船員の福祉

2018年国際船員福祉賞:ハイエン台風被災船員家族の支援に尽力したフィリピンの司祭などが受賞

記者発表 | 2018/05/10
2018年国際船員福祉賞ディアク・リンデマン博士福祉パーソナリティー(個人)部門受賞者のジャスパー・デル・ロサリオ司祭

 「2006年の海上の労働に関する条約第13条に基づき設置された特別三者委員会第3回会合(ジュネーブ・2018年4月23~27日)」の開催に合わせ、ジュネーブのILO本部で4月23日に2018年国際船員福祉賞の授賞式が行われました。国際船員福祉支援ネットワーク(ISWAN)が主催するこの賞は、船員に際だった福祉サービスを提供した個人や組織に授与されます。2月に他界したジョゼフ・チャコ氏とリーナ・ジョゼフさんに授与された船員福祉功績死後追贈賞に加え、港湾部門:ロッテルダム港、船員センター部門:ミッション・トゥー・シーフェアラーズ・ブリズベーン(オーストラリア)、海運会社部門:ウォーレム、ディアク・リンデマン博士福祉パーソナリティー(組織)部門:ノーティラス福祉基金、ディアク・リンデマン博士福祉パーソナリティー(個人)部門:ジャスパー・デル・ロサリオ司祭といった今年の各受賞者には、グレッグ・バインズILO副事務局長から賞が授与されました。

 授賞式前にILOのインタビューに応じたフィリピン出身のジャスパー・デル・ロサリオ司祭(41歳)の船員との関わりは、マニラの北100キロのスービック湾港にあるキリスト教系非政府組織(NGO)「船員の会」で働き始めたことから始まりました。ここで司祭は、通常、家族を養い、子どもを学校に行かせられる定期的な給料を得るために家族の伝統からこの道を選ぶ多くの船員が直面している困難な労働条件にすぐに気づくに至りました。それはきつい仕事が多いだけでなく、6ヵ月から9ヵ月、時にはそれ以上の期間、家族や恋人から離れて孤独を堪え忍ばなくてはならないことを意味するのです。

ハイエン台風が去った後のタクロバン市(フィリピン・2013年11月)

 世界の船員全体の約3分の1がフィリピン出身者で、家族と離れて暮らすことには慣れているものの、国が自然災害に襲われると、同じように大きな影響を受けます。2013年11月にタクロバン地域に襲来したハイエン台風の時もそうでした。この台風の死者は6,000人を超え、何百万人もが避難所も食べ物も生計手段もなく取り残されました。司祭は町に近づけるようになると、船員コミュニティーに支援を提供するために直ちにタクロバンに向かいました。それは大変な作業でした。まず、フィリピンから遠く離れた船上で働いており、時には故郷の悲劇を知りもしなかった船員の妻子に直ちに支援を提供することから始めました。地元に船員家族の記録もなかったため、所在地把握も困難で、一軒一軒歩き回って近所に船員の家がないか尋ね歩きました。次に、地元の他のNGOと共に家の再建を手伝い、食料品を買うための緊急用現金を支給し、新しい生活を始める助けになるように事業支援金を提供しました。必要な人には小型漁船も提供しました。災害のニュースが広がるにつれ、ロサリオ司祭が所属する国際NGOネットワークは、時に家族の安否も確認できないタクロバン地域出身の船員に心理社会的な支援を提供し、通信が回復してから自宅に電話をかけられるようテレホンカードを無料で配りました。主に内航船ですが、中には強風によって破壊され、時には陸に打ち上げられて通りの真ん中に残されたものもあり、この船員に対する支援も提供しました。ある者は命を落とし、生き残った多くの者達も台風で自宅を失い、基礎的な支援を必要としていました。

 タクロバンの生活はゆっくりと元に戻り、司祭はスービック湾港にドックを持つ船のフィリピン船員向けの通常の活動に戻りました。様々なトピックのカウンセリングの会を開き、交通費がない場合を考慮して無料の交通手段を手配して家族との再会を支援しています。

 司祭の最近の活動にはマルタで遺棄された船舶のフィリピン船員に対する支援が含まれています。家族を助けるために幾らかの仕送りをし、子どもに奨学金を支給しています。

 「今は完全にフィリピン船員コミュニティーの一部になったように感じます」との感想を述べるロサリオ司祭は、ILOの「2006年の海上の労働に関する条約」について、船員の虐待を防止し、より良い暮らしを促進するのに必要不可欠な法律文書になったと評価しています。2013年に発効し、日本も批准するこの条約は、船員の働きがいのある人間らしい労働条件を定めると共に船舶所有者にとっては公正な競争のための条件を形成する助けになっています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。