新型コロナウイルスと社会的保護

新着資料:将来的な危機予防策として途上国に社会的保護のギャップ解消を提案するILO

記者発表 | 2020/05/14

 現在、世界人口の55%に当たる40億人もの人が社会保険や社会的な扶助の対象から外れています。失業給付の受給資格があるのは世界の失業者の2割に過ぎず、地域によってはこの割合を大きく下回っています。

 新型コロナウイルス(COVID-19)危機はこのような途上国における壊滅的な規模の社会的保護の適用不足を露わにしました。ILOは5月14日に発表した2点の概説資料で、危機期間中の疾病給付の支給などといった、途上国における新型コロナウイルスの発生に対処する上での社会的保護措置の役割を詳しく検討した上で、現在見られる社会的保護の欠落は回復計画を危うくし、数百万人を貧困にさらし、今後同種の危機に対処する際の世界の備えに影響を与える危険性を指摘し、その場限りの危機対応策を包括的な社会的保護制度に転換することによって初めて途上国の回復は持続的なものとなり、将来的な危機も防ぐことができようと分析しています。

 『Social protection responses to the COVID-19 pandemic in developing countries(途上国における新型コロナウイルスの大流行に対する社会的保護分野の対応・英語)』と題する概説資料は、社会的保護を「危機の際に個々人に支援を提供する上で必要不可欠な仕組み」と表現し、質の高い保健医療を受けることを阻む経済的な障壁の除去、所得保障の向上、非公式(インフォーマル)経済で働く人々への支援拡大、収入・雇用の保護、社会的保護や就労その他の介入措置の提供改善など、複数の国で導入された対応措置を検討しています。そして、「ウイルスは富める人と貧しい人を差別しないものの、その結果は非常に不均等」であるとして、手頃な良質の保健医療を受けられるか否かが生死を分かつ問題になっていることを指摘しています。

 概説資料はさらに、エボラの流行の際にこのウイルスに焦点を当てたことによって、マラリアや結核、HIV(エイズウイルス)/エイズといった他の死因による死亡率が悪化した例を挙げ、新型コロナウイルスだけに焦点を当てると、日々人々の命を奪っている他の病因に対する保健制度の対応力が低下する可能性があるため、そのような事態を避けるよう警告しています。

 社会的保護スポットライト・シリーズの別の概説資料『Sickness benefits during sick leave and quarantine: Country responses and policy considerations in the context of COVID-19(疾病休暇及び隔離中の疾病給付:新型コロナウイルスに関連した各国の対応と政策考慮事項・英語)』は、新型コロナウイルスの保健危機は疾病給付の適用不足の二つの主な悪影響を露わにしたと指摘しています。一つはこのような保護がない場合、人々は具合が悪いか自己隔離の必要がある時でも仕事に行くことを強いられる可能性があり、他の人の感染リスクを高めること、そしてもう一つは、関連する収入喪失が労働者とその家族の貧困リスクを高め、これは長く影響が残る可能性があるということです。そこで、概説資料は公衆衛生支援、貧困予防、人権である保健及び社会保障の促進という三つの利益をもたらすであろう疾病給付の適用率とその妥当性における不足を縮小する緊急の短期的措置の必要性を説いています。提案されている措置には、非標準的な就業形態やインフォーマルな就業形態の人々、自営業者、移民、脆弱な集団に手を差し伸べることにとりわけ配慮しつつ、全ての人に疾病給付の適用を広げること、所得保障が確保されるよう給付水準を引き上げること、給付支給の迅速化、給付範囲を予防、診断、治療措置や病気の扶養家族の世話や隔離に費やした時間にも拡大することといったものが含まれています。

 概説資料をまとめたILO社会的保護局のシャハラ・ラザビ局長は、医療費や収入の喪失は何十年にもわたって一家が築き上げた仕事や蓄えを簡単に壊してしまう可能性があることを指摘し、社会的保護の欠如が貧しい人々に影響を与えるだけでなく、比較的生活に余裕があった人々の脆弱性も露わにすることを示した新型コロナウイルス危機は「目を覚まさせるきっかけ」を作ったとしています。そして、強固で包括的な社会的保護制度を備える国は危機対応や危機からの回復においてずっと強い立場にあることが世界中の事例から再び明確に示されたとして、「社会的保護の重要性と社会としてこれに投資する緊急性についての公衆の認識の高まりによって生み出された勢い」に乗って、将来的な危機に対する備えを確保することを、政策策定に携わる人々に呼びかけています。

 社会的保護局からは他に、疾病給付についての入門文書、日本を含む幅広い諸国の新型コロナウイルスに対する社会的保護分野の対応をまとめ、政策考慮事項を示した資料も出されています。アジア太平洋諸国の対応をまとめた資料には、コロナウイルス陽性者や隔離患者に対する傷病手当金の支給や雇用調整助成金の受給資格の緩和などといった、日本の措置も複数紹介されています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。