新刊:就労に関わる基本的な権利と原則

新型コロナウイルスからのより良い立て直しを手助けし得る就労に関わる基本的な権利

記者発表 | 2020/10/28
報告書の中心的なメッセージを動画で紹介(英語・1分20秒)
 既に脆弱な状態にある数百万人の人々に新型コロナウイルス(COVID-19)危機は破壊的な結果をもたらしました。これは強制労働、児童労働、差別の増大、多くの職場における結社の自由及び団体交渉の否定につながっています。最も脆弱な人々を守り、コロナ禍後により強靱で公平かつ生産的な社会を構築するにはこういった就労に関わる基本的な権利の維持・強化が決定的に重要です。労働者の所得保障の拡大は強制労働の危険を減らす助けになります。子どもの教育の保護は最も脆弱な者が児童労働に陥るのを予防します。危機対応における包摂性の確保は就業における差別を緩和する助けになります。結社の自由と団体交渉を通じて労働者に発言力を与えることは、危機に対する、交渉を通じたより良い政策解決策につながります。「誰も置き去りにしない」ということは最も脆弱な人々を新型コロナウイルス対応の中心に据え、就労に関わる基本的な権利と原則を守ることを意味します。

 新型コロナウイルス(COVID-19)以前の2016年に、児童労働者は世界全体で1億5,200万人に上り、子どもを含む2,500万人近くが債務奴隷や人身取引、その他の形態の強制労働に従事していたと見られます。世界人口の4割以上が結社の自由と団体交渉に関するILOの第87号条約第98号条約も批准していない国で暮らし、批准していても多くの国で法律上及び実際にこれらの権利の侵害が見られ、女性の賃金は平均で男性の約8割に過ぎず、女性は多くの国で実効的に一定の職業から排除されており、仕事の世界における差別を被っている人は数億人に上りました。

 こういった就労に関わる基本的な権利や原則は新型コロナウイルス危機からの回復を支え、より良いより公正な仕事の世界の再建を助ける効果的で合意に基づく対応を構築する上で決定的に重要な役割を演じることができるものの、貧困、不平等、脆弱性が各国で増加する中、この権利と自由はますます大きなリスクに直面しています。

 この度発表されたILOの新刊書『Issue paper on COVID-19 and fundamental principles and rights at work(新型コロナウイルス(COVID-19)と就労に関わる基本的な原則及び権利に関する論点文書・英語)』は、児童労働、強制労働、差別、結社の自由と団体交渉という、就労に関わる四つの基本的な権利と原則に新型コロナウイルスの世界的大流行が与えている影響を包括的に概説しています。ILOの就労基本原則・権利部がまとめた本書は、非公式(インフォーマル)経済、貧困、搾取へと向かう悪循環を反転させて誰も置き去りにせずにより良い立て直しを図る方法を詳しく説いています。コロナ禍に対して緊急に求められている総合的な対応がまだ達成されていないと警告し、新型コロナウイルスに対する対応が包摂的であるよう確保するためにはこれらの権利と原則を対応の主流に置くことの重要性に光を当てています。

 本書はまた、幾つかの国でコロナ禍対応策の一環として導入された公共の集会や移動の自由に対する制限が法律上も実際上も結社の自由と団体交渉の諸権利の実現を一層困難にしており、この結果、社会的な合意に根ざした危機対応策のとりまとめが妨げられていると記しています。そして、これは、しばしば集団を代表する発言力を欠くインフォーマル経済の就労者20億人に特に影響を与えていると指摘しています。

 グローバル・サプライチェーン(世界的な供給網)における児童労働と強制労働を特定し、この問題に対処しようとの最近の取り組みも、あらゆるレベルの企業が危機及びそれに関連した深刻な需要ショックへの対処に苦慮している中、今は危うい状態にあることにも注意を喚起しています。

 家族が新たな生き残り戦略を試みる中、コロナ禍に関連するような経済その他のショックは児童労働の問題を悪化させることが知られています。これはしばしば債務奴隷、インフォーマルな人材募集・斡旋業者やプラットフォームに頼ることの増大をもたらし、労働者はますます搾取にさらされることになります。児童労働の防止には質の高い教育が得られることも決定的に重要ですが、今年休校の影響を受けた15億人の子どもの3分の1に遠隔学習の機会が保障されていません。また、多くが通学を条件とした現金給付や無償の給食に頼っていました。

 報告書はさらに、幾つかの国では強制労働の被害者や生き残った人々への支援が新型コロナウイルス対応に振り向けられていることへの懸念も示しています。新型コロナウイルス危機はまた、様々な労働者集団に対する差別を露わにし、労働市場や無償のケア労働における男女不平等を定着させました。

 報告書は国際労働基準を基盤として、経済・雇用への刺激、企業・職・収入の支援、職場における労働者保護、社会対話に頼った解決策探求の4本柱で構成される新型コロナウイルス対応の政策枠組みを提案しています。

 「優先させるべきは人々の命を守ることですが、生計手段を守ることはその助けになります。この基本原則の特別の強みはこれが相互に関連し、補強し合っているという点です。これを中心的な政策基盤とすることによって、社会的・経済的に包摂的で、最も脆弱な人々のニーズを考慮に入れることが確保された回復への道が敷設されることでしょう」と就労基本原則・権利部のフランチェスコ・ドビディオ部長代行は語っています。

 6章構成の報告書は、第1章で新型コロナウイルスと就労に関わる基本的な原則及び権利の関係を概説した後、第2章で結社の自由と団体交渉権の実効的な承認、第3章で強制労働の撤廃、第4章で児童労働の廃絶、第5章で雇用・職業に関連した差別の撤廃という基本原則・権利の四つの分野のそれぞれに対する新型コロナウイルスの影響を1章ずつでまとめた上で、「前途への道」と題する第6章で4本柱の政策枠組みに沿って具体的な提案を示しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。