新型コロナウイルスと仕事の世界

新型コロナウイルス後のより良い仕事の世界の形成に向けた公約が築かれたILOグローバルサミット

記者発表 | 2020/07/13

 2020年7月1~2及び7~9日に開かれた「新型コロナウイルス(COVID-19)と仕事の世界グローバルサミット」では、新型コロナウイルス危機から回復する際の中核的な要素として、より良い仕事の世界を構築する決意と公約が参加した世界のリーダーらから示されました。

 ガイ・ライダーILO事務局長は閉会の辞で次のように語ってこれを歓迎しました。「危機の克服に向けて表明された共通の目的意識、決意の水準の高さは、いくら誇張しても言い過ぎることは難しいと思います。そして、より良いものの構築。ここを基点として他の全てのことが可能になります。仕事の世界の立ち直りを図る上で展開できる非常に重要なツールが複数存在します。その一部は、社会対話や国際労働基準などといった私たちにはとてもお馴染みのものですが、比較的新しい資産もあります。それは『仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言』です。前に進む道を見つけるロードマップとして、これがいかに貴重なものであるか、私たちは理解しているように思えます」。

 史上最大の政労使のバーチャル集会となったサミットは、2部にわたって開かれました。7月1~2日に開かれた第1部では、地域別イベントとして、アフリカ米州アラブ諸国アジア太平洋欧州・中央アジアの各地域の政労使、地域機関の代表らが出席し、ウイルスの流行が各地の経済、労働市場、社会に与えている甚大な影響や、各国の様々な対応が紹介されました。7月2日のアジア太平洋地域のイベントでは、域内労使を代表して、日本経済団体連合会(経団連)の松井博志労働法制本部参事(ILO理事)と国際労働組合総連合(ITUC)アジア太平洋地域組織の吉田昌哉書記長が新型コロナウイルス後の仕事の世界のあり方について見解を述べました。国際使用者連盟(IOE)のアジア地域副会長として発言した松井理事は、持続可能性と強靱性を企業戦略の中核的要素と位置づけ、民間セクターの重要な役割や持続可能で生産的な企業の重要性などを掲げる「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」が新型コロナウイルスの世界的大流行の中で前途への道を示していると説きました。吉田書記長は労働分配率の低下や所得不平等の問題を強調し、市場主導型から所得主導型へと転換し、包摂的かつ公平で強靱な経済成長モデルを通じて、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を全ての人に実現することを目指す過去12年間の動きの継続を確保することがウイルスの世界的大流行後の世界で必要なことと訴えました。

 第2部の討議のたたき台として、7月7日に開かれた「地域の日」には、各地域のILO地域総局長へのインタビューを交えて、五つの地域別イベントのハイライトと結論が紹介されました。西本伴子ILOアジア太平洋総局長は、アジア太平洋地域のイベントから得られた三つの重要なメッセージとして、1)危機からのより良い回復に向けたエネルギー、野心、楽観性、2)人を回復戦略の中核に据えること、3)協働の必要性を挙げました。

 8日の「グローバル・リーダーの日」には、70人以上の政府首脳や国家元首、世界的に著名な使用者団体及び労働組合のリーダー、国際連合、世界保健機関(WHO)、国際通貨基金(IMF)世界貿易機関(WTO)経済協力開発機構(OECD)などの国連・国際機関トップが参加しましたアントニオ・グテーレス国連事務総長は、このグローバルサミットを「政労使代表が勝利する対応策を形成する機会」と位置づけ、危機からの回復は「保健か仕事と経済かの二者択一ではなく、これらは相互につながっているため、全ての側面において勝利するか、全ての側面において敗北するかのいずれか」であると唱えました。さらに、「ILOの創設100周年記念宣言、持続可能な開発のための2030アジェンダディーセント・ワークと経済成長に関する8番目の持続可能な開発目標(SDG)といったように、行動と解決策のための強固な基盤は既に存在しています。一致団結することによって、私たちは、より強く、より明るく、より平等で、より環境に優しく、人間らしく働きがいのある仕事を伴った全ての人のためになる未来へ向けて、この危機から抜け出すことができるでしょう」と訴えました。テドロス・アダノム・ゲブレイェソスWHO事務局長も「私たちの制度、仕事、生計手段、経済は密接に絡み合っています」と指摘した上で、「私たちは結束して、私たちを守ってくれる者たちを守る義務があります」と説いて、保健医療労働者の労働安全衛生のための強固で持続可能な国内計画を策定することを各国政府及び保健医療部門の労使団体に向けて呼びかけました。

 「グローバル・リーダーの日」には、日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長も演説し、「危機を克服し、コロナ後の社会を創造していく道のりは容易なものではありません。厳しい現実と格闘しながらも、希望を持ち続けなければなりません。我々の未来をより明るいものに変えることができるのは、私たち自身の意思と行動であることを強調したいと思います」として、世界の政労使の一致結束を訴え、金融危機から得た教訓を忘れるような過ちを繰り返さないためにも、根本的な政策転換と社会の構造改革が必要と説きました。

 最終日の9日は「ILO加盟国政労使の日」として、187のILO加盟国の大臣や労使リーダーが参加し、前日までのイベントを振り返り、「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」を用いて新型コロナウイルスの流行からの回復を支え、より良い仕事の世界を構築する行動を導く方法について意見交換を行いました。加藤勝信厚生労働大臣も登壇し、新型コロナウイルスの影響を受けている企業や、障害者や非正規労働者などの弱い立場の労働者に配慮した日本の各種支援策を紹介し、皆の英知と強みを結集して持続可能なより良い仕事の未来を構築しようと呼びかけました。

 サミットでは、ウイルスの世界的大流行が露わにした仕事の世界の大きな脆弱性に対処する戦略も検討されました。とりわけ、◇社会的保護もなく非公式(インフォーマル)経済で働いている人々のニーズへの対処、◇生産的な完全雇用と持続可能な企業の促進、◇貧困削減、平等、気候変動対策が回復過程の中核的な要素となるよう確保する方法、◇国連の2030アジェンダの達成を国際社会が改めて公約する方法などが採り上げられました。


 以上は日本関連情報を盛り込んだジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。