ILOブログ:イラクのILO

新型コロナウイルスによる都市封鎖下のバグダッドにおける私の最初の100日間

 新型コロナウイルスが流行する中での初代ILO駐イラク調整官としてのバグダッドへの新たな赴任は、新たな働き方の工夫、偏見の克服、治安対策など、大きな課題を伴いましたが、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と社会正義の促進における歩みを止める障害にはなりませんでした。

マハ・カッターILO駐イラク調整官

 2019年末にイラクの政労使は同国でディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を目指す同国初のディーセント・ワーク国別計画をまとめました。この実施を担当するために2020年3月に首都バグダッドに開設されたILOプログラム調整事務所で文字通り孤軍奮闘するマハ・カッターILO駐イラク調整官は、2020年7月15日付のILOブログ投稿記事で赴任最初の100日間を次のように振り返っています。

 バグダッド着任後初の会合で物事がそう簡単にはいかないだろう事が分かりました。私が会った国連の高官はごくかすかな微笑みを浮かべて挨拶した後、私が頭に巻いていたヘッドスカーフを見てこう言いました。「その外見ではイラクでずいぶん沢山課題に直面されるのではないかしら。現地職員のように見えますから、公式会議の際にアシスタント用の別室に案内されるのではないかと心配ですわ」。

 高官はご存じなかったのですが、私のこれまでの経験は全く逆でした。現地の人のような外見は、場に溶け込んで人々の懸念や願望をより良く知る助けになりました。自らの出身や外見、国籍のみを理由として私が戦ってきた多くの戦いは、ただひたすらに個人的なそして職業上の力と強靱性を増す方向に作用しました。

 そこで私はにこやかに微笑み返し、自信をもってこう答えました。「私にとってこれは強みであって、弱点ではありませんわ」。

 先日、ILO初の駐イラク調整官としての着任期間が100日を超えました。私にはILOの強靱性・危機対応専門官の肩書きもあります。私の最新の戦いであるこの仕事は、私自身を含めて数十万人のシリア難民を受け入れるこの国で、脆弱な地域社会、国内避難民、シリア難民のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進する数百万ドル規模の一連の事業計画を率いていくことを要請しています。

バグダッドの国連事務所

 私は強化安全地帯内の国連構内で暮らし働いています。安全地帯内に追撃砲弾が着弾する際に発せられるサイレンの大きな音で定期的に目を覚まさせられますが、これにはいまだに慣れることができません。敷地の外に踏み出したのはこれまでに2回だけで労働・社会大臣と会うためでした。新型コロナウイルス(COVID-19)危機に加えて現在の保安状態は、仕事を全て遠隔で処理しなくてはならないことを意味します。

 私はイラク初のディーセント・ワーク国別計画が調印されてからわずか数カ月後に任命されました。イラクは雇用創出、ディーセント・ワーク、包摂的な労働市場を促進できる大きな潜在力を秘めた国であるため、とても興奮しました。何年にも及ぶ紛争、不穏状態、人々の避難を経て、今は人道的な活動から開発活動への移行を支える事業計画が緊急に求められており、これはILOが域内のほかの場所で優れた経験を積んでいるものです。

 でも私が見出した状況は期待とは大きく離れ、課題は予想よりもずっと大きくなるだろうことに気付きました。

 「事務所」を最初に訪れた時は、数十人の他の国連職員と共有するオープンスペースに机と椅子しかないのを見てビックリしました。着任初日は欲求不満と混乱の中で終わりました。敷地外の移動が制限され、物流的な支援がなく、この新しい世界に放り込まれた成功のための資格を欠いているように見える女の一挙手一投足が注目されている環境でどう仕事をすればいいのかと悩みました。

バグダッドの国連事務所

 イラク赴任2日目の朝、私は朝早く目を覚まし、自分に与えられた選択肢の検討を始めました。諦めて去るか、適応し成功を図る手立てを見つけるかのどちらかです。3本立てのアプローチを取ることに決めました。

  1. 自分自身とILOの任務にとって好ましい代替環境の形成
  2. バーチャル通信手段の最大限の活用
  3. この課題を成功の機会に化すこと

 新型コロナウイルスの発生はもはや事務所区画に行けないことを意味しました。自宅の小さな居間に机を据え、後ろの壁にイラクの地図を掛けました。この小さく粗末な舞台装置上で、この混迷、不確実、蟄居の期間を成功物語に変える方法を考え始めました。

 そして、この普通でない取り決めの下で、多くのことが達成されました。レバノン、ヨルダン、イラクの労働者と企業に対するコロナ禍の影響に関する4件の評価を実施し、シリア難民に対する影響に関する1冊の報告をまとめ、ヨルダン、レバノン、イエメン(イラクに加え)でディーセント・ワークと雇用を促進する4,000万ドル相当のプロジェクトの設計・準備を行い、多くのセミナーに遠隔で参加し、テレビのインタビューを受けてILOの活動と地域の労働市場に対する新型コロナウイルスの影響に光を当てることができました。さらに、ヨルダンの労働省と2件の覚書を締結し、ヨルダン及びイラクの国内機関や他の政府と6件以上の合意文書をまとめることができました。

 着任初日、そして私を疑問視した国連高官との出会いを振り返り、高官が間違っていたと誇らしく立証することができます。100日前には不可能に見えたことを達成できたのです。イラクにおけるILOの任務は今や現実となり、ディーセント・ワークと社会正義の促進というILOに付託された使命に鑑み、当地の最も脆弱な人々の手助けという正しい道を歩んでいると感じられるのです。

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 以上はマハ・カッターILO駐イラク調整官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年7月15日付の英文投稿記事の抄訳です。