ILOブログ:新型コロナウイルスと労働者保護

新型コロナウイルスによる景気下降の打撃は若者労働者に深刻となる恐れ

 新型コロナウイルス(COVID-19)による非常事態は、年齢、所得水準、所在国にかかわらず、世界中ほぼ全ての人に影響を与えていますが、危機がもたらす景気下降の打撃は若者に特に厳しくなる可能性が高いと考えられます。その理由を五つ挙げることができます。

スサーナ・プエルト調査研究・技術専門官(写真左)及びキム・キー・マクロ経済・雇用政策専門官

 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を支えるものとして国連機関全体を挙げて若者の就労問題に取り組む「若者のための働きがいのある人間らしい仕事グローバル・イニシアティブ」は、若者の就労と新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行に関するグローバル調査の実施を通じてデータや分析を補うと共に、ウイルスの流行が仕事の世界の若者に与えている影響に光を当て、行動指向型の政策対応や解決策を論じる「若者の権利と声ブログ・シリーズ」を開始しました。この幕開けを飾る以下のブログ記事は、新型コロナウイルスの影響が若者に特に厳しいことに注意を喚起し、若者に対する特別の措置を提案しています。

 新型コロナウイルスによる非常事態は、年齢、所得水準、所在国にかかわらず、世界中ほぼ全ての人に影響を与えていますが、危機がもたらす景気下降の打撃は若者に特に厳しくなる可能性が高いと考えられます。その理由を五つ挙げることができます。

 まず、危機の影響は最も脆弱な人々に最も激しくなりますが、若者はそのような集団の一つを構成しています。ウイルスの世界的流行が社会及び経済に与える影響の点ではとりわけそう言えます。

 景気が最も良い時代でも働きがいのある人間らしい就労形態への移行は若者にとっては困難な課題でした。この状況はウイルス登場前の2019年の数字からも示されており、25歳未満の若者の5人に1人に相当する世界全体で2億6,700万人の若者が就業も就学も訓練受講もしていないニート状態にあったとみられます。

 五つの理由の一つ目として、経験豊かな年長の同僚よりも若者労働者は景気後退の影響をより強く受けることを挙げることができます。若者は真っ先に労働時間の切り下げや一時解雇の対象になる場合が多いことが過去の経験から示されています。経験やネットワークの乏しさから働きがいのある人間らしい転職先を見つけるのはより困難で、社会的保護や法的保護が十分でない労働に追いやられる可能性があります。厳しい経済情勢によって資金や財源の確保がより困難であり、事業の困難に対処できるノウハウも乏しいため、若手企業家や若手協同組合員も同じような問題に直面します。

 第2に、低・中所得国を中心に、若者の4人中3人までが農業や小規模なカフェ、レストランなどの非公式(インフォーマル)経済で働き、蓄えがほとんどあるいは全くないために、休んで自己隔離する経済的余裕がありません。

広報動画-新型コロナウイルスによる景気下降の打撃は若者労働者に深刻(英語・1分16秒)

 第3に、若者の多くがパートタイマーや臨時労働者、その場限りのギグ労働などの非標準的な就労形態であると見られますが、そのような仕事は低賃金で、労働時間は不規則であり、雇用保障は乏しく、有給休暇や年金、疾病休暇のような社会的保護はほとんどあるいは全く得られない場合が多くなっています。このような労働ではしばしば失業給付の受給資格も得られず、助けになるかもしれない雇用安定所のような労働市場関連機構が効果的でない国も多くなっています。

 第4に、若者は一般に、新型コロナウイルスの流行に特に弱い産業や経済部門で働いています。欧州連合(EU)諸国の2018年のデータからは若者のほぼ3人に1人が新型コロナウイルスの影響が特に激しい経済部門になると予想される卸売・小売業や飲食・宿泊サービスで店員やシェフ、給仕係として働いていることが示されています。こういった産業部門で働く25歳未満の若者の半分以上を女性が占めるため(例えば、スイスでは宿泊・飲食サービス部門の若者労働者の57%、英国では同部門就業者の65%が女性)、若い女性に対する影響は特に大きくなる可能性が高いとみられます。

 第5に、若者が就いている類いの仕事は全面的あるいは部分的に自動化される可能性が高いことが最近のILOの研究からも示されているように、若者は他のどの年齢集団よりも自動化の影響を受ける恐れがあります。

 このように、若者はとりわけ新型コロナウイルスによる困難を感じる可能性が高いため、各国は包括的支援・刺激策を策定する際には、若者を助ける特別措置を含み、従業員であろうと企業家であろうと、若者を支援制度に確実に含む必要があります。

 若者の失業増によって打撃を被るのは個人だけではなく、社会も大きなコストを長期的に負担することになります。景気後退期に労働市場に加わる若者は相当に収入が低くなり、それは一生続く可能性があります。若年労働者の特別の問題を無視することは、才能や教育訓練の浪費となり、新型コロナウイルス勃発の負の遺産が何十年も残ることを意味するのです。

* * *

 以上は、ILO雇用政策局のスサーナ・プエルト調査研究・技術専門官及びキム・キー・マクロ経済・雇用政策専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年4月15日付の英文投稿記事の抄訳です。