第106回ILO総会仕事の世界サミット

第106回ILO総会仕事の世界サミット:ハイレベル・パネル討議と3人の女性大統領の基調講演を通じて女性にとっても男性にとってもより良い未来を呼びかけ

記者発表 | 2017/06/15
第106回ILO総会仕事の世界サミットのハイレベル・パネル討議ハイライト(英語)

 2017年6月15日に開かれた第106回ILO総会仕事の世界サミットでは、働く女性により良い未来を形成する方法について話し合ったILO加盟国政労使が参加するハイレベル・パネル討議に加え、マルタ、ネパール、モーリシャスの3人の女性大統領が基調講演を行い、仕事の世界における男女平等の前進に向けて講じた世界の主導者としての活動を紹介しました。サミットは、2019年の創立100周年に向けて、全ての人のためになる未来の形成を目指してILOで展開されている七つの100周年記念イニシアチブの一つである「働く女性イニシアチブ」の一環として開催されました。

 142カ国・地域の調査をもとに、今年3月の国際女性の日に発表されたILOとギャラップの報告書は、女性は有償の仕事に就くことを望んでいるものの、その希望と労働市場の現実の間には依然として相当の落差があることを示しています。冒頭演説を行ったガイ・ライダーILO事務局長は、「仕事の世界の変容が強まる中、次の世紀に向かって歩む我々に今必要なのは、女性にとっても、男性にとっても、より良い未来が確実に実現するよう改めて公約する意識」と説き、女性が就くことを欲している有償の仕事は、「過小評価されたり、差別や嫌がらせ、暴力が存在する環境の中で行われるものであってはならず、働きがいのある人間らしい仕事でなくてはならない」と強調して、「大胆な選択が行われ、勇気ある措置が講じられない限り、職場における女性の平等は発生しないだろう」との考えを出発点にすべきことを訴えました。

 サミット前日の6月14日に発表されたILOの新刊書『World employment and social outlook: Trends for women 2017(世界の雇用及び社会の見通し-女性動向編2017年版・英語)』は、2025年までに男女の労働力率の差を25%縮小するという、主要20カ国・地域(G20)の目標値が全ての国で達成されたとしたら、世界の労働力は2億400万人増え、世界の国内総生産(GDP)は3.9%伸びて世界経済は5.8兆ドル膨らみ、税収は1.5兆ドル増える可能性を示していますが、事務局長は「この数字は無視できない」として、このような取り組みの経済的便益に光を当てました。

 サミットにはカナダのジャスティン・トルドー首相もビデオメッセージを寄せ、職場における女性のエンパワーメントに向けた自国の施策を紹介した上で、女性の完全な経済参画がもたらす利益を強調し、男女平等が現実のものとなる未来を共に構築しようと呼びかけました。

 加盟国政労使代表などが参加したパネル討議では、仕事と家庭の調和やケア経済、女性のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を阻む壁としての暴力と嫌がらせ、男女賃金格差などディーセント・ワークを得る上で女性が直面している主な課題を取り上げ、そのような障害を克服するために何が必要かについて活発な意見交換が行われました。国際労働組合総連合(ITUC)のシャラン・バロウ書記長は、女性が平等に見られず、その仕事が評価されないために女性の存在が目に見えないものであるならば、「それは人類に対する犯罪」と強く訴えました。国際使用者連盟(IOE)のリンダ・クロムヨング事務局長は、「女性だけでなく男性も含み、もっと多くの人がケア経済に従事できるよう、学習によって取得できるハードスキルや理系スキル、社会生活に必要なソフトスキルの組み合わせをできるだけ早い時期から育み始めることに教育制度は焦点を当てる必要がある」と説いた上で、もっと多くの男性の関与に向けて、ケア経済の仕事の地位を上げ、もっと魅力的な仕事にする必要性を指摘しました。

 パネル討議に続き、3人の女性大統領が仕事の世界における男女平等の前進に向けて採用された実践的な措置を紹介する基調講演が行われました。

男女平等に関する緊急の行動を国際社会に呼びかけるマルタの大統領

第106回ILO総会仕事の世界サミットにおけるマルタのマリールイーズ・コレイロ=プレカ大統領による基調講演(英語)

 マルタのマリールイーズ・コレイロ=プレカ大統領は、「男女の不平等は、道徳的に重要な喫緊の問題であるだけでなく、私たちの経済にとっても決定的に重要な課題」として、ライダー事務局長同様、「公平な経済参加と男女平等に向けた歩みを加速する」緊急の行動を国際社会に呼びかけました。

 世界全体で見た女性の労働力率は2017年でもなお、男性より27ポイント近く低い49%強に過ぎず、状況は2018年になっても変わらないと予想されます。大統領もこのようなデータやG20サミットの労働力率男女間格差25%縮小の目標を引用した上で、「社会、経済、政治の諸面における男女の平等な代表性を確保しようとの数十年に及ぶ歩みを経てもなお、格差は許し難いほど開いたまま」と指摘し、「女性が排除され続ければ、世界経済の多大な損害は続く」と説いて、世界的な男女格差縮小の緊急の必要性を強調しました。さらに、「男女均等の達成によって、私たち皆が利益を得るであろう相当の経済機会」に焦点を当てるよう民間セクターに呼びかけて、男女格差の縮小を手助けする上で世界のビジネス界が果たすべき重要な役割に注意を喚起しました。また、「仕事の世界における男女格差が単に途上国の問題だと考える自己欺瞞に陥ることはできない」として、先進国における男女賃金格差の問題も大きな懸念の要因であることを指摘しました。そして、「この世界史上決定的に重要な時期に、女性の社会的、政治的、経済的エンパワーメントという遺産の構築に向けて協力し合わなくてはならない」と呼びかけ、このために必要なこととして、「女性にとっての尊厳あるディーセント・ワークの労働条件の不可分の一部として健全なワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に光を当てる政策の推進」を訴えました。

 ライダー事務局長は、「模範による主導を志すフェミニスト大統領」としてコレイロ=プレカ大統領を参加者に紹介し、とりわけ、「働く母親を労働力に留め、職場における企業レベルの男女平等プランを推進する相当の努力をもって、労働力率と仕事の質における男女格差の縮小」に取り組む政権の努力を評価しましたが、大統領はマルタが働く女性に開いている無料で保育所を利用できる機会や、昨年達成された欧州連合(EU)一高い就業者増が生産年齢にある女性に直接的な利益を与えたことなどを挙げて、同国の立法、体制、政策がいかに女性のニーズに対象を絞っているかを紹介しました。この点で、大統領は、尊厳ある労働からの複層的な排除に直面している女性に注意を払う重要性を指摘し、とりわけ、しばしば貧困や不安定性、紛争から逃れるための必死な手段である移住が多くの女性に搾取的な労働や虐待、暴力に対する脆弱性の増大などを含む現代の形態の奴隷制への暴露などのリスクを形成していることを挙げ、移住女性・少女と共に立つことを訴えました。

 大統領はまた、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)にも触れ、SDGsに沿って全ての女性と女児に適切な教育の機会を確保することの重要性に光を当て、「SDGsはとりわけ脆弱な人々、疎外された人々、抑圧された人々に代わって、これらの人々と共に行動を起こすよう私たちを奨励し、その力を与えることによって将来に向けた行程表を示す」と評価しました。

 そして、男女平等の達成には、女性の声が届き、あらゆる影響レベルにおいて、女性のニーズに対する行動が起こされる必要があるとして、管理運営や政策策定の地位にある女性の増加と並び、社会や政治の影響力ある地位にもっと多くの女性が含まれる必要性を強調しました。

平和で公正かつ平等な社会の基盤を支えるのは女性のエンパワーメントと説くネパールの大統領

第106回ILO総会仕事の世界サミットにおけるネパールのビディヤ・デヴィ・バンダリ大統領による基調講演(英語、講演はネパール語)

 ネパール初の女性大統領であるビディヤ・デヴィ・バンダリ大統領は、「社会は差別と不平等のぐらぐらした基盤の上に長く立ち続けることはできず、女性に対する差別を終わらせるために、私たちは皆、有意義な努力を払う必要がある」と説いて、平和と正義を社会に確立するには経済、政治、社会の諸面における女性のエンパワーメントが決定的に重要と訴えました。「女性の政治的、経済的、社会的、文化的エンパワーメントなしには平和で平等かつ公正な社会の構築など想像できないのは事実」と説く大統領は、「数十年来の努力にもかかわらず、国際的な公約の実施は弱いまま」として、仕事の世界における女性の歩みがのろく、妨げられ続けており、女性の潜在力の活用が低いままでは衰退が続くと指摘しました。

 大統領には、学生指導者、女性の権利活動家、労働組合活動家といった活動家としての長いキャリアがあります。ライダー事務局長は、「労働者の権利、とりわけ働く女性の権利を擁護する生涯を通じての活動家」と大統領を呼び、1994年の議員選出後に政府及び国家機構の全ての公選機関において女性代表に3分の1の席を割り当てる制度の制定に尽力したことや2009年に防衛大臣に就任してネパール国内に留まらずあらゆる性別役割の固定観念をはねのけたその役割を紹介し、その生涯を通じて身を捧げてきた価値と原則の中に男女平等に向けた戦いがしっかりと定着していることに光を当てました。

 バンダリ大統領は、ネパールが達成した女性のエンパワーメントにおける数々の前進の例として、22年前で66%近くあった同国の女性の労働力率が2015年現在は80%超に達して南アジアで最も高いことや、職場の男女公平改善やより安全な労働条件をもたらした法制改革を挙げ、「弱い経済や長い移行期と課題によって課せられた制約にもかかわらず、ネパールが達成した男女平等に向けた大きな前進は偶然の結果ではない」として、長い闘争の歴史を明かしました。

 何年にも及ぶ内紛の歴史と2015年に起こった2回の破壊的な大地震から抜け出そうとしているネパールの現状に鑑みると、大統領の演説は特に心に響きます。政治と経済の困難にもかかわらず、同国はその開発課題及びディーセント・ワーク課題の中心に社会正義を据えようと努め、児童労働撲滅、男女平等と社会的保護の推進、労働法改正、ILOの中核的条約8本中7本の批准などの前進を示しています。2015年に公布された新憲法は人権に強く焦点を当て、全ての労働者への社会的保護、公正な労働条件、団体交渉、結社の自由を求めるディーセント・ワーク関連規定を含んでいます。

 1966年からの加盟国であり、1994年には現地事務所を設けたネパールにおいて、ILOは政労使の建設的な社会的パートナーシップの構築に重要な役割を果たしてきました。今年の総会で行われた理事選挙の結果、ネパールは政府側副理事に選出されました。2016年12月に開かれたILOとネパールの50年のパートナーシップを記念する式典には、ライダー事務局長も出席しました。

働く女性により良い未来をと訴えるモーリシャスのギュリブ・ファキム大統領

第106回ILO総会仕事の世界サミットにおけるモーリシャスのアミーナ・ギュリブ・ファキム大統領による基調講演(英語)

 ILO総会で初めて演説したモーリシャス初の女性大統領であるアミーナ・ギュリブ・ファキム大統領も「働く女性により良い未来を」と訴えました。大統領は、「性差による不平等をなくし、女性に力を付けることによって、アフリカの10億の民が秘める生産潜在力が高められ、この大陸の開発潜在力が大きく押し上げられる可能性がある」として、アフリカに相当の経済的利益をもたらすであろう男女均等の目標に向けた、より強力なアファーマティブ・アクション(積極的差別是正策)を呼びかけました。

 女性が労働力の39%を占めるモーリシャスは現在、中所得国ですが、高所得国への仲間入りを目指しています。大統領は、「男女格差の縮小に向けてアフリカは相当の進歩を達成したものの、女性は依然として逆境にある」として、いまだに女子は男子よりも中等教育の恩恵を受ける可能性が相当に低く、資源・資金や規範に対する女性の影響力はほとんどなく、これは女性の就労機会を狭め、したがって農業や企業、労働市場における稼得潜在力が制限されている現状を指摘し、「全ては結局のところ一つの冷厳な現実、つまり、仕事の世界における女性の歩みはのろく、いまだに就労機会、仕事の量、質の点で課題が満載」である現実を示すものと指摘した上で、男女平等への投資はアフリカ地域が直面している課題を解決し、大陸の経済的潜在力を押し上げる助けになる可能性があると説き、男女格差の縮小に向けたさらなる投資を呼びかけました。一方で大統領は、「アフリカ経済に対するアフリカ女性の相当の貢献」を忘れてはならないとして、「アフリカの食料の大半を育てているのは女性であり、女性が所有する事業は全体の3分の1を占める」と説明し、農業に従事する女性や起業家の女性は世界のどの地域よりも多いことや、女性議員が3分の1近くを占める議会がアフリカには11カ国あり、ヨーロッパよりも多いことを紹介しました。

 大統領はさらに、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を構成する17のSDGsは、男女平等に関するSDG5とディーセント・ワーク及び経済成長に関するSDG8に不可分に結びついていると説き、「男女均等に向けて歩み、包括的かつ総体的にSDGsの達成に取り組めば、乳幼児死亡率の改善、労働力率や収入の向上、児童に対するさらなる教育投資の醸成などといった様々なプラスの成果が同時に形成される可能性」があることを強調しました。そして、ILOに対し、他の国連機関同様、2030アジェンダの関連する目標及びターゲットの達成を手助けするのに必要な行動について話し合い、それを実行することを呼びかけ、仕事の世界が変化する中で、ILOの「仕事の未来100周年記念イニシアチブ」が女性により良い未来を形成するために必要な刺激となることへの期待を示しました。

 ライダー事務局長は、ギュリブ・ファキム大統領がその職務の影響力を用いて男女平等を推進し、ロールモデルとなり、「ええ、女性なら可能でしょう」という明確なメッセージを発信すると約束したことを強調し、モーリシャス及びアフリカ大陸における仕事の未来に関する経験と識見をこのサミットに、そしてこのサミットを通じて「働く女性100周年記念イニシアチブ」にもたらしてくれたことに対する感謝の意を表しました。

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 以上は次の4点のジュネーブ発英文広報資料の抄訳です。