ILO統計局ブログ:保健医療

新型コロナウイルス:保健医療労働者の数は十分?

 新型コロナウイルス(COVID-19)危機が世界中で保健医療サービスを圧迫する中、ILOの統計データベースILOSTATのデータは保健医療労働者が既に不足していたことを示しています。

記事の内容を約1分半で紹介(英語・1分21秒)

 国連加盟国は「持続可能な開発目標(SDGs)」に基づき、2030年までに保健医療を全ての人に届けることを目指しています。これを阻む最大の障壁は保健医療労働者不足である可能性が高いとみられます。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は最前線でウイルスの流行と戦う保健医療サービスに注目を集めることとなりました。

 ILOの統計データベースILOSTATに含まれる国際標準産業分類(ISIC)改訂第4版の大分類Q「保健衛生及び社会事業」の従事者並びに国際標準職業分類(ISCO)の中分類22「保健医療専門職」及び32「保健医療分野の准専門職」のデータからは、この分野の労働者が大いに必要とされていることが示されています。中分類22及び32のデータは医師や看護師などの高技能労働者の数を示しています。一方、保健医療部門を示すものとしてISIC大分類Qの就業者には、管理者や清掃作業員などの保健医療職従事者以外も含み、保健医療関係の事業所と社会事業に雇用されている全ての労働者が含まれています。

 データからは、保健医療部門は重要な雇用の受け皿であるものの、保健医療労働者を採用し、定着させることに関する各国の能力は地域によって大きく異なり、この不均等な分布が保健医療サービスの利用機会における不平等を悪化させていることが示されています。

 保健医療部門の就業者に関するデータからは、高所得国は対人口比率で最も多くの高技能保健医療労働者を擁し、産業規模も大きいことが示されています。保健医療部門が最も大きい国は人口1万人当たりの就業者数が1,049人に上るノルウェーであり、これにそれぞれ就業者数800人を上回るデンマーク、日本、オランダ、スイスが続きます。10位の米国は682人、13位の英国は664人といったように、高所得国全体では580人と、わずか49人の低所得国の12倍近くになります。

 医師や看護師、助産師などの高技能保健医療労働者に関しても状況は同じであり、人口1万人当たりの高技能保健医療労働者数に関するデータが得られる97カ国の上位10カ国はドイツ、ノルウェー、スイス、オランダ、米国など、ほぼ完全に高所得国のみで占められており、わずかに7位にロシアが顔を出しているだけです。一方、多くの低所得国では、とりわけ非都市部や僻地では保健医療労働者不足によって人口の大多数が必要不可欠な保健医療サービスを受けることができません。

 世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの勃発を地球規模の保健緊急事態と宣言した時、ウイルスが保健医療制度の弱い国に広がる可能性を最も懸念しました。アフリカでは保健医療部門の就業者数は人口1万人当たり平均57人に過ぎず、地域のより貧しい国の多くがこれをはるかに下回っています。

 強固な保健医療制度が整備されている国でも新型コロナウイルスの感染拡大のような予期せぬプレッシャーは深刻な試練となり得ます。2020年4月現在、確認された感染者数が最も多い世界15カ国中14カ国についてILOSTATでデータが得られますが、そのほとんど(オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、韓国、スペイン、スイス、英国、米国)で人口1万人当たりの保健医療部門就業者数が世界平均の174人をはるかに上回っています。残りのイランは99人で、中国のデータは得られません。

 十分な数の保健医療労働者の存在は新型コロナウイルスとの戦いに勝利する上で決定的に重要ですが、それだけが唯一の要素ではなく、個人用保護具が得られることや労働安全衛生の手順、十分な休息・回復期間その他の労働条件が患者にどれだけ効果的に対処できるかを決めることになるでしょう。

 保健医療部門は圧倒的に女性で占められています。世界的に保健医療部門の就業者の7割を女性が占め、100カ国近くから得られるデータからは高技能保健医療労働者の72%が女性であることが示されているといったように、不均等に多くの女性が感染患者を手当てする地球規模の戦いの最前線に立っています。

 一方で、女性は育児や高齢者介護といった無償のケア労働も担っており、新型コロナウイルスの影響による休校は、仕事と家庭責任の両立に苦慮している多くの女性保健医療労働者にさらなる課題を提示しています。

 新型コロナウイルスの世界的大流行によって世界の保健医療サービスが注視される中、ILOSTATのデータは多くの国が既に以前から保健医療労働者不足に直面していたことを示しています。この主な原因として、長時間労働や低賃金、労働安全衛生上のリスクの存在がそもそも就業を躊躇させ、多くの資格を有する保健医療労働者がこの職業を早々に立ち去る結果を招いている点を挙げることができます。人材不足の背景にある原因に対処するため、ILOは2017年にWHO、経済協力開発機構(OECD)と共に「保健医療のために働く事業計画(Working for Health Programme)」を開始しました。保健医療分野の労働市場データの改善、複数利害関係者の関与、社会対話を基盤として、この事業計画は諸国や加盟国政労使がこの分野の人材に対する投資を拡大する戦略を策定するのを手助けしています。

国 名 保健医療部門 保健医療職
  人口1万人当たりの就業者数(人) 女性比率(%) 人口1万人当たりの就業者数(人) 女性比率(%)
高所得国 580 76
ノルウェー 1049 79 411 77
デンマーク 901 81 292 81
日本 860 71
オランダ 858 82 341 76
スイス 801 76 390 77
フィンランド 769 86 289 80
スウェーデン 745 79 290 77
オーストラリア 711 76
カナダ 703 79
米国 682 78 337 76
アイスランド 677 78 336 77
ドイツ 669 77 430 78
英国 664 79 254 75
ニュージーランド 663 78
ベルギー 630 79 272 75
フランス 619 79 225 72
アイルランド 590 80 262 76
イスラエル 558 74 181 67
オーストリア 531 77 277 74
ルクセンブルク 519 76 165 72
マルタ 455 64 280 58
ポルトガル 452 83 203 76
韓国 406 81
ウルグアイ 400 76 172 71
香港 392 83
スロバキア 376 84 217 82
スペイン 356 77 202 70
チェコ 352 81 209 82
スロベニア 341 81 227 78
リトアニア 336 85 218 89
ハンガリー 322 80 184 80
イタリア 319 70 201 59
エストニア 308 89 178 86
ラトビア 297 89 152 92
ポーランド 281 83 183 82
フランス領ポリネシア 274 72
チリ 267 75 155 71
クロアチア 265 80 181 76
バルバドス 262 77
アルゼンチン 259 67 109 69
シンガポール 252 72
キプロス 242 69 109 63
パナマ 241 74 101 68
ギリシャ 237 67 175 61
サウジアラビア 217 35
オマーン 201 42
クウェート 170 59
台湾 168 81
アラブ首長国連邦 156 44 145 50
ブルネイ 141 64 146 59
カタール 121 51
バーレーン 31 55

上位中所得国 158 70
キューバ 508 69
ベラルーシ 408 82
ロシア 388 79 295 81
モルディブ 321 38 102 71
カザフスタン 260 76
ブルガリア 235 80 156 76
ブラジル 229 74 173 72
セルビア 224 75 149 76
北マケドニア 216 78 152 80
ルーマニア 213 79 153 77
コロンビア 208 78
モンテネグロ 205 79 167 85
マレーシア 200 79
アゼルバイジャン 189 76
ベネズエラ 188 75
南アフリカ 184 77
アルメニア 174 80
トルコ 173 71 85 60
モーリシャス 172 58 103 55
ボスニア・ヘルツェゴビナ 169 73 90 69
コスタリカ 169 64
ドミニカ共和国 168 77 86 70
スリナム 139 77
ジャマイカ 130 79
アルバニア 128 72 91 64
メキシコ 125 64 95 60
エクアドル 120 69 80 62
ペルー 120 67 23 18
ベリーズ 113 76 48 57
ボツワナ 102 63
イラン 99 55
ヨルダン 98 47
タイ 98 77 65 77
トンガ 98 53 55 79
ガイアナ 97 76 81 74
セントビンセント・グレナディーン 92 76
アルジェリア 90 49
ナミビア 77 72
グアテマラ 72 65 46 68
サモア 45 65 36 69
フィジー 43 73 63 68
サンタルチア 40 67
アンゴラ 79 53 39 50
バングラデシュ 34 43 31 42

下位中所得国 57 55
ウクライナ 282 81
ジョージア 189 75 148 85
モルドバ 181 80
ブータン 160 21
キルギスタン 148 83 122 82
ガーナ 133 53 48 61
エスワティニ 127 49 66 43
モンゴル 124 82 133 84
ボリビア 115 67 92 67
エルサルバドル 105 67 81 64
サントメ・プリンシペ 102 32
ニカラグア 92 71
ソロモン諸島 90 57 87 57
カーボベルデ 84 71
ホンジュラス 83 70 48 73
エジプト 81 61 61 57
パレスチナ 80 44 65 43
レソト 76 62
カメルーン 72 47
スリランカ 71 66 55 70
インドネシア 67 67
ベトナム 60 63
パキスタン 53 29 36 34
ザンビア 53 47 29 53
フィリピン 51 66 65 75
スーダン 47 58
東チモール 44 71 23 28
コートジボワール 43 59 36 47
インド 43 47
カンボジア 35 67 38 58
モロッコ 32 58
ミャンマー 30 68 18 68
ラオス 24 70 32 71
パプアニューギニア 16 62
バヌアツ 9 62 22 46

低所得国 49 35
アフガニスタン 262 10 14 16
タジキスタン 98 67 82 62
リベリア 73 43 2
トーゴ 55 36 42 30
ハイチ 52 63
セネガル 40 55 19 64
コンゴ民主共和国 37 36
エチオピア 37 57 20 48
モザンビーク 37 59 14 53
ルワンダ 37 59 30 55
タンザニア 37 58
ジンバブエ 35 65 24 60
ウガンダ 31 50 33 55
マダガスカル 30 56 11 44
シエラレオネ 29 52 20 56
イエメン 29 25
ブルキナファソ 28 38
ガンビア 24 50 19 55
ニジェール 19 47 28 16
マラウイ 16 48
マリ 12 58

アフリカ 57 54
米州 368 76
アラブ諸国 119 39
アジア太平洋 113 64
欧州・中央アジア 418 78

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 以上はILOの労働統計データベースILOSTATの2020年4月3日付英文ブログ記事の抄訳です。ILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。