論説:使用者団体

新型コロナウイルス危機の中でのILOの使用者支援:ILO使用者活動局長に聞く

 新型コロナウイルス(COVID-19)危機は、生き残り、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を提供し続けるという使用者や民間企業の願いにかつてないほどのプレッシャーをかけています。使用者・企業団体がサービスやツールを通じて会員企業を手助けし、企業の意見が意思決定者に代表されるよう確保するためにどのような活動を展開しているかをデボラ・フランス=マッサンILO使用者活動局長が説明します。

デボラ・フランス=マッサンILO使用者活動局長

 新型コロナウイルス(COVID-19)が拡大する中、ILOの構成員の一角をなす使用者・企業団体は真のリーダーシップを発揮しており、医療保健面での緊急事態に鑑み、医療保健サービス提供者と提携し、職場における安全と衛生やテレワークその他の職場関連事項について会員企業に直接的なサービスや手引きを提供したりなどしています。加えて、ウイルスの世界的大流行が企業の健全性や持続可能性に与える影響の評価も進めています。事業が継続しない限り、雇用は存在しないという知識を政府に植え付け、経済の維持・回復措置が効果的になるよう政策提案を行っています。

 医療保健面での緊急事態への対処に加え、使用者・企業団体が目下発している重要なメッセージは、大量破産、事業崩壊、失業を予防し、最も脆弱な層の面倒を見るために中小企業を中心とした企業に流動性を提供することが重要であるという点です。景気後退と失業増が予測される中、これは短期だけでなく、中・長期的にも重要です。今、民間セクターを経済的に強靱にすることによって、より迅速かつより持続可能な景気回復を確保できるでしょう。

 企業が何事もなかったかのように自動的に事業を再開できる状況になると考えるのは危険です。人間らしく働きがいのある生産的な雇用に結び付く強靱性と成長を民間セクターに確保する環境の形成とその円滑化のためには政府の正しい種類の支援が必要です。雇用と消費の回復、そして経済を推進する投資と革新の中心は民間セクターが占めることになるでしょう。政府の政策の強さ、その方向の明確性、着実な進行に対する企業の信頼が決定的に重要になります。何十年も何も起こらなかったのに、数週間で数十年分の出来事が起こる時があると言った人がありますが、今は正にそのように感じられます。数年ではなく数時間のスパンで劇的な政策の選択が行われる中、使用者・企業団体は強靱性を立て直し、変化を支援する過程において、真のリーダーシップと効果的な広報提言を示す必要があるでしょう。

 実体経済の意見を動員し、数時間または数日で解決策や提案をまとめられる代表団体の能力を過小評価すべきではありません。このような事例は数多く見られますが、この危機においてこれは決定的に重要な手段の一つです。社会的パートナーである労使の努力はウイルスの突如の発生とそのどん欲さによって揺り動かされているこの社会に社会的なバラストを提供してきました。しかしながら、この社会的パートナーの役割を制限するために緊急事態が用いられ、協議過程が縮小されたり、放棄されているケースがあるとの情報も加盟国の使用者団体から届いています。民主的な前進のためには、企業を代表する団体や独立した労働組合のような機構が、権力に対して真実を語ることができる対抗勢力として決定的に重要です。今日のような新型コロナウイルスによってたきつけられたカオスの中においてはそれが必要です。

 現在の状況が始まった折りに加盟国の使用者団体が求めていたものは明確でした。会員企業と共に展開できる実践的なツールや手引きが必要とされていました。そこで、複数の使用者団体の支援を受けつつ、ILO使用者活動局新型コロナウイルスに関連した職場問題に対処する方法事業継続性に関するツール企業調査ツール、そして最近では職場復帰ツールといった使用者・企業団体が会員企業と共に利用できる一連のツールを作り上げました。非常に肯定的なフィードバックを受けたことは私たちが進んでいる道が正しいことを示しています。しかしながら、これを越えたところでは、非常に現実的な課題が存在し、加盟国の使用者団体が不確実な時代に直面していることを認める必要があります。使用者・企業団体の会費は企業、とりわけ生き残るのに必死な企業にとって必要不可欠な経費ではありません。使用者・企業団体の指導者からは、短・中・長期的な会員維持について懸念する声が大いに聞かれます。逆説的なことですが、民間セクターの声を集めた強い代弁者がかつてないほど必要とされているのにです。そこで、ILO使用者活動局としては、ご提供できるものを変え、強靱性とリーダーシップのための戦略の点で時代の要請に即したものにする必要があります。

 この点で、国際使用者連盟(IOE)と連携し、ILO加盟国の全使用者団体を対象に、目前のそして予測される課題についての地球規模の全体像を得ることを目的とする調査を開始しました。これらの団体が会員企業の声に耳を傾ける必要があるのと同様、ILOは使用者団体の現実を理解し、最終的により良いサービスを提供できるようその声に耳を傾ける必要があるのです。


 以上は、現下の危機に照らし合わせてILOと使用者団体の関わりを説明するデボラ・フランス=マッサンILO使用者活動局長による2020年5月20日付の英文論説の抄訳です。