新型コロナウイルスと仕事の世界

新型コロナウイルス危機は社会的保護制度強化を促す警鐘

記者発表 | 2020/04/24

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は人命に関わる悲劇的な事態に加え、貧困や不平等を増大させる可能性が高く、高齢者、障害者や慢性疾患を抱える人々、移民労働者、避難を強いられた人々に特に悪影響を与える可能性があります。

 ILOは新型コロナウイルスが経済・労働市場に与えている影響に対応して各国が講じている政策を集めたデータベースを設けていますが、社会的保護局では社会的保護分野の対応を注視するモニタリングサイトを開設しています。ここで集められた情報を分析した概況資料『Social protection responses to the COVID-19 crisis: Country responses and policy considerations(新型コロナウイルス危機に対する社会的保護分野の対応:各国の対応と政策考慮事項・英語)』は、国民全てを対象とした効果的な保健・社会的保護制度が整備されている国は新型コロナウイルスが生計に対して提示している脅威から国民を守る、より良い機能が備わっていることを明らかにしています。資料は、頑健な保健・社会的保護制度を欠いている国は、にわか仕立ての形で政策や介入策を策定する必要があり、これは対応を制限したり遅らせる可能性があると指摘し、政府は社会的パートナーである労使その他の利害関係者と共に新型コロナウイルス危機を警鐘として用い、社会的保護制度の強化に動くべきと説いています。

 日本でも医師の証明書がない傷病手当金受給申請も認めるなどの手立てが講じられていますが、多くの国が幅広い分野で危機に対応した全国的な社会的保護政策を実施しています。これには、一般税を財源として通常は受給資格のない労働者に疾病給付を拡大、失業保護制度を用いて短時間就労制度を通じて労働者を維持する企業を支援、通常は失業保険の受給資格がない労働者も含む一時解雇された労働者への失業給付支給、世帯対象所得扶助や、食料品や食事などの現物給付、食べ物が得られることを確保するための現金給付などが挙げられます。

 2020年2月1日~4月17日の期間に失業や生計喪失といった壊滅的な影響の軽減に向けて講じられた社会的保護措置は少なくとも108カ国・地域548件に上ります。この約5分の1(19.3%)が特別社会手当や助成金関連で、これに失業保護関連措置(15.7%)、保健関連(9.5%)、食料割当(9.1%)が続きます。欧州・中央アジアでは3分の2以上、米州では半数以上、アジアでは約半数、アフリカでも3分の1以上、アラブ諸国でも約3分の1の国がウイルスの世界的大流行に対応して社会的保護措置を実施しています。

 概況資料は社会的保護や保健の適用範囲が不十分であった場合、当該国のみならず国際社会全体が危険にさらされると指摘し、そのような国には、保健医療や所得扶助を受ける機会の確保など、保健・社会的保護制度の能力向上に向けた緊急措置を整備できるよう緊急国際支援が提供されるべきと説いています。

 資料をまとめたILO社会的保護局のシャハラ・ラザビ局長は、「ウイルスの世界的大流行はパートタイム労働者や臨時労働者、個人事業主など、その多くが非公式(インフォーマル)経済で働くある種の労働者に対するものを中心に、世界中で社会的保護制度の深刻なギャップを露わにしました」として、「社会の緩衝剤、経済の安定化装置として貴重な役割を演じる社会的保護は、余分な経費ではなく、投資と見なくてはなりません」と強調しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。