海上労働

船員の新型コロナウイルス危機に関する緊急の行動をILO理事会が呼びかけ

記者発表 | 2020/12/08

 2020年12月1日に国連総会で「グローバル・サプライチェーン(世界的供給網)を支えるために新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行の結果として船員が直面している課題に対処するための国際協力」に関する補足的決議が採択されましたが、その数日後の12月8日にILO理事会でも例外的な行動として、新型コロナウイルスの世界的大流行によって海上に閉じ込められている船員の悲惨な状況に対処するための決議が採択されました。

 この「海上労働と新型コロナウイルスの世界的大流行に関する決議」は、危機に対処するために複数の政府、主要な船舶所有者団体及び船員団体が取った行動、これまでに行われた相当規模の社会対話を認めた上で、国連諸機関を通じた数々の行動や嘆願にもかかわらず、数十万人の船員が通常の海上勤務期間をはるかに越え、ある者は乗船期間が既に17カ月以上にも達しながらも働き続けている事実に言及し、緊急に取るべき行動を定めています。

 船員の疲労が船員個々人の心身の健康のみならず、航行の安全、海洋環境の保護、保安に提示する多大なリスクに言及する決議はまた、送還される権利や陸上で医療を受ける権利などを含む「2006年の海上の労働に関する条約」に規定されている船員の諸権利にも注意を喚起しています。条約批准国は船上における最長勤務期間を定めることになっていますが、これは12カ月未満とする必要があります。

 決議はまた、漁業部門も同じような課題に直面していることに言及し、「2007年の漁業労働条約(第188号)」にも漁業者の送還や医療に関する規定が含まれていることに注意を喚起しています。

 決議はILO加盟国に対し、以下のような事項を求めています。

  • 現在存在する国際海事機関(IMO)の「乗組員交代のための諸手続の推奨される枠組み(今後の何らかの改定を含む)」を考慮に入れた上で、乗組員の交代を妨げる障害を特定し、安全な乗組員の交代と船員の旅行を確保する測定可能な時限計画を定め実施すること
  • 船舶の積み込み・積み降ろしのための安全で妨げられない移動を円滑化する目的、及び上陸許可の目的のために船員を基幹労働者に指定すること
  • 船員が持参する国際的に認められている書類の受諾を検討すること
  • 即時の医療を必要とする船員が国籍を問わずに陸上の医療施設に受け入れられ、緊急治療、そして必要な場合には緊急送還を受けられることの確保
  • 査証その他の書類要件の免除、適用除外、その他の変更などの一時的な措置の検討

 海上の労働に関する条約の批准国は関連する省庁機関と調整を図り、他の批准国と協力し、社会的パートナーである労使団体と協議の上、コロナ禍の間、条約を完全に実施する措置を採用するよう求められています。企業は「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、新型コロナウイルスの世界的大流行がもたらしている船員の人権に対する実際の及び潜在的な影響を特定し、防止し、緩和し、対処法を説明するデュー・ディリジェンス(相当なる注意)を遂行するよう求められています。また、決議を受けて国連諸機関や社会的パートナーが調整を図って取った行動についての報告をILO事務局に求めています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、ウイルス抑制努力の結果として船員が直面している問題が許容できないほど長引いていることを指摘し、「この基幹労働者は私たちに必要な食料、医薬品、商品の輸送を続けていますが、その長期化している海上滞在期間、そして陸上の船員がこれらの人々を解放できない状況は一言で言って支持できません」と訴えています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。