ILO統計局ブログ:新型コロナウイルスと労働統計

新型コロナウイルス(COVID-19)は労働統計の入手可能性と質を損なうだろうか

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行の中、労働市場に対する急速に変化する影響を理解するために最新の労働統計の収集がかつてないほど重要になっています。しかしながら、多くの国がデータ収集方法として直接対面しての面接方式に頼っていたため、中断を余儀なくされている場合も多くなっています。

ILO統計局キーラン・ウォルシュ上級統計官

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は私たちの暮らしに根底から影響を与えています。正確で適時の情報なしに、情報を得た上での適切な政策行動は困難ですが、ウイルスの流行は労働統計生成能力にも影響を与えています。

 貴重な公式統計の生成者がこの大きな課題にどう立ち向かっているかを評価するために各国統計機関から入手した情報は、影響が世界中に及んでいること、そして各国の対応状況はそれぞれの置かれた環境、基盤構造、能力に左右されていることを明らかにしていますが、幾つかの共通のパターンや対応の仕方を特定できます。これは課題に立ち向かう諸国の手引きとして共有するに値すると思われます。

 仕事の世界に対する新型コロナウイルスの影響に光を当てるための必須事項である新たなデータの生成という状況対応の場合はさておき、現在の統計生成活動の維持だけが唯一の目的であったとしても、この課題は多くの場合、乗り越えられないほどではないとしても驚くほど困難です。各国の統計局や労働省その他の統計生成機関は、新たな需要に応えつつ、最低限のデータの質を維持し、継続性を提供するという二重の課題に直面しています。

 労働力調査とは世帯を基盤とした標本調査であり、労働市場を監視する際の主要統計源となり、雇用や失業、労働条件などに関する主な指標を提供します。電話やインターネットを通じたデータ収集が増えてきてはいますが、世界中ほとんどの国が依然として主なデータ収集方法として直接対面しての面接方式に頼り続けています。諸国の移動制限はこういった作業を強制的に中断させることになりました。これに対しては様々な対応形態があり、多くの場合、電話面接方式への移行が見られます。日本でもオンラインや郵送による回答を受け付けるようになった地域もあります。しかしながら、これは容易ではなく、より重要なこととして、計画を立てる余裕がほとんどないままに短い予告期間で行われた場合には、回答率やデータの質に相当の影響を与える可能性があります。一方で調査頻度が少ない国を中心に面接を一時的に全面中止した国もあります。

 既にコンピュータ支援型電話面接方式(CATI)やコンピュータ支援型インターネット経由面接方式(CAWI)を用いていた国は、混乱の影響が幾分少なくなっており、これはもしかすると今後のデータ収集に強靱性を付与する方法に関するある種貴重な教訓を教えてくれるものかもしれません。にもかかわらず、全ての国が就労形態変更の影響に対処しなくてはならず、調査員と回答者の両方に疾病の直接的な影響が感じられることも増えてきています。

 データ収集方式に加え、各国は回答率とデータの質を維持する方法の探求に努めています。これには調査内容を減らすことによる回答率の維持、得られる連絡情報を用いて過去に訪問した世帯への再度面接実施、回答促進のための広報キャンペーンの活用などの例が見られます。

労働統計生成機関に対する新型コロナウイルスの影響

 避けられないこととして、労働市場に対する数多くの影響を理解するために追加的なデータに対する巨大な需要が発生しています。これに対する一般的な対応は、雇用・失業に関する数字を補足できる可能性がある指標により重点を置くことです。これらの数字は今後も重要であり続けるでしょうが、それだけでは新型コロナウイルスが人々の勤労生活に与えている数多くの影響を説明するには不十分です。一時解雇や労働時間、労働市場における状況変化の理由の推定その他しばしば既に収集されている要素は、平常時には光を当てられていませんが、有用である可能性を秘めています。

 調査内容を見直して、雇用減、労働時間や収入の減少、さらには保健医療従事者や治安担当公務員、交通運輸労働者など新型コロナウイルスの影響を直接受けている人々の労働時間の増大などを通じて、人々が受けている影響に関する追加的な詳細情報が提供されるような質問を追加している国もあります。

 行政データが労働力調査の強力な補足情報源になる場合もあります。こういった情報源からデータを抽出する貴重な能力は、政府省庁の就労形態が大いに混乱している場合には脅かされている可能性があります。

 ILOでは各国のデータ生成機関と密接に連絡を保ち、正確な適時の労働統計を公表し続ける上でこれらの機関が直面している数多くの課題を認識しています。この緊密な連絡を維持し、支援を提供することに努めており、各国がこの課題に対応して取っている活動を編纂・共有し、この情報を用いた手引きの提供を続けていきます。ILO統計局では新型コロナウイルスと労働統計に関するポータルページを通じて最新の情報その他の手引きを提供しています。

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 以上はILO統計局労働力調査方法論チームのキーラン・ウォルシュ上級統計官によるILOの労働統計データベースILOSTATの2020年4月16日付英文ブログ記事の抄訳です。ILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。