セミナー報告

ILO-JICA共催「児童労働とビジネスに関するオンライン勉強会」開催

ニュース記事 | 2020/06/11
2020年6月3日、ILOとJICA共催の児童労働とビジネスに関するウェビナーが開催されました。
 
*当日の模様は、こちらより視聴できます。

本ウェビナーは、ILOとJICAが児童労働撲滅の動きを加速させるパートナーシップ強化のために継続的に議論を重ねてきたことを踏まえて開催され、ILO-IOE作成の「ビジネスのための児童労働の手引き」の紹介、児童労働のCOVID-19の影響や企業活動におけるリスクを含め、児童労働について基礎からビジネスとの様々な関わりについて学ぶイベントとなりました。ILOはこのウェビナーを2020年の「児童労働反対世界デー」を記念した日本での主要な活動の一つと位置づけています。今年の世界デーのテーマは「新型コロナウイルス:子どもたちを児童労働から守ろう、今はより一層!」です。

ウェビナーには世界各国のJICA、ILOの職員のほか、厚生労働省、外務省、駐日EU代表部、企業、市民団体セクター、法曹界などから140人を超える参加者が集まりました。

ILOアフリカ地域総局の児童労働プロジェクトチーフ・テクニカル・アドバイザーである小笠原稔氏がイベント全体の進行役となり、以下の3名が発表しました。
 
  • ベンジャミン・スミス(ILO本部 労働基本原則・権利部 児童労働上級専門家)
  • キャサリン・トーレス(ILO本部 労働基本原則・権利部 プログラム・オペレーション・シニアオフィサー)
  • 山下契(ちぎる) (JICAガバナンス・平和構築部 ガバナンスグループ 法・司法チーム 企画役) 
3名の発表後は、ILOアジア太平洋総局 労働基本原則・権利・上級専門家であるバラティ・フラグ氏の司会で質疑応答が行われました。
 
イベントの冒頭、ILO駐日事務所 高﨑真一駐日代表、JICAガバナンス・平和構築部 澤田寛之次長より開会の挨拶がありました。ILO駐日事務所を代表して挨拶した高﨑氏は、児童労働の撲滅はILOだけでなく世界の多くのステークホルダー(関係者)にとって常に中心的な目標の一つであると述べ、児童労働が未だに存在するという事実を受けて、ILOを含む様々な組織が課題に対して不断の努力を続けていることを述べました。また、インドネシアでのJICA専門家としての経験から、現地社会での施策実施の重要性と、施策に当たってJICAが果たす重要な役割を強調しました。さらに、児童労働撲滅に向けてILOとJICAが連携を強化していくことに期待を示しました。
 
澤田氏は、ビジネスと人権に関する国際的な関心の高まりに対応するためのJICAの活動について述べ、児童労働を含むカカオ産業を取り巻く開発課題に幅広いステークホルダー(関係者)と取り組むために設立された「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を紹介しました。また、2025年までに世界の児童労働をなくすというSDGsのターゲットを達成するため、世界中のパートナーと連携することの重要性を強調し、特にILOとの協力関係を通じて、今後の児童労働分野での活動拡大の考えを示しました。さらに、このような児童労働に対する協働の取り組みが、現在日本政府が取り組んでいる「ビジネスと人権に関する国家行動計画」の実施に寄与することへの期待を示しました。
 
最初の発表では、ILO本部児童労働上級顧問であるベンジャミン・スミス氏が児童労働の定義について触れ、続いて児童労働とCOVID-19危機との関係に焦点を当てました。スミス氏は、児童労働を「子どもから幼少時期、潜在的能力や尊厳を奪い、肉体的・精神的発達に有害な仕事」として定義されることを説明した上で、関連する国際労働基準として、1973年の最低年齢条約(第138号)1999年の最悪の形態の児童労働条約(第182号)を取り上げました。また、児童労働に対する新型コロナウィルス感染拡大の影響については、6月12日に公表予定であるILOとUNICEF共著の報告書(『COVID-19 and child labour: A time of crisis, a time to act(新型コロナウイルスと児童労働:危機の時は行動の時・英語) 』)に言及し、生活水準の低下、学校閉鎖などが児童労働に与える影響について概説しました。

ILO本部シニア・プログラム・オペレーション・オフィサーのキャサリン・トーレス氏は、ビジネスと児童労働の関係と、今年の世界デーに向けて日本語版が作成された「ビジネスのための児童労働の手引き:子どもの権利を尊重し児童労働をなくすビジネスの進め方」を紹介しました。トーレス氏は、今回日本語に訳されたこの手引きは、企業が国連のビジネスと人権に関する指導原則に記されたデューデリジェンスの要件を満たすための案内書であると述べ、企業が行動を起こすべき理由や、デュー・デリジェンスサイクルについても説明しました。また、トーレス氏は、サプライチェーンにおける児童労働撲滅のための適切な解決策模索のために、ビジネスを支援することを目的とした「児童労働プラットフォーム」も取り上げ、ビジネスと政府の行動を結びつけるプラットフォームへの広い参加を呼びかけました。
JICAガバナンス・平和構築部 ガバナンスグループ 法・司法チーム 企画役の山下契(ちぎる)氏は、人間の安全保障が重要な課題と認識されている中で、2019年よりJICA内で児童労働問題に取り組み始めたことに言及しました。JICAは2020年設立の「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を通して、JICA/民間セクター/市民団体/学界との協働を促進し、社会的、経済的、環境的に持続可能なカカオ生産の支援を目指しています。具体的な活動内容は、会員間での知識や経験の共有/協働/日本国内外のステークホルダー(関係者)へのアウトリーチであり、現在はガーナでILOと協力して、児童労働禁止地域(Child Labour Free Zones)の原則やガイドラインを策定するプロジェクトを実施しています。山下氏は、このプラットフォーム拡大を通して、国内外のパートナーシップ強化や「ビジネスと人権」の推進へ寄与することへの期待を示しました。

各発表の後には、参加者からの質問に発表者が応えるQ&Aを、労働基本原則・権利上級専門家(ILOアジア太平洋地域総局)のバラティ・フラグ氏が進行しました。質問内容は、児童労働と、家事の手伝いや子どもの学びについて、強制労働と児童労働の関係、ILOと日本企業の協働事例、また、JICAと民間セクターの協働についてなど、多岐にわたり、発表者と活発な議論が行われました。

最後に、小笠原氏は、参加者の積極的な参加へ感謝するとともに、本ウェビナーがILOとJICAを含むステークホルダー(関係者)との更なるパートナーシップ強化につながることへの期待を述べ、ウェビナーを締めくくりました。(了)