ILO/IDB新刊

二酸化炭素排出ゼロ経済への移行によって中南米・カリブで2030年までに新たに生まれる雇用は1,500万人分と予想

記者発表 | 2020/07/29

 米州開発銀行(IDB)とILOはこの度、二酸化炭素の排出量を正味でゼロにした経済への移行は、中南米・カリブ地域だけで2030年までに1,500万人分の雇用を新たに生むとの見通しを示す画期的な研究成果を発表しました。『Jobs in a net-zero emissions future in Latin America and the Caribbean(炭素排出量を正味でゼロにした未来の中南米・カリブにおける仕事・英語)』と題する報告書は、中南米・カリブ地域において炭素排出量を正味でゼロにした経済に移行した場合、化石燃料由来電力や化石燃料の採掘、動物ベース食物生産の諸産業で750万人分の雇用が失われるものの、消失分を補うにはあまりあるほどの2,250万人分の雇用が農業や植物ベース食物生産、再生可能エネルギー方式電力、林業、建設業、製造業といった部門で生み出されるとの予想を示しています。

 したがって、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行からの持続可能な回復を支えるには、地域は早急に働きがいのある人間らしい仕事を創出し、より持続可能で包摂的な未来を構築する必要があります。

 報告書はまた、この種のものとしては初めてのこととして、植物ベース食物を増やす一方で肉類や酪農製品の消費量を減らす、より健康的でより持続可能な食卓への移行がいかに雇用を創出し、地域の独特の生物多様性に対するプレッシャーを緩和することになるかにも光を当てています。この移行によって中南米・カリブ地域の農業食品部門にはフルタイム労働者換算で1,900万人分の雇用が生まれるのに対し、畜産、養鶏、酪農、漁業といった部門からは430万人分の雇用が失われるとみられます。

 報告書はさらに、働きがいのある人間らしい仕事の創出や二酸化炭素排出量を正味でゼロにする経済への移行のための青写真として、労働者の再配分を円滑化する政策、農山漁村部におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進、新たなビジネスモデルの提示、移動を強いられた人々や企業、地域社会、労働者への支援と社会的保護の向上などを提案しています。そして、雇用を創出し、不平等の縮小を助け、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を導く炭素排出量正味ゼロの達成に向けた長期戦略を設計するには、民間セクター、労働組合、政府の三者による社会対話が必要不可欠と説いています。

 4章構成の本書は、第1章「炭素排出量を正味でゼロにする目標の達成:理由と方法」で、環境面から見た中南米・カリブ地域の現状をまとめた上で、炭素排出量を正味でゼロにした経済に移行する利点と根拠を示しています。第2章「炭素排出量が正味でゼロの経済において求められる労働者」で、炭素排出量ゼロ経済が雇用に与える影響を分析し、続く第3章「公正な移行のための政策選択肢」で、そのような経済における仕事が働きがいのある人間らしい仕事となるよう確保するために必要な政策を提示しています。最後に、第4章「産業部門毎の公正移行達成方法」で、炭素排出量をゼロにした場合に雇用創出力が大きい産業部門を豊富な実例と共に紹介しています。

新型コロナウイルスからの環境に優しい回復の道を示す中南米・カリブ地域

 新型コロナウイルス後の仕事の世界を環境に優しいものに変えた場合、地球上で最も生物多様性が高い地域で数百万人の仕事を生み出す可能性があります。ただし、それが働きがいのある人間らしい仕事となるよう確保するには適正な政策の整備が必要です。本書をまとめたカトリーヌ・サゲILO調査研究局勤労所得・公平ユニット長はこのように説いています。

カトリーヌ・サゲILO調査研究局勤労所得・公平ユニット長

 新型コロナウイルスは動物原性感染症、すなわち動物から人間に移る感染症に注目を集めることになりました。新型コロナウイルスやエボラ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MARS)といった感染症は自然に十分な敬意を払わない場合に何が起こり得て、これが人の健康だけでなく、より長期的に社会や未来をいかに損ない得るかを示しています。

 正しく用いた場合、この環境は酸素、食料、医療用産物、そして文化の様々な側面の基盤を提供してくれます。この困難な時代に得られた数少ないプラスのことは、自然界と仕事の世界を含む日常生活の切っても切れない関係を改めて私たちに理解させたという点です。今私たちの前にある課題は、コロナ後の立て直しが提示している機会を捉え、持続可能な雇用、包摂的な成長、公平な社会制度を生み出すような形で人間と環境の関係の再均衡を図ることです。この新たな、より良い未来の構築において仕事の世界のグリーン化が中心的な役割を担う必要があり、そうすることができます。

 アマゾンの熱帯雨林における脱炭素化の取り組みは、二酸化炭素を回収しつつ、雇用を生むという二重の利益をもたらすと思われます。生態系の保護あるいは回復を助ける再植林その他の措置を含む公共雇用計画が決定的に重要な役割を演じると見られます。

 しかし、新たなグリーン部門の仕事は適正な政策で形作らない限り、自動的に働きがいのある人間らしい仕事になるわけではありません。農業部門のディーセント・ワーク不足がなかなか解消されないことは既に知られています。非公式(インフォーマル)部門から公式(フォーマル)部門への就労形態の移行も簡単には解決できません。例えば、コロンビアの首都ボゴタ市の公共交通網で、7台の非公式なミニバスを、より良い労働時間、安全な労働条件、社会的保護を伴った仕事と結び付いた公式バス1台で置き換えたとすれば、多くの運転手が補償も受けられずに失業します。単純に一つの問題を別の問題に置き換えるわけにはいかないのです。

 公正かつ公平の条件を満たさない低炭素経済は求められているコロナ禍後のモデルを提示することにもなりません。例えば、現在、脱炭素化を通じて創出される新たな雇用の約8割が伝統的に男性に占められてきた分野におけるものであり、これは男女平等に向けた歩みを損なうことになる可能性があります。失業給付や年金、保健医療といった現在の社会的保護構造を適応させる必要もあります。

 持続可能な開発目標に寄与し、同時に地元の利害関係者にも受け入れられる、気候に優しい解決策の設計には慎重を要します。しかし、これを助ける古くからの効果が立証された手段が存在します。これが社会対話です。例えば、コスタリカでは政府が多数の利害関係者と交渉して、環境に優しい持続可能な経済へと向かう全国的な動きの中で誰も置き去りにされないことの確保を目指す公正移行のための労働戦略を含む、幅広く受け入れられている脱炭素化国家計画を立案しました。

 排出量を正味でゼロに抑える未来へ至る道は楽でも平坦でもないでしょうが、これは経済的に強靱で、社会的に公正で、持続可能な環境の未来へ至る唯一の道なのです。


 以上は次の2点の英文広報記事の抄訳です。