英文投稿記事の抄訳です。

 ILOは先住民・種族民に焦点を当てた仕事の世界における新型コロナウイルス対応に関する政策概説文書を作成しています。