ILOブログ:新型コロナウイルスと企業

小規模企業が新型コロナウイルス(COVID-19)に持ちこたえる助けになり得る政策とは

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が経済に与えている破壊的な影響が広がり続ける中、多くの中小企業の存在が危機に瀕しています。数百万の雇用と共に中小企業が崩壊するのを食い止めるために必要な政策は三つの局面に分けて考えることができるとILOの専門家は説いています。

ILO企業局マリオ・ベリオス専門官

 世界の雇用の3分の2以上を受け入れている中小・零細企業とその従業員は世界中で日々の暮らしを構成する社会・経済組織の必要不可欠な一部を成しています。しかし、大企業ほど生産性が高くなく、資産も準備金も少ない傾向がある中小・零細企業は特に脆弱であり、過去に例のない新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によってその貴重な役割が今、危機に瀕しています。

 世界的な景気後退が不況と化す現実的な展望が見える中、ウイルスの流行を抑え、労働者の収入を保ち、事業崩壊の長期的なコストを最小限に留めることが必要不可欠です。多くの活動が進行中ですが、より野心的な事業計画と途上国に対する国際的な支援が急務です。政策介入はまず明確に、最優先事項である感染者の治療と新型コロナウイルスの感染曲線の抑制から始める必要があります。対応はショックの暫定性を認識し、ミクロとマクロの両方のレベルで措置を講じるべきです。これは維持、調整、段階的撤退が適宜可能になるよう、しっかりとしたモニタリングに支えられた補完的かつ一貫性のある目標を伴う必要があります。資金の利用は通常の変数を超えて最大化すべきです。

 危機の局面毎に必要な行動は異なります。主な段階としては、1)ウイルスの拡散を防止するための経済・社会活動の停止に基づく幅広い非活動期、2)ひとたびウイルスの拡大が抑制された場合の事業活動の再活性化、3)危機前の状態の回復の三つに分けることができます。各期の長さは現在も今後も不確実であり続けると思われるため、労働者、企業、世帯を支援するタイミングは柔軟であるべきです。

新型コロナウイルス危機を乗り切るために中小企業が必要な五つのこと(英語・1分12秒)

 第1期には、企業の永久閉鎖を予防し、非公式(インフォーマル)経済に落ちるのを回避することによって、より円滑でより迅速な回復のための基盤を提供し、できるだけ多くの雇用を救うために、事業の継続性を支えることに重点を置くべきです。このためには、企業に対する一般的な支援、企業がウイルスの流行に対応する助けになるものとして生産の一時的な転換を支援すること、企業の固定費負担支援、企業が新たな市況に適応することへの支援といった措置が考えられます。第2期には、企業がより迅速に経済危機から回復できるよう、信用融資その他金融サービスを利用できる機会の緩和、需要政策の展開、近辺市場の最大限の活用、より敏捷で反応性の高い事業環境の構築といった要素が重要です。第3期における企業支援は、基盤構造のグレードアップや中小・零細企業を支援するビジネスサービスの活用など、インフォーマル経済における事業単位のニーズに配慮し、これらの事業単位を飽和状態にない部門や新たな公式(フォーマル)部門へ誘導する助けになり、技能向上を促進し、フォーマル経済に組み込まれるインセンティブを形成するような介入策を検討する必要があります。

 フォーマル経済の事業単位もインフォーマル経済の事業単位も相当の支援が必要となることでしょう。これは全ての経済単位がショックから立ち直り、より良く統合され協調的な市場経済の一部となる好機です。本質的に必要なのは経済体系全体を支援することであり、インフォーマルな経済単位に手を差し伸べる方法は、国毎に、そしてデータの入手可能性によって異なることでしょう。

 明確な情報を活用した行動、整合性、効率性のためには、政府の強い能力、政労使三者による対話、そして各地域及び各産業の関係者による措置の共同実施の組み合わせが必要不可欠となることでしょう。迅速な対応を確保するためには、既存の社会・経済機構を用いて、発表された事業計画をできるだけ詳しく広報する必要があります。

 巨額の経済的コストが不可避であり、失われた収入の相当部分を吸収するには財政赤字の大幅増が必要との合意が存在しますが、課題は世界的な不況の長期化を招く可能性がある幅広い債務不履行をできるだけ抑えることです。2019年まで欧州中央銀行総裁を務めたイタリアの経済学者マリオ・ドラギ氏は、雇用と生産力が維持されたとしたらある程度帳消しになる民間債務を伴う、より高い財政赤字水準が私たちの経済の恒常的な特徴となるであろうことに注意を喚起しています。危機は、様々なイニシアチブを明確な目標を伴う整合的な戦略に組み込んだ安定化基金あるいは緊急基金のいずれかの形態による明確な財源手段を要請しています。

 企業の最も緊急の要請は現金の入手と運営コストの削減です。この決定的に重要な必要要素は、無利子の緊急ローンや助成金、固定運営費の支払い先延べあるいは一時停止などの措置によって支えることができるでしょう。事業活動に対する官僚主義的な要求は最低限に留めるべきです。

 金融政策の貢献度は既に高く、金融部門の政策と民間銀行の参加を伴った、堅固で調整を図った戦略が必要不可欠です。銀行部門は十分な資金要件をもって危機に突入しているものの、高水準の公共負債や民間債務によって金融部門が脆弱になる可能性があります。このような状況下では債務の解消や債務再構成のための様々な選択肢が必要となり、債務によっては帳消しや長期低金利ローンへの借り換えが必要になるかもしれません。最も小規模の経済単位のための、小口金融機関を通じて少額融資を注入する新たな事業計画は野心的な目標を備えるべきですが、小口金融機関は大量の債務不履行に直面する可能性があるため、監督と支援がカギを握ります。

 企業が従業員を維持するよう支援することも決定的に重要です。賃金、訓練、生産性向上を支える助成金や、新たな製品・サービスの開発は一時解雇を回避する助けになる可能性があります。現地レベルの評価プログラムは、企業が地元の状況を理解し、生産・企業ネットワークに、より効果的に結びつく助けになる可能性があります。地元市場の全体像をより良く描くよう情報やデータを照合するには、デジタル・プラットフォームが特に効果的になり得ます。

 企業が生産性や科学技術の利用を見直し、経営慣行や手順を更新する助けになるものとして新型コロナウイルスを利用できれば、今回の経験は良い遺産になるでしょう。適正な事業環境が育まれたとしたら、新型コロナウイルス・ショックは新たな機会を作り出す可能性もあります。

 課題は膨大ですが、それに応える私たちの公約も同じくらい膨大であるべきです。

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 以上は企業支援のための概説資料の内容を盛り込んだ、ILO企業局中小企業ユニットのマリオ・ベリオス専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年4月16日付の英文投稿記事の抄訳です。