ILOブログ:新型コロナウイルスと労働者保護

新型コロナウイルスによって縁辺に追いやられる不安定労働者

 あらゆる労働者が新型コロナウイルスの何らかの影響を受けていますが、不安定雇用や非標準的な就労形態の労働者は、有給休暇や失業保険、その他の決定的に重要な保護を受けられない場合も多いため、一層の打撃を被っています。

ジャニン・バーグ上級経済専門官

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が雇用に与える影響に関するマスコミの報道は、一時解雇の可能性や従業員の経済的な結果に重点を当ててきました。公式的には一時解雇でないものの、契約が更新されない労働者や労働時間が実質ゼロにまで削られた労働者、職業紹介所から「すみません、もう仕事がありません」と謝られただけの労働者がどうなるかに関する議論はほとんどないように見られます。こういった労働者は国によっては失業保険や有給疾病休暇のようなその他の決定的に重要な保護の対象になっていないかもしれません。

 この数十年、臨時労働者やパート労働者、派遣労働者その他の下請け労働者、あるいはギグ経済におけるもののような新たな就労形態の労働者が世界中で増えてきています。こういった労働者はほとんど常に自営業に分類されています。

 多くの国が社会保障の加入・受給には最低限の週労働時間や最低限の収入、最低限の勤続月数、最低限の払込月数などの資格を定めているため、多くの労働者が十分な保護を受けられずに置き去りにされ、リスクにさらされています。様々な雇用取り決めの下で働く労働者が増えるにつれ、十分に確立した制度を備える国でさえ、失業保険の適用範囲が縮小し始めています。

 多様な雇用取り決めの増大に鑑み、ILOは1990年代にパート労働者や派遣労働者、家内労働者の均等待遇を促進する一連の国際労働基準を採択しました。例えば、「1994年のパートタイム労働条約(第175号)」の第6条は、「法定の社会保障制度は、パートタイム労働者が比較可能なフルタイム労働者と同等の条件を享受するよう調整」されるべきと定めています。より最近の「2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)」は、少なくとも基本的な水準の社会保障を全ての人に保障し、できるだけ多くの人々に可能な限り速やかに適切な保護水準を漸進的に確保すべきことを提案しています。

 新型コロナウイルス危機を好機とし、今こそこの助言に留意し、すでにある制度の再構築・再建を図ることが望まれます。雇用上の取り決めに関わりなく、全ての労働者が危機に関連した労働時間の減少を経験したり、職を失った場合には所得支援を受け、具合が悪くても働きに出ることがないよう気分が悪い時には自宅に留まり、保健医療を受けることができる必要があるのは明白です。

SDG指標1.3.1-失業者の実効保護率:失業給付金を受給している失業者の割合、データが入手できる最新年

出典:ILO, World social protection report 2017-19, figure 3.18

 この多様な世界においては働き方の柔軟性が必要ですが、労働者に必要な保護を犠牲にしてこの柔軟性を達成すべきではありません。新型コロナウイルスが世界にとって必要な目覚ましとなることを期待しましょう。

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 以上は、不安定雇用の広がりに関する刊行物『Non-standard employment around the world: Understanding challenges, shaping prospects(世界の非標準的雇用:課題の理解と展望の形成・英語)』の執筆調整役を務めたILO包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のジャニン・バーグ上級経済専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年3月20日付の英文投稿記事の抄訳です。